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22:魔物の気配
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走っていると息が上がる感覚が、胸が苦しくなって辛い感覚が、俺は好きだ。
リタイア者が増えていく中で、黙々と走っていると突然お腹に衝撃が走った。
「っぐぇっ!?」
「……無理をするなと言っているだろう。特にお前には何度も言っている。全く」
衝撃が走った腹を見てみると、バイロンの右腕がしっかりと腹に回されて、走るのを無理やり止められたらしい。後少しで苦しさによる絶頂が来たかもしれなかっただけに大変遺憾である。
「他はもうすでにみんな休んでいる。ほら、飲みなさい」
「ん゛ん」
口に水筒が差し込まれ、中から冷たい水が流れ出てきて、俺はその時になって相当喉が渇いていたことに気がついた。
「ほら。もっと飲まないとダメだ。体から相当水分が抜けているだろう」
言われた通りに夢中になって水を飲んでいると、バイロンはその場にあぐらをかいて座って、俺をそこに仰向けに座らせた。
つまりは、赤ちゃんがミルクを飲ませてもらっているかのような体勢だ。ちょうど体格の良いバイロンの体で影ができて、暑さも少し楽だが、すっかり喉が潤った後になって、俺はその恥ずかしい体勢に気がついた。
「せ、先生……? これって、あの。そうだ。僕を特別扱いしているみたいに思われるんじゃないですか?」
「特別扱い?」
バイロンはそう言って俺を訝しげに見た。
「だって、コリン殿やヨハイド殿だって、体力の限界まで走っていましたよね。それなのに、お、僕だけこの体勢で、先生の手ずから水を飲ませてもらうって言うのは」
「ふむ、そうか。おい、お前ら。私に手ずから水を飲ませてもらいたいやつは、ここに並べ」
「えぇ!?」
木陰にいる他の生徒たちに向かってバイロンが叫ぶと、みんな顔を青ざめさせ全力で首を振るし、後ずさる者までいた。それを見て、バイロンは俺に向き直った。
「ほらな。特別扱いというのは、羨ましいとかずるいとか思われるようなことをする時じゃないか? 私はどうやら怖がられているみたいからな。そう簡単にはバトラルみたいに大人しく水を飲まされてはくれない」
「ぷっ」
「何を笑っている?」
「あはは。だって、先生、その言い方じゃ、みんなに水を手ずから飲ませてあげたいみたいだから」
「そういう訳じゃないが、頑張る生徒は甘やかしたくもなる」
「へぇ。意外です」
「そうか? まぁいい。もっと飲め」
バイロンは世話好きだったのか。ゲームではそんな印象はなかったが、確かに面倒見は良い方だったかもしれない。ちらりと木陰にいるヨハイドを見ると、ヨハイドは俺を見下したような目で見てうっすらと笑っていた。それを見て不快感が込み上げる。
やっぱりヨハイドを見ると俺は嫌悪感があるみたいだ。
ヨハイドがあんな顔をして笑うからなのだろうか。
だけど冷静に考えてみれば、強面の教師から授乳プレイのような体勢を取らされ、水を飲まされている人間を見れば、多少見下したような目で見てしまうのは仕方がないかもしれない。
俺的には羞恥プレイはまだ未開発なので、恥ずかしさによって絶頂するほどに興奮することはできないのが悲しいところだ。
グォォォォォォォオオオオオ
遠くの方で低い遠吠えのような声が聞こえた。
子供の頃はともかく、最近はこの声を聞かない日はない。
「あの声って」
「魔物だ。最近は魔物が活性化しているらしく皇都の外に魔獣がよく現れているらしいな。だが、お前ら生徒のことは私たち教師が守るから安心して授業を受けなさい」
「はい」
俺は神妙に頷いた。
魔物が来るのはゲームの中でもある話だ。魔物を使役している魔族という人型の魔物が、学園に侵入してきて『オメガの男を1人引き渡せ。そうすれば国を襲うのを一切やめよう』と言ってくるのだ。
そして、その時点で攻略対象者のいずれかの好感度が一定数よりも上じゃなかったら差し出されてしまうというものだ。だが、普通にプレイしていたらこの時点で好感度が上がっていないなんてことはまずない。魔族の王も隠し攻略キャラクターなので、魔王を攻略するつもりじゃない時は、なんの盛り上がりもなく、あっさりと攻略対象者に助けられ終わるイベントだった。魔王ルートに進みその後プレイヤーが魔王を攻略できなければ、なぜかコリンではなく“バトラルが”魔物たちの孕み袋にされるという最高のエンドを迎える。
その、バトラルからすれば理不尽な話の展開に俺はこの言葉を言わざるおえない。
「最高かよ」
奇しくも、コリンがノンケだったことで、攻略対象者の好感度はあがっていないはずだ。だが、そもそも連れ去られるとしたらオメガな訳だから、魔族がオメガ男性を所望したら俺はそこで名乗りをあげようと決意した。
リタイア者が増えていく中で、黙々と走っていると突然お腹に衝撃が走った。
「っぐぇっ!?」
「……無理をするなと言っているだろう。特にお前には何度も言っている。全く」
衝撃が走った腹を見てみると、バイロンの右腕がしっかりと腹に回されて、走るのを無理やり止められたらしい。後少しで苦しさによる絶頂が来たかもしれなかっただけに大変遺憾である。
「他はもうすでにみんな休んでいる。ほら、飲みなさい」
「ん゛ん」
口に水筒が差し込まれ、中から冷たい水が流れ出てきて、俺はその時になって相当喉が渇いていたことに気がついた。
「ほら。もっと飲まないとダメだ。体から相当水分が抜けているだろう」
言われた通りに夢中になって水を飲んでいると、バイロンはその場にあぐらをかいて座って、俺をそこに仰向けに座らせた。
つまりは、赤ちゃんがミルクを飲ませてもらっているかのような体勢だ。ちょうど体格の良いバイロンの体で影ができて、暑さも少し楽だが、すっかり喉が潤った後になって、俺はその恥ずかしい体勢に気がついた。
「せ、先生……? これって、あの。そうだ。僕を特別扱いしているみたいに思われるんじゃないですか?」
「特別扱い?」
バイロンはそう言って俺を訝しげに見た。
「だって、コリン殿やヨハイド殿だって、体力の限界まで走っていましたよね。それなのに、お、僕だけこの体勢で、先生の手ずから水を飲ませてもらうって言うのは」
「ふむ、そうか。おい、お前ら。私に手ずから水を飲ませてもらいたいやつは、ここに並べ」
「えぇ!?」
木陰にいる他の生徒たちに向かってバイロンが叫ぶと、みんな顔を青ざめさせ全力で首を振るし、後ずさる者までいた。それを見て、バイロンは俺に向き直った。
「ほらな。特別扱いというのは、羨ましいとかずるいとか思われるようなことをする時じゃないか? 私はどうやら怖がられているみたいからな。そう簡単にはバトラルみたいに大人しく水を飲まされてはくれない」
「ぷっ」
「何を笑っている?」
「あはは。だって、先生、その言い方じゃ、みんなに水を手ずから飲ませてあげたいみたいだから」
「そういう訳じゃないが、頑張る生徒は甘やかしたくもなる」
「へぇ。意外です」
「そうか? まぁいい。もっと飲め」
バイロンは世話好きだったのか。ゲームではそんな印象はなかったが、確かに面倒見は良い方だったかもしれない。ちらりと木陰にいるヨハイドを見ると、ヨハイドは俺を見下したような目で見てうっすらと笑っていた。それを見て不快感が込み上げる。
やっぱりヨハイドを見ると俺は嫌悪感があるみたいだ。
ヨハイドがあんな顔をして笑うからなのだろうか。
だけど冷静に考えてみれば、強面の教師から授乳プレイのような体勢を取らされ、水を飲まされている人間を見れば、多少見下したような目で見てしまうのは仕方がないかもしれない。
俺的には羞恥プレイはまだ未開発なので、恥ずかしさによって絶頂するほどに興奮することはできないのが悲しいところだ。
グォォォォォォォオオオオオ
遠くの方で低い遠吠えのような声が聞こえた。
子供の頃はともかく、最近はこの声を聞かない日はない。
「あの声って」
「魔物だ。最近は魔物が活性化しているらしく皇都の外に魔獣がよく現れているらしいな。だが、お前ら生徒のことは私たち教師が守るから安心して授業を受けなさい」
「はい」
俺は神妙に頷いた。
魔物が来るのはゲームの中でもある話だ。魔物を使役している魔族という人型の魔物が、学園に侵入してきて『オメガの男を1人引き渡せ。そうすれば国を襲うのを一切やめよう』と言ってくるのだ。
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