(完結)好きな人には好きな人がいる

いちみやりょう

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先輩の部屋

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藤井は、藤井の友人にもそう言っていたように放課後は忙しいようで、気晴らしに誘っても乗ってくることはほとんどない。だから俺は自習室には行かなくなったけれど、カフェイン剤やエナジードリンクを駆使したり、先生に質問したりしてなんとか勉強を頑張ってみた。

自習室には近づけないので図書室などに入り浸っていたけれど、テストを翌日に控えたその日、体力の限界を迎えたらしく意識は突然プツリとブラックアウトした。
ゴンっという音と共に図書室の机に額がぶつかり冷んやりしてると思ったのが最後の記憶だ。


『んぁやらぁ……父さんやめて、ぁあっ……兄さん、おねが』

まただ。

甲高く気味の悪い声を上げているのは、幼い頃の俺だ。
幼い頃からもう何度も何度も見ている悪夢。
悪夢と気がついているのに、起きようと思っても起きられず、助けを求めても救われない。
体に力は入らないし、俺はただなす術なくあの頃と変わらず、俺の幼い体を蹂躙する父と兄を受け入れるしかない。

『助け……助けて。せんぱ……ぁ』

先輩に助けを求めるのもいつも一緒。
けれど、今回はどこからか先輩の匂いがふわりと漂った。
全身を先輩の匂いで包み込まれるような。

こんなこと、今まで一回もなかった。
けれど、先輩の匂いだけでひどく安心する。

『ひどい隈だな』
『せんぱ……』

いつの間にか夢の中のベッドの上には俺だけになっていて、ベッドの脇に立った先輩が俺を呆れたように見下ろしていた。

良い夢だ。だって、先輩がいる。
こんな夢初めてだ。

次に目を覚ました時、見覚えのある天井が目に入った。
それを裏付けするように、体を包んでいる布団は大好きな人の匂いがする。

「なんで……?」

ここは、先輩とセフレでいる間、何度も訪れた先輩の部屋だ。
どうしてここにいるんだろう。

首を動かすと、一人掛け用のソファに腕を組んで座って眠っている先輩がいた。

「先輩……」

俺がベッドを独占することになった経緯は分からないけど、きっと図書室で倒れた俺を先輩が運んでくれたんだろう。今までだったらセフレだから、一緒のベッドに寝る選択肢もあったかもしれないけど、今は律葉と付き合っているから、先輩は律儀に俺にベッドを譲り、自分はソファで寝たのかもしれない。

俺はそろりとベッドを抜け出し、部屋のドアまで静かに移動した。
けれどズルい俺は、もう一度、部屋の中に戻って先輩の横に膝をつけた。

「よく眠ってる……。ベッド、独占しちゃってごめんね。俺なんか、廊下に転がしとけば良いのに。それか、律葉の部屋に転がして、ここで律葉とイチャイチャすれば良いのにさ。本当……、先輩。そんなんじゃ、律葉に振られちゃうよ」

先輩に顔を近づけて、先輩との最初で最後のキスをしようとした。
けれど、やっぱり律葉を裏切るのは気が引けて、諦めた。
その代わりに、そっとハグをしてまたドアまで静かに移動した。
律葉を裏切るのは気が引けるなんて、今まで先輩のセフレしておいてどの口で言ってんだかって感じだけど。

けれどそんな自嘲気味な気持ちも、部屋に戻って、シャワーを浴びたらいくらかすっきりした。

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