『やり直し』できる神さまと私のすれ違い

吉川緑

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未来編

2-7.未来の異変

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 (未来……。ここには、滅びた故郷の星があるだけと思っていたのに)


 ルルの想像と、現実はまったく違った。
 故郷の星は、表面に機械の集合体が密集し、さながら基地のような、まったく別の星になっていた。

 時の庭園から未来へと向かい、ユアが作った泡の中にルル、ユア、クロたちは浮いている。


「やはり……、人類の一部は月に逃げ、生き延びていたようだな。クロ」

「はい。先日、神界で説明を受けた通り、『月へはユア様の権能が及ばない』ようでしたな」

「……出来れば、私にも分かるように説明していただけると……」


 ユアとクロの、ルルを見る目はどこか冷たい。どうしてそんな目を、と問う間もなくユアから不可思議な言葉が付きつけられる。


「ルル、お前は、『あの事件』で生き残った人間の末裔……つまり、未来から過去へ送られた人間だ」

「?」

「俺はずっとおかしいと思っていた。いくら変えようとしても変わらない、お前の運命と言うものが」


 ユアの表情には何の感情も見えない。話もまったく見えないが、深刻な話とは理解できる。ルルは、何を言えば良いのかも分からず、ただまつ毛を下げることくらいしかできない。


「先日、神界へ行き、俺は疑いを深めた。そして今回、こうして未来に来て、ようやく確信できた。お前は月で生まれ、あの星の過去へ送られたのだろう。ゆえに、俺が運命を変えようとしても、できなかった」


 月には月の神がいる、と続けるユアの表情は苦々しく見えた。
 何を言えばいいのか、とルルが思った時、周囲に異変が起こった。


「ご説明、ありがとうございます」


 気づいたときには、泡の周りは囲まれていた。武装した魔導士や騎士、銃を手にしている者もいる。その中でリーダー格と思われる一人の女が、すっと前に出た。


「むう。これは時魔法……ですな。ユア様」

「……」


 ユアは何も話そうとしない。事態を見極めようとしているのだろうか。ルルは思わず身を固くして、ユアの腕を掴む。


「その通りです。私たちは『月の民』。ボン・ボールが起こした事件によって、故郷の星を追われた哀れな民です」

「ふん。我の研究から時魔法の開発まで進めたと言う訳か。しかし、これはどういうつもりだ? もし、ユア様へ何か手を出そうものなら、まずは我から相手になるぞ」

「我の研究……? あぁ、なるほど。ただの使い魔かと思いましたが、ボン・ボールさんの成れの果て……と言う訳ですね」


 その女はどこか面白そうに口を隠した。その裏には歪んだ笑顔でもあるのだろう、ルルはそう気づいて、眉をひそめる。ちらとユアの顔を見ると、きつく結んだ唇がどこか震えていた。


(……やり直して、情報を得ている?)

「まさか、『神殺し』とは、ずいぶんなことをしているようだな……」

「さすがに、時の神様は話が早くて助かります。どこまで話を聞きましたか?」

「月の神アルテミスを殺したこと。お前とルルが入れ替わっていること。そして、お前が『やり直し』をしなければ、クロの罪は消えないこと……。他にあるか?」

(何の話だ?)


 ルルは思わず、ユアをじっと見る。あとで説明してやる、とユアの目は語っていた。ルルは、仕方ない、と目の前に浮かぶ女を強く睨む。


「いいえ。過去の話はそれくらいですね。ただ、もう一つだけ……」


 そう言うと、女は片手をあげ、ルルたちを囲む兵へ合図をする。静かな暗闇の中、兵たちは各々の武器を構える。


「あなたを、みな恨んでいるのですよ。殺したいほどにね。時の神、ユア!」

「控えろ! 下郎ども!」


 クロが大声で威嚇したのを皮切りに、激しい攻撃がルルたちのいる泡へ襲い掛かる。ががが、と絶え間ない銃声や魔法の炸裂音に、ルルはユアを掴んだまま、思わず顔を隠す。


「くっ……。」

「ユア様! ここは我が……」

「いやクロ。一回、引くぞ」

「既にアルテミスを討った私たちが、そんなことをさせるとでも?」

「ふん。『時の神』の力を……舐めるなよ!」


 ユアは顔を歪めながら、右手をぱちんと鳴らす。
 眩いばかりの光がルルの視界を真っ白く奪う。どこかで大きな爆発音が聞こえた気がした。

 ルルが、光が収まった、と思った瞬間。もうそこは、見慣れた『時の庭園』だった。


「ユア様……」

「あぁ、ひとまず時間を戻した……」

「何がどうなっているのか、私にも分かるように説明してください……」


 これじゃあ、完全に蚊帳の外じゃないか、ルルは唇をかみしめて拳を強く握る。

 『未来から過去へ送られた』、『月の民』、『お前とルルが入れ替わっている』ルルには聞きたいことがたくさんあった。何から聞いて良いのかルルには判然としない。それでも。


(勝手に私の運命を語らないで欲しい。ちゃんと話して、ちゃんと決めていたいから)


 強く、とても強く、ルルはそう思うのだった
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