悪役令嬢の子

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帝国ディムロス編(キース視点)

08 魔性

 ――帰還後……

魔性や傾国オム・ファタールという渾名が定着してしまいそうだな……」
「やめろおぉぉぉ!!」
 ディラン殿下に言われた言葉にしゃーっと牙を剥いているウィスだが、ディムロスの皇帝を退位に追い込んだきっかけになったのは事実なので、仕方のない話である。まあロータス様然りリリアーナ様然り……恐らくそれより昔のガルディアの面々も意図するしないに関わらず魔性と言うか……そういった傾向があったのではないかとは思う。
「どうしても必要ならするけど、そうじゃないならこんな事はもうしない……外も碌に歩けない……」
「お行儀悪いですよ」
 死んだ目で机にぴたりと顔をくっつけて泣き真似をしているウィスの前に珈琲を置く。注意されてのそりのそりと起き上がって珈琲を行儀悪く啜ると、ほんの少し気持ちが落ち着いたようだ。
「これからどうしようかな……」
「引き続き学んでもいいですし、もしくは身軽な立場のままガルディアに戻り、必要なときにはすぐ動けるようにしておいてもよいのではないでしょうか? 丁度ウィルフリード様から旧ウォールズ伯爵領を経営しないかというお話もきておりますし」
「義兄上から? ……何でまたそんな」
「いいのではないですか? 一応私のアンルー商会も本店はガルディアですが、実質的な主体は王都エレノリアの店ですよ」
「うーん……なるほど……考える……。取り敢えずは今回の戦利品をあの子に教えて来るから、ディラン殿下行くぞ」
「はいはい。仰せのままに」
 慌ただしく出て行くウィスとディラン殿下を見送り、静かになったところでネイが口を開く。
「……今回、こういう風評が立つのを分かっていて、敢えて止めなかったんでしょう。お可哀想に……」
「育った環境のせいで、自分の外見がどれ程のものでどういった効果をもたらすのかという齟齬は結婚して五年以上経っても結局あまり埋まらなかったからな……こうなればウィスだって嫌でも理解する」
 ロータス様やリリアーナ様なら魔性の噂も上手く有効活用していくだろうが、ウィスの性格では無理だ。先程本人が言っていたように必要なら利用はするだろうが、出来ればやりたくないのが本音で、噂が沈静化するまでは大人しくするはず。
 ――そして、この噂に更なる尾鰭がついてしまえば、引きこもる理由にもなる。
「結局……今回貴方様の目的は全て達成されましたね? ……噂も含めて、ガルディアに戻る下地作りとウィスタリア様の瞳について知ること」
「何の事だか」
 珈琲に牛乳と砂糖を入れて混ぜながらとぼけると、ネイは大袈裟に「おぉ怖い……!」と体を震わせている。全く失礼な奴だ。
 ウィスタリア・ガルディアという愛しい人を構成する要素の内、あの美しい瞳だけが、ずっと守る上での不確定要素だった。今回皇太子には若干してやられたが、結果的に謎は解けたので、上々である。
「それよりネイ、頼んでいた別荘か宿は見繕ってくれているか?」
「……ええ、もちろんですとも。こちらが一覧なので日取りと期間を確定していただいたら、すぐに押さえさせていただきますよ」
「分かった」
 何とも言えない顔をしたネイから一覧を受け取り、焼菓子を口に放り込んで珈琲を飲む。その甘さを堪能しながら何処にしようかと私は一覧を眺めていた。
 
 関係各所への報告や、ウィスの体調の事もあり、ご褒美は結局一月以上経ってからという事になった。別荘地にある大きな宿の離れを一週間借上げ、食事を運んでもらうように手配していて一日一回の掃除以外は私達以外に誰もいない。予約の際にネイが、身分ある人間の蜜月ハネムーンだと伝えているそうで、宿には緊張感が漂っている。
「同じ宿なのに広い庭まであって、本当に別世界だな。すごい」
「本館までもそこそこ距離がありますしね」
 小さな庭園はきらきらした日陰に煌めき、そよ風が美しく植え込まれた庭木の匂いを運んでいる。繋いだ手をくいくいと引いて、はしゃぐウィスについて離れに入ると、中は小さな風呂付きの鍵が掛けられる寝室が二つと食事部屋、専用の浴場が一つ。片方が乱れてももう一つの部屋にいる間に掃除される仕組みで、食事も決まった時間に食事部屋に用意される。呼ばない限り、こちらには接触しないようにと言ってあるのでこれから先は本当に二人だけの時間である。
 今回私は一つ試してみたいことがあった。何処かの国の王族の夜の営みは前戯や愛撫に何日もの時間を掛け、それによって通常より何倍もの快楽を得るという。流石に何日もというのはアレだが、多少短くても似たような効果は得られるという。前々から興味があったそれをするには、一週間籠るというのは折角の機会だ。これを逃す手はない。
「――というわけで、今日はお互い触れ合うだけ、性器には触れません」
「ふーん……だからずっと手を繋いでいたのか。しかし、そんなのあるんだ……。する前に段取り説明とか、変な感じ……」
 閨教育みたいでシュール……と何やら呟いてるウィスを横目に薬草茶を煎れ、蓋をして待つ。じわりと乾燥花ドライフラワーが綻ぶにつれ、湯の色が変わり、檸檬にも似た林檎にも似たすっきりとした匂いが漂い始める。
「スッキリ落ち着く味……匂いの印象そのままだな」
「ゆったりとした気持ちが大事だそうなので」 
 初日はお互い本を読んだり話をしたりと、一見いつもよりのんびり過ごす程度ではあるが、手洗い以外は必ずお互いに触れているという決まりで過ごす。食事も敢えて手で摘まめるようなものばかりを手配しているので、膝に乗せて食べさせ合う。最初こそ照れのあったウィスだが、今は楽しそうにこちらへ果物を差し出している。少し酒も飲んで軽い触れ合いのみで二日間は――ウィス風に言えばひたすらいちゃいちゃしていた。
 三日目にはもう少し先に進み、寝台の上でお互いそれらしい雰囲気で素肌に触れ合う。お互い触る・・・・・、なので通常のように私主体ではなく、お互いに触れ合うのだが、キースが触り始めたら俺はぐずぐずになるから、しばらくは触るなと言われて結構な時間が経った。
「……前はもうちょっと感じてたと思ってたのに、何で平気になってるんだ? 俺そんなに下手か……?」
「いいえ、ウィスも段々上手になっているし、全然平気ではないですよ」
「嘘くさ……」
 こうか……? と首を傾げながら、それでも躊躇することなく私の上に乗り、肌に触れている。今は私の耳や首筋、胸や腹筋に触れたり舐めたり吸ったり色々試行錯誤しているが、何と言うか……子猫が毛繕いをしたり、母猫の乳を探すのに似ている。これはこれで可愛らしいし、気持ちがよくないわけではないし、恰好だけは薄い夜着を羽織っただけで一人前に煽情的ではある。だが、色気も何もない。今この場にあるとすればそれはただの好奇心だ。
 少し焦れてしまい、もういいだろうと抱き寄せ、背中を人差し指でなぞる。途端に「ひ、」としなる枝のように体を反らせたウィスの身体に少しずつ少しずつ触れていく。いつもの行為の時に触る、いかにもな性感帯は避けて触っているが、ウィスの息は少しずつ少しずつ上がって白い肌に赤みがさす。
「な、んでだ……この差は……!?」
「何ででしょうね……」
 納得いかなさそうにふるふると震えながら、負けじと触れるが集中できないのか先ほどより雑だ。乗っかることで触れ合っている事にしてもう先に進めよう。額や頬に口づけをしてウィスが散々していた事を返していくかのようにしていく。
 胸に愛撫が差し掛かる頃には粒は既に薄紅色に色づいて勃ち上がり、少しの刺激で感じ入ってしまうようだ。案外堪え性のないウィスはあっという間に蕩けて溶ける。それにここはもう今まで散々育ているから、ここへの刺激だけで達することが出来るのではないだろうか。
「こら、触らない」
「やっ、やぁ……なんでっ……触らせてくれ……キースっ、きーすっ」
「……駄目」
「うぅぅっ……ひど、いっ――……?! や、ぁ……何これ、なに……?」
 我慢が出来なくなったのだろう。勃ちあがって健気に震えるそれに触れることは許さない。伸ばした手を捕まえて掌を舐め上げ指を齧ってしゃぶる。その一挙一動に小さくびくびくと体を跳ねさせながら、何故手への刺激でこんな事になるのかとウィスは戸惑い混乱している。
 手や足というものは毎日使うから慣れていて分かりにくいが、元々触感というくらい、繊細に感じることの出来る場所だ。ただ、普段性感帯だと思っていない場所で感じるのが怖いのだろう、逃げようとする力が入る。だけどそれも許さない。
 指を一吸いし、掌、手首……腕の内側の比較的柔らかい場所を辿って脇を舐めた。
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