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柚貝三矢編
生霊と呪い
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(悪い予感、そういうものばかり当たる……それは人の常……か)
卜部はようやくたどり着いた。『柚貝三矢』の受けた、ひどい霊障の原因に。
犯人は、自分で自分を呪った女子高生『柚貝三矢』こと『いちみや ゆい』
『柚貝三矢』、彼女は胴体と首が繋がっていない。いつも逆立ちの姿勢だ。
手を足のように使い、足を手のように使う。
己の生首を足に乗せ、にやっとした不気味な笑いを、卜部へ向けてくる。
「どうして分かりましたか? 私たちは、昨日出会ったばかりでしょう」
「ヒントはいくつかあった。でも、確信を持ったのは、ここに来て、だよ」
割れたガラスにまみれ、家具のない荒れた家。手入れのされていない花壇。
そんな家の中、柚貝の部屋だけは片付けられていた。
そして、柚貝が霊障に気づいた最初の日、四月十一日のこと。
悲鳴を聞きつけて、家族ではなく、『隣のおじさんが来てくれた』
これらから、考えられることは、そう多くはないだろう。
「他の家族はもう、住んでいないのか……?」
「父は、よその女と消え、母は、どこにいることやら。兄弟はいません。それだけ言えば分かりますかね」
「……言っていることは分かる」
「そうですか。さっき卜部くんは『どうして自分を呪った』って私に言いましたけど、それはちょっと違うかもしれないですね」
「どういうことだ?」
「私は呪ったつもりなんてありませんから。ただ、『私の何が悪かったんだ』と鏡に向かって聞いただけですから」
柚貝は淡々と言ってのけた。しかし、目や表情はどこか暗い。
卜部からすれば、それは十分に呪いにあたる代物だと言えた。
呪いとは、儀式ではない。供物や道具がなければできないわけじゃない。
心の歪みこそが呪いなのだ。呪った者は、すべからく心の形が歪んでいる。
きっかけが後悔だろうと、憎悪だろうと、どういうものであっても同じだ。
歪んだ感情が、心の中にとどめておけなくなり、どす黒くあふれ出す。
それこそが呪いの本質だ。
そして、そういう心に犯される人間を、卜部は見てきた。
『心霊現象』、『生霊』それらは、人の心から溢れた物の、副産物に過ぎない
柚貝は己の姿を鏡で見て、何かを強く思ってしまったのだ。
自分の心から溢れ出たどす黒い感情を、鏡で自分に向けてしまった。
あるいは、『見ようとしなかった』だけで、すでにその時には、『いちみやゆい』から『柚貝三矢』へ、変容していたのかもしれない。
(なんてことしてるんだ。親のやったことで、自分を責めても意味がないだろう)
卜部は柚貝へ向き直る。さっさと終わらせてやりかった。
ぼろぼろになった家で、ひとりで過ごさせるのも、自分を責めるのも。両方。
「今夜、このまま解呪しようと思うがいいか? 下の階を借りて準備するから、制服に着替えて後で来てくれ。夜中になるから、まだ時間はある。何か話しておきたいことはあるか?」
「私はそこで何をするの?」
「対話だ。『いちみや ゆい』との」
「……まだ、私は受け入れられているのか、分かっていない」
卜部は、思わず、柚貝に近づいて、きっと睨みつける。
「クラスで普通に接されていただろう。『絵を描ける生活に戻りたい』それだけでいいじゃないか。親は親だ」
「この家は? 私はどこに行けば?」
自分も一歩間違えば、柚貝と同じだったかもしれない、と卜部は思う。
書置きがあった分、マシだったのかもしれない。いや、家がある方が羨ましいか、と思い直す。
父母が突然いなくなったのは卜部も同じだった。
理由は違うし、卜部の両親二人は、おそらく仲も悪くないのだろう。
それに、いつか戻ってくるものと、楽観的にしている。
しかし、柚貝は違う。両親の仲は破綻し、寄る辺を無くしていた。
だから、自分の存在理由まで問うたに違いない。
まだ、時間が必要なのだろうか―――。卜部がそう思った時だった。
「あなたが、何とかしてくれないの?」
柚貝が、逆立ちした生首の姿が。いや、『生霊』に憑かれた人間が。
邪悪な臭いをぷんぷんさせながら、狂気と絶望を携え、卜部へ迫ってきた。
(まずい……。『いちみや ゆい』の名前を出したのが、まずかったか?)
もう、それは『柚貝三矢』ではない、憑りつかれた何かだった。
卜部はようやくたどり着いた。『柚貝三矢』の受けた、ひどい霊障の原因に。
犯人は、自分で自分を呪った女子高生『柚貝三矢』こと『いちみや ゆい』
『柚貝三矢』、彼女は胴体と首が繋がっていない。いつも逆立ちの姿勢だ。
手を足のように使い、足を手のように使う。
己の生首を足に乗せ、にやっとした不気味な笑いを、卜部へ向けてくる。
「どうして分かりましたか? 私たちは、昨日出会ったばかりでしょう」
「ヒントはいくつかあった。でも、確信を持ったのは、ここに来て、だよ」
割れたガラスにまみれ、家具のない荒れた家。手入れのされていない花壇。
そんな家の中、柚貝の部屋だけは片付けられていた。
そして、柚貝が霊障に気づいた最初の日、四月十一日のこと。
悲鳴を聞きつけて、家族ではなく、『隣のおじさんが来てくれた』
これらから、考えられることは、そう多くはないだろう。
「他の家族はもう、住んでいないのか……?」
「父は、よその女と消え、母は、どこにいることやら。兄弟はいません。それだけ言えば分かりますかね」
「……言っていることは分かる」
「そうですか。さっき卜部くんは『どうして自分を呪った』って私に言いましたけど、それはちょっと違うかもしれないですね」
「どういうことだ?」
「私は呪ったつもりなんてありませんから。ただ、『私の何が悪かったんだ』と鏡に向かって聞いただけですから」
柚貝は淡々と言ってのけた。しかし、目や表情はどこか暗い。
卜部からすれば、それは十分に呪いにあたる代物だと言えた。
呪いとは、儀式ではない。供物や道具がなければできないわけじゃない。
心の歪みこそが呪いなのだ。呪った者は、すべからく心の形が歪んでいる。
きっかけが後悔だろうと、憎悪だろうと、どういうものであっても同じだ。
歪んだ感情が、心の中にとどめておけなくなり、どす黒くあふれ出す。
それこそが呪いの本質だ。
そして、そういう心に犯される人間を、卜部は見てきた。
『心霊現象』、『生霊』それらは、人の心から溢れた物の、副産物に過ぎない
柚貝は己の姿を鏡で見て、何かを強く思ってしまったのだ。
自分の心から溢れ出たどす黒い感情を、鏡で自分に向けてしまった。
あるいは、『見ようとしなかった』だけで、すでにその時には、『いちみやゆい』から『柚貝三矢』へ、変容していたのかもしれない。
(なんてことしてるんだ。親のやったことで、自分を責めても意味がないだろう)
卜部は柚貝へ向き直る。さっさと終わらせてやりかった。
ぼろぼろになった家で、ひとりで過ごさせるのも、自分を責めるのも。両方。
「今夜、このまま解呪しようと思うがいいか? 下の階を借りて準備するから、制服に着替えて後で来てくれ。夜中になるから、まだ時間はある。何か話しておきたいことはあるか?」
「私はそこで何をするの?」
「対話だ。『いちみや ゆい』との」
「……まだ、私は受け入れられているのか、分かっていない」
卜部は、思わず、柚貝に近づいて、きっと睨みつける。
「クラスで普通に接されていただろう。『絵を描ける生活に戻りたい』それだけでいいじゃないか。親は親だ」
「この家は? 私はどこに行けば?」
自分も一歩間違えば、柚貝と同じだったかもしれない、と卜部は思う。
書置きがあった分、マシだったのかもしれない。いや、家がある方が羨ましいか、と思い直す。
父母が突然いなくなったのは卜部も同じだった。
理由は違うし、卜部の両親二人は、おそらく仲も悪くないのだろう。
それに、いつか戻ってくるものと、楽観的にしている。
しかし、柚貝は違う。両親の仲は破綻し、寄る辺を無くしていた。
だから、自分の存在理由まで問うたに違いない。
まだ、時間が必要なのだろうか―――。卜部がそう思った時だった。
「あなたが、何とかしてくれないの?」
柚貝が、逆立ちした生首の姿が。いや、『生霊』に憑かれた人間が。
邪悪な臭いをぷんぷんさせながら、狂気と絶望を携え、卜部へ迫ってきた。
(まずい……。『いちみや ゆい』の名前を出したのが、まずかったか?)
もう、それは『柚貝三矢』ではない、憑りつかれた何かだった。
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