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しおりを挟む「貴殿を元に戻す方法は、申し訳ないが、これからというところだな……それまでの間、体液……血か子種かそういったものの提供者が必要である、と。手配がいるな」
「いえ、手配は……物凄く嫌で不本意ですが、一応……乗ってくれそうな人間が……」
「あの、グレンさん。申し上げにくいんですが……多分なんですけど、一人じゃ足りないですよ」
「…………どういうこと」
グレンはどっちがどうするかで言い合いを始めたエイルとサルファを振り切って逃げ、騎士団で事情聴取を受けていた。
隊長級の騎士と、実は騎士団の嘱託魔術師だったらしいサルファの知り合いに、ダンジョンでスライムプールに落ちたところから順に、自らの身に起きたことも含めて心を無にして説明した。そのまま今後について話していたのだが、突然魔術師が嫌な事を言い出し始めたのだ。
グレンにはもう何の力もなく、からからの雑巾を無理矢理絞って出した水滴のような声を、半開きの口から漏らしていた。
「排尿、排便がないと仰ってましたよね? 加えて……性器の方で達する事が出来なかったですし」
グレンは顔を赤くしながら頷くが、魔術師は職業柄だろう、特に動じもせず淡々と聞いて説明を続ける。むしろ意識している自分が恥ずかしくなって、グレンは羞恥心をちくちくとつつかれていた。
「恐らくなんですけど、体液を十分な量を確保するまでは排出が出来ないんです」
「あ~……」
確かにスライムは、核を守り生命を維持するために、栄養や水分を身体に溜め込む性質を持っている。
ということは、自分はいよいよ人ならざる――スライムに近づいている。グレンはその事実をまざまざと突き付けられ、もう落ちないと思っていた気分が更に落ちて沈んでいくのを感じていた。
「スライムを人の大きさに換算して考えると、通常の成人男性の二人分くらいは血や精液が必要なのではないでしょうか」
「……摂取しないとすぐ活動不能や死んだりしてしまうだろうか?」
「いえ、通常の食事で作られる体液や排泄物分もありますし、数日でどうこうとはならないかと。でも試してみないことには何とも……」
「だよな……」
いずれにせよ、今後生きていくのにどれくらいで活動限界となるのか、そうなった時に自分がどうなるのかは知っておく必要がある。ただ動けなくなってしまうだけならいいが、飢餓状態のスライムのように手当たり次第に補食するようになるのはよろしくない。
「とりあえずは……どれくらいで限界がくるのか、このまま確かめようと思う」
「分かりました」
「今回の件は、ギルドの管理不行きと強制依頼に関わる被害であるから、貴殿には休業補填と賠償金が支払われる事になるだろう。体液絡みも利用するしない置いておいて、手配だけはしておくので、ゆっくり考えてよいのでは。聴取はもういいぞ」
「……はい。ありがとうございました」
沈みきった気分のまま、グレンが騎士団内の取調室から出ると、そこにはサルファとエイルが待ち構えていた。エイルの労いに返事を返しながら、何故と首を傾げるとサルファが呆れた顔をする。
「聴取があったのはお前だけじゃねーからな? 場所変えて、さっきの話の続きするぞ。その様子じゃあ、どうせ元に戻る目処が立ってねえんだろ」
「僕も行きます」
「いや、お前は……」
珍しく揶揄う様子もなく言い切るサルファには、グレンも元々話をするつもりでいた。だからグレンも反発はしなかったのだが、エイルを巻き込むのはやはりいかがなものかと思い、戸惑う。
「僕だって当事者ですし、グレンさんが好きなんですから」
「だから何でそうなるんだ。男同士だしそんな要素なかっただろ……!?」
「助けてくれた格好いい先輩に一目惚れなんて別に珍しいこっちゃねぇだろ。どのみちここじゃ何だから、とにかく場所変えようぜ」
確かにここは騎士団の廊下で、通りがかる騎士達が「何だ何だ喧嘩か」と様子を窺っている。それに気づいたグレンは身の置きどころのない羞恥に再び駆られ、仕方なく自宅へ行こうと提案した。
「近いから、俺んちでもよかったのに」
「お前のうちは物が多過ぎて落ち着かん」
日が傾く中、3人は食事を買って、街外れにあるグレンの自宅へと帰った。元々それほど物もない上に、先日粘液塗れになり、図らずとも大掃除する形となったので、家の中はかなり綺麗だ。充分な広さの部屋で思い思いに食事をしながら、状況を確認し合っていた。
「ふーん。どれくらいかは知らんが、金が出るんなら、しばらくは休んで経過観察が一番だわな」
「正直俺は、お前のことは悪友に近い感じに思っていたから恋愛感情はない。だからこの頼みは嫌なら別に受けてくれなくて構わない」
「ま、お前にとっては寝耳に水の話だしな。いいぜ、そっちは一旦棚上げしてヤろうぜ。それよりもう1人は必要ってのはどうするんだ? このひよっこか?」
「僕、責任を取ります」
「いや……エイルはいい……」
「この人はいいのに何で僕は駄目なんですか?」
「いや、こいつはそれなりの付き合いだし、こんな感じのやつだからまだ……よくはないがまあ、いい。でもお前は……」
何故そんなにも食い下がる。あのダンジョン以降色々な事が有りすぎて混乱してるだけとしか思えない。吊り橋効果というやつではないだろうかとグレンは思う。
「……それに、こう言ってはなんだが……お前経験あるのか……?」
「ありませんけど」
「心配しなくても俺もいるし、お前も開発済みだし濡れるし、大丈夫だよ」
「開発済みとか言うな! そうじゃなくて童貞とか、そんなの逆に責任取れない! 百歩譲って花街でも何でもいいからせめて童貞切って捨てて、それからにしてくれ……!」
「嫌です。それならグレンさんで捨てたい」
「何でだよ!?」
ああ言えばこう言う状態で、全く引く様子のないエイルに、グレンの方がドン引きしてしまう。無駄だろうなと思いつつ、グレンは助けを求めてサルファを縋るように見てみるが――
「処女じゃあるまいし、童貞にそこまで慄くような価値ねえよ。中は腹立つことにスライムの野郎に開発されちまってるが、外は全然だから頑張ろうな、ひよっこ」
「あんたはもっと言葉を選べよ」
「ふざけるなサルファ」
「ふざけてなんかいねえよ」
サルファがぴしゃりと叩くように言う。その顔はやはりいつもの揶揄うような腹立たしいものではなく、真剣そのものだ。グレンは正論を吐く者が持つその雰囲気に圧されてしまう。
「俺とひよっこはお前が好き。しかも突っ込む方。だから損する事は何もねえ。そしてお前は当面の間、生きるために人間の体液をそれなりに摂取する必要がある。誰かの血を飲むか、俺達から精液なんかを貰うか、男娼みたいに不特定多数とヤるかどれかしかねえだろうが」
「うぅ……」
「俺達がどうしても嫌か? 知らねえやつと義務的にヤるより気心の知れた相手と楽しくヤる方がいいだろ」
楽しいかどうかは置いておいて、本音を言うと知らない相手と性行為をするよりは遙かにマシだ。知り合いは嫌だという人間もいるだろうが、グレンはその辺り潔癖だ。若い頃こそ娼婦のところにたまに行っていたが、馴染みの娼婦が辞めてしまってからは、そういう店に行っていないくらいには人見知りでもある。
だがもう既にしてしまっているサルファはともかく、エイルは。
グレンは踏み出したくても踏み出せない。
「まー……とにかく習うより慣れろということで」
「えっ」
そんな逡巡を見透かしたサルファが笑い、グレンの身体がぐんと重くなる。何かの魔術だ。席を立ったサルファはそのままグレンに近づき、顎を掴んでぐい、と持ち上げた。
「サルファ……! ん、んんっ……!」
「おい! あんた!」
グレンよりも大きく厚い舌が、口の中を蠢く。グレンは顎を掴んで口を開かされたまま、上顎を擦られ、楽器を弾くように歯列をなぞられ、甘噛みされて、じゅうっと舌を吸い上げられる。先日は一応、スライムの除去を目的としていたためか、キスはしていない。これがサルファとの初めてのキスだった。頑ななグレンの態度がほろりと溶けそうになる。
餌を与えて落とそうとしているのが明らかなキスなのは分かっている。しかしグレンの胎は疼き、腰は跳ねた。
「やっぱこいつの中のスライム、かなり賢いな」
意味の分からない言葉を溢し、サルファはエイルに向かって笑いかける。
「グレンはお前が童貞なのさえクリアすりゃいけるいける。とにかく一発ヤってみようぜ。どうせ正確な限界を計るには、一度充分に満たさなきゃいけないし」
「この、やろ……! う、うぅ、ん……!」
「またあんた……! グレンさんは……?」
再び咥内を舐め回され、涎が垂れる。それが何だか勿体なく感じてグレンは思わず、口の端から舌舐めずりしていた。
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