冒険者はスライムにおちる

metta

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04 踏んだり蹴ったり

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「あんのくそスライム……! まだ俺の中にいんのか……!」

 グレンが死ぬ思いで攻防戦を繰り広げたスライムは、腹立たしい事に小さくなってグレンの腹の奥にまだいるようだ。ギルドの受付で一瞬暴れたあとに動きはなく、今は大人しくしてはいるが、「はいそうですか」と放置するわけにもいかない。
 しかし、昨日の最後に自分の中から無理矢理引っ張り出したスライムのいた位置が、どうにも自力で引っ張り出せる限界の位置なように思うが、今はどう考えてもそれよりもっと奥にいる。これは恐らく他人の手を借りないと取り除く事は出来ないだろうと、グレンはうんざりしながら、のろのろと歩を進めていた。

「――ンさん……」
「1人じゃ絶対無理だな……最悪だ……」 
「――レンさん !」
「あいつに言って……うぅ……嫌だな……」 
「グレンさん!」
「――ん?」

 腹の奥にいる存在に気を取られていたグレンは、自分を呼び止める声に、はっとして振り返った。

「えっとお前は……エイル、だったか?」
「――はい、そうです!」

 振り返った先には、淡い茶髪に青い目をした青年が立っていた。この青年は現在進行形でグレンが遭っている散々な目のきっかけとなった新人冒険者の1人だ。
 引率した3人の中では一番筋がよく、それ故に気負いといきがりと過信が透けて見えて、今後どうなんだろうなと思っていた新人でもある。

「あの、昨日は助けていただいて、本当にありがとうございました。あと、本当に申し訳ありませんでした」
「反省して次に生かす気があるなら、それでいい。 引率が俺の請けた依頼だからな」 

 昨日の帰り時点では、グレンの説教に若干不貞腐れていたように見えたが。実際はそうでもなかったのか、反省したのか、ギルドでもお説教を食らったからか。
 どれでもかまわないが、自分に向かって殊勝な様子で綺麗に礼をするエイルの様子に、最悪な気持ちは少しだけマシになった。
 「じゃあ頑張れよ」と帰ろうとしたグレンだったが、慌てて服を掴まれ引き留められてしまう。なかなかの力だ。

「あ、あの……! お詫びとお礼に昼食をご馳走させて欲しいんですが 」
「……あれは仕事だし、新人に著らせるほど落ちぶれているつもりはないんだが」
「だけど、ギルマスに俺達のせいでグレンさんは時間と労力をかなり割いた上に、 休んだり装備品が痛みでもしたら多分赤字だって」
「あのギルマス……」

 確かに赤字なのは事実だが、新人に対して「お前のせいだ」というのも少し違うだろう。昨今の新人も新人だとは思うが、まず依頼方式や報酬はじめ、ギルドの育成体制がぐだぐだなのが一番駄目だとグレンは思う。 実地に放り込むより先に教えるべきことも色々ある。そういうのを教えてから組合員に依頼しろよ。それが全員のためだ、というのが正直な気持ちだ。

「確かに昨日は色々あったけどな。別に……」

 そんな気を遣ってもらわなくてもかまわない。
 そう言おうとしたが、しょんぼりと項垂れるエイルの姿が目に入ってしまい、結局グレンは断り文句を言う事ができない。昨日のいきがりはどうした、そんな捨てられた子犬みたいな目はしないで欲しい。
 グレンは悩んだ。昨日から丸一日食事をとっていないし、腹のスライムも今のところは大人しい。急にスライムが暴れだしたらと天秤にかけてみたが、さすがにそろそろ食事は食べた方がいい。

「……著るというなら、お前が新人を抜けて一人前になってからにしてくれ。今日のところは割り勘で一緒に飯を、というのなら構わない」
「は、はい! 是非!」

 ぱっと顔を上げて嬉しそうに笑うエイルに、グレンは「まあいいか」と気持ちを切り替えた。
 値段が安くてそこそこ美味い定食屋を選んで向かうと、日頃混んでいる店だが、昼のピークは過ぎているからか、空いている。ただ献立はもう売り切ればかりだったので、残っているものをと頼んで席に座った。

「昨日は逃げてしまって、本当にすみませんでした……」
「もうそれはいいって。そもそも自分の力量を考えて、敵わないと思ったら引くことは大事だ。ただ、俺がスライムプールに落ちた時は引っ張り上げてくれるだけでよかったから、あの判断は駄目だが」

 ただ、その判断もあながち間違いでもなかったりする。エイル達新人三人の力量ではあの巨大スライムは倒せなかっただろう。戦闘型の相性の問題もある。

「まあ俺はあまり強そうに見えないし、侮る気持ちも分からないでもない。だがこの引率の依頼に関しては、何か不測の事態があっても対処できる割振りをギルド側もしているからな」
「はい。すみませんでした……」
「あとはそうだな……余裕があれば少しは役に立ちそうな情報を持って帰るとかすると、連絡を受けた側が助けに行く行かない、行くとしても、どれくらいの人数を投入すべきかとかそういった判断をつけやすい……現場を見ていない人間は他人の言うことだけで、判断するしかないからな」
「はい。肝に命じておきます」
「でも自分の命を優先な」

 はい、と神妙な面持ちでエイルが頷いたところで食事が運ばれてきた。話を中断し、2人で簡易な恵みへの感謝を捧げて食事を始める。
 色々ありすぎて麻痺していたが、1日ぶりの食事は安飯でも、好物や高い飯と錯覚するかのように身に沁みて美味かった。中のスライムもとりあえずは大人しい。グレンはがっつかないよう気をつけながら、定食を腹の中に納めていく。
 エイルはエイルで黙々と食事をしていた。詮索をしないのが暗黙の了解マナーなので聞きはしないが、この青年はお手本のような剣の基礎が身についているし、外見も結構いい。何となくそれなりの家出身で、家出か庶子かその辺りかなとグレンは思った。食事の所作もきれいだ。

「美味しい。グレンさん、ここ行きつけですか?」
「ああ。ここは安くてそこそこ美味いから結構来るな。でも何だかんだ家で食うことが多い」
「確かに。いつも行ってるところより美味しいし、ちょっと高いけど、味の割には安いです」
「新人時代は食えりゃいいって感じだもんな……安定して割のいい依頼をこなせるようになったら、そこはそんなに気にしなくても大丈夫になるさ」
「頑張ります」

 若さ故か、あっという間に平らげたエイルは食事の終わりにもう一度感謝の祈りを捧げた。少し遅れて食べ終わったグレンも祈りを捧げ、会計をしに店員の元へ向かった。

「ぐ、グレンさん……! 割り勘だって」
「いいよ。出世したら割のいい依頼に混ぜてくれるか、もっといいもん食わせてくれ」

 最近は年上に懐くような冒険者も減った。だから単純だが、きちんと反省した上に声を掛けてくれるような若者は可愛いと思ってしまう。報酬を全部つぎ込んでいいもの食べようと思っていたから、安く上がったくらいだ。グレンはエイルの分も会計を済ませ、慌てるエイルをいいからいいからと押し切り店を出た。

「すみません……奢るって言ったのに割り勘どころか、奢っていただくなんて……」
「俺が好きで奢ったんだから、気にするな」
「……ありがとうございます、ごちそうさまでした」
「ん、それでいい。じゃあまた。機会があればまた飯でも食お……っ……」
「グレンさん?」
「あ、あぁ……すまん」

 もぞりと動いた腹奥に一瞬言葉を失うが、何とか耐えたグレンは腹を擦りながらエイルに向かって微笑んだ。

「1日ぶりの飯だったから、胃がびっくりしただけだ。大丈夫だ。じゃあ、またな」
「は、はい。次はもう少し成長した姿をお見せします!」

 軽く手を上げてエイルと別れ、グレンは足早に家に向かう。頭の中はもう既に、腹の奥にいるスライムでいっぱいだった。
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