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律葉視点 律葉の恋8
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僕たちは当たり前だけど全員寮生なので、合宿は学校の中で行われている。
生徒会役員は夜は帰っているようだけど、僕たち候補生は寝泊りまで学校の中だ。
作業部屋の横の空き教室に布団を並べて寝るのは、中々慣れるものではなくて、寝辛かった。
みんなは慣れない作業に疲れていたのか、ぐっすりと眠っているので、僕はこっそりと作業部屋の方に戻り、電気をつけて、夕方までやっていた書類を片し始めた。
夜中僕だけで進めたところで、誰も見ていないのだし僕の評価が上がることはない。
けれど、中井くんが言っていた様に、もしも自分が選ばれた時のことを考えると何かしないと落ち着かなかった。
「これは、こっちだな。んー、あ、ここ間違ってる」
ぶつぶつと呟きながら作業していると、コンコンと扉がノックされた。
時計を見ると時刻は深夜2時。幽霊を特別信じているわけではないし、その方面に置いて怖がりではない僕でも、この状況はさすがに怖い。さっきまでは書類に集中していたから良いものの、ノックに気がついてしまえばありえない状況に怖くなり、僕はとっさに机の下に隠れた。
コンコン
また、ノックが響く。
ガタガタと震えそうになるのを必死で抑えながら机の下で息を潜めていた。
ガラリ
無慈悲にも扉は開かれて、中に入ってくる気配がした。
「良かった。誰かが電気を消し忘れただけか」
ポツリと呟かれた安堵の声は、冬馬会長のものだった。
幽霊じゃなかったことにも安堵してホッと息を吐きそうになったけど、慌てて止めた。
「なんてね。律葉くん居るんだろ?」
「っ」
会長の声は甘くて優しくて、まるで生徒会室で一緒に居た時のままみたいだった。
「さっき、隣の部屋を見てきたんだよね。律葉くんだけ居ないなと思ったら、ここが電気ついていたからさ」
その声はだんだん近くなって、会長の足は僕の隠れている机の横でピタリと止まった。
そして会長は膝を曲げ机を覗き込んで、僕と目が合うと目を弓なりにした。
「見つけた」
「会長……」
どうしてこんな所に。生徒会の人たちは自分の寮の部屋に帰っているはずなのに。
けれどそんな疑問は会長の質問に消された。
「どうして寝ないの?」
「寝ないって言うか、眠れなくて。だから暇つぶしに……。あの、でももう寝ます」
「ふうん」
会長が1歩下がって場所を開けてくれたので、僕は机の下から這い出ることができた。
「ねぇ、律葉くんはどうして、書記に立候補したの?」
「もちろん、就職に有利だと聞いたので」
ニコリと笑ってそう答えた僕を会長は訝しげな目で見た。
「俺が求めてるのは、そういう当たり障りのないような回答じゃなくてね」
「じゃあ、会長はどうして会長になったんですか?」
「話を逸らさないでほしんだけど。まぁ、俺が会長になったのは、それを求められていたからかな。断るのって、体力が居るでしょ」
困ったように頭を掻く仕草さえも、どこか様になっている。
「そうなんですか」
「で、律葉くんは?」
「僕は本当に別に」
「まぁ、いいや。でも諦めた方がいいんじゃないかな? だって、律葉くんがいくら頑張ったところで候補者の選抜の最終決定権は会長である俺だよ」
ズキと胸が痛んだ。
「……冬馬会長は、私情で選抜をされるんですか? 僕が嫌いだから、僕がいくら頑張っても頑張りを認めてくれないということですか?」
そう言うと、会長は目を見開いた。
僕は席を立って、電気ポットの電源を入れた。
ものの数分で湧き上がったお湯を、コーヒーの粉を入れて準備していたカップに入れるとインスタントながら良い香りが立ちのぼる。
「僕は、会長がそんな私情で選抜をされるのだとは思いたくないです。例え嫌いな人間だとしても、使えるものは使った方が良いと思いませんか? ……どうぞ」
コーヒーを差し出しながらそう言うと、会長は決まり悪そうな顔をした。
「ありがとう」
「僕はどうして会長に嫌われたんだか、いまだに分かりません。あの時会長が、生徒会の部屋に、生徒会以外の生徒が入っているのが問題だと言っていたのは理解しました。なので、僕は堂々と生徒会室に居られるように、生徒会に入ろうと思ったんですよ」
会長の“どうして書記に立候補したのか”と言う質問への答えだ。
「嫌ってなんか、いないよ」
ポツリと返された言葉に、フッと息が漏れた。
「同情は必要ありません。ただ、僕のことも他の候補者と平等に見てほしいです」
「……もちろん、平等に。平等にすることを約束するよ」
「よろしくおねがいします」
僕のことも平等に見てくれると約束してくれたことに満足した。
様子を見にきただけだからと寮に戻る会長を見送って、僕も隣の寝るための部屋に戻った。
生徒会役員は夜は帰っているようだけど、僕たち候補生は寝泊りまで学校の中だ。
作業部屋の横の空き教室に布団を並べて寝るのは、中々慣れるものではなくて、寝辛かった。
みんなは慣れない作業に疲れていたのか、ぐっすりと眠っているので、僕はこっそりと作業部屋の方に戻り、電気をつけて、夕方までやっていた書類を片し始めた。
夜中僕だけで進めたところで、誰も見ていないのだし僕の評価が上がることはない。
けれど、中井くんが言っていた様に、もしも自分が選ばれた時のことを考えると何かしないと落ち着かなかった。
「これは、こっちだな。んー、あ、ここ間違ってる」
ぶつぶつと呟きながら作業していると、コンコンと扉がノックされた。
時計を見ると時刻は深夜2時。幽霊を特別信じているわけではないし、その方面に置いて怖がりではない僕でも、この状況はさすがに怖い。さっきまでは書類に集中していたから良いものの、ノックに気がついてしまえばありえない状況に怖くなり、僕はとっさに机の下に隠れた。
コンコン
また、ノックが響く。
ガタガタと震えそうになるのを必死で抑えながら机の下で息を潜めていた。
ガラリ
無慈悲にも扉は開かれて、中に入ってくる気配がした。
「良かった。誰かが電気を消し忘れただけか」
ポツリと呟かれた安堵の声は、冬馬会長のものだった。
幽霊じゃなかったことにも安堵してホッと息を吐きそうになったけど、慌てて止めた。
「なんてね。律葉くん居るんだろ?」
「っ」
会長の声は甘くて優しくて、まるで生徒会室で一緒に居た時のままみたいだった。
「さっき、隣の部屋を見てきたんだよね。律葉くんだけ居ないなと思ったら、ここが電気ついていたからさ」
その声はだんだん近くなって、会長の足は僕の隠れている机の横でピタリと止まった。
そして会長は膝を曲げ机を覗き込んで、僕と目が合うと目を弓なりにした。
「見つけた」
「会長……」
どうしてこんな所に。生徒会の人たちは自分の寮の部屋に帰っているはずなのに。
けれどそんな疑問は会長の質問に消された。
「どうして寝ないの?」
「寝ないって言うか、眠れなくて。だから暇つぶしに……。あの、でももう寝ます」
「ふうん」
会長が1歩下がって場所を開けてくれたので、僕は机の下から這い出ることができた。
「ねぇ、律葉くんはどうして、書記に立候補したの?」
「もちろん、就職に有利だと聞いたので」
ニコリと笑ってそう答えた僕を会長は訝しげな目で見た。
「俺が求めてるのは、そういう当たり障りのないような回答じゃなくてね」
「じゃあ、会長はどうして会長になったんですか?」
「話を逸らさないでほしんだけど。まぁ、俺が会長になったのは、それを求められていたからかな。断るのって、体力が居るでしょ」
困ったように頭を掻く仕草さえも、どこか様になっている。
「そうなんですか」
「で、律葉くんは?」
「僕は本当に別に」
「まぁ、いいや。でも諦めた方がいいんじゃないかな? だって、律葉くんがいくら頑張ったところで候補者の選抜の最終決定権は会長である俺だよ」
ズキと胸が痛んだ。
「……冬馬会長は、私情で選抜をされるんですか? 僕が嫌いだから、僕がいくら頑張っても頑張りを認めてくれないということですか?」
そう言うと、会長は目を見開いた。
僕は席を立って、電気ポットの電源を入れた。
ものの数分で湧き上がったお湯を、コーヒーの粉を入れて準備していたカップに入れるとインスタントながら良い香りが立ちのぼる。
「僕は、会長がそんな私情で選抜をされるのだとは思いたくないです。例え嫌いな人間だとしても、使えるものは使った方が良いと思いませんか? ……どうぞ」
コーヒーを差し出しながらそう言うと、会長は決まり悪そうな顔をした。
「ありがとう」
「僕はどうして会長に嫌われたんだか、いまだに分かりません。あの時会長が、生徒会の部屋に、生徒会以外の生徒が入っているのが問題だと言っていたのは理解しました。なので、僕は堂々と生徒会室に居られるように、生徒会に入ろうと思ったんですよ」
会長の“どうして書記に立候補したのか”と言う質問への答えだ。
「嫌ってなんか、いないよ」
ポツリと返された言葉に、フッと息が漏れた。
「同情は必要ありません。ただ、僕のことも他の候補者と平等に見てほしいです」
「……もちろん、平等に。平等にすることを約束するよ」
「よろしくおねがいします」
僕のことも平等に見てくれると約束してくれたことに満足した。
様子を見にきただけだからと寮に戻る会長を見送って、僕も隣の寝るための部屋に戻った。
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