60 / 99
55:出産
しおりを挟む
それから数ヶ月経った。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「……ぅ、産まれた……」
出産という行為は、ドMの俺の痛みのキャパを平然と超えてきて、かなり辛かった。
だが、10ヶ月もの間、自分の体の中で育てた子供と出会えると思えば、それもなんとか乗り越えられた。
赤ん坊を取り上げた医師がへその緒などの処置をして、俺のそばに運んでくれた。
「バトラル様。元気な男の子ですよ」
「うん。ぁあ、かわいい……僕の息子」
赤ん坊はしわくちゃで、元気に泣き声を上げている。お腹の中にいた時から元気で健康的なサイズだと医師は言っていたけど俺から見たら小さくて小さくて、この子を守らないとなと心の底から思えた。
その横で生まれたばかりの赤ん坊を見て、クライブが涙を流しているので俺はなんだかクライブがちゃんともう父親みたいな感じがしておかしかった。
「バトラル、ありがとう……っ、頑張ってくれてありがとう」
「クライブも……ありがとう」
「私はなにも」
「ここまで支えてくれたし、僕を親にしてくれた」
前世でだって俺は親ではなかった。そもそもゲイでドMだったし、虐めてもらえればそれで良いなんて考えて子供なんて必要ないと思っていたし、望んでもいなかったけど。ここにきて、自分が産む側の体になって、そして、不可抗力だが赤ん坊を産んで。考えががらりと変わった。それも好きな人との子供だ。
どんどん出てくる腹に、愛着が生まれ始めたのはいつからだっただろうか。
最初は妊娠したということに対してどこか他人事に感じていたしあまり興味はなかったのに、何かと動いたり虐めてもらうのに邪魔になり不便だと思って、けれど、そこに命があるのだと思ったらなんだか愛おしくも感じて。腹が大きくなるにつれてだんだんと親になるのだと自覚が出てきて、内側から蹴られたりした時には幸せを感じるほどになっていた。
「眠いか? 眠ってくれ」
「……ん」
先ほどまでで体力を使い果たした体は、多幸感に包まれていた。
ふわふわして、眠気が襲ってくる。
妊娠ができるとは言っても、この体は胸が出ているわけでもなく、乳腺が発達してないので授乳はできないらしい。少し寂しくも感じるが、赤ん坊にはちゃんと栄養のあるミルクを与えられるらしい。本当はナニーの仕事らしいがそれを俺も飲ませることで手をうった。
「……可愛いな」
うとうととしていると、ベッドの横で静かにただずんでいたバイロンが呟いた。それに、クライブが自慢げな様子で応えた。
「そうだろう。私とバトラルの子だ。バトラルに似てきっといい子に育つ」
「ああ……。次期皇太子殿下はとても可愛らしい。きっといい子に育つだろう。それはとても楽しみだが、次は私との子だ」
「バトラルはまだ出産直後だ。気が早いんじゃないか?」
「そうか? きっとバトラルなら喜ぶ」
俺が目を閉じているから、もうすっかり寝ていると思われているようだ。
出産直後の人間に対して早くも次の子を要求するなんて鬼畜な所業は、まさしくドMな俺にしか許されない発言だろう。
だが、バイロンの言う通り、そんな発言を聞いて俺はすっかり嬉しくなっていた。
「おんぎゃあ、おんぎゃあ」
「……ぅ、産まれた……」
出産という行為は、ドMの俺の痛みのキャパを平然と超えてきて、かなり辛かった。
だが、10ヶ月もの間、自分の体の中で育てた子供と出会えると思えば、それもなんとか乗り越えられた。
赤ん坊を取り上げた医師がへその緒などの処置をして、俺のそばに運んでくれた。
「バトラル様。元気な男の子ですよ」
「うん。ぁあ、かわいい……僕の息子」
赤ん坊はしわくちゃで、元気に泣き声を上げている。お腹の中にいた時から元気で健康的なサイズだと医師は言っていたけど俺から見たら小さくて小さくて、この子を守らないとなと心の底から思えた。
その横で生まれたばかりの赤ん坊を見て、クライブが涙を流しているので俺はなんだかクライブがちゃんともう父親みたいな感じがしておかしかった。
「バトラル、ありがとう……っ、頑張ってくれてありがとう」
「クライブも……ありがとう」
「私はなにも」
「ここまで支えてくれたし、僕を親にしてくれた」
前世でだって俺は親ではなかった。そもそもゲイでドMだったし、虐めてもらえればそれで良いなんて考えて子供なんて必要ないと思っていたし、望んでもいなかったけど。ここにきて、自分が産む側の体になって、そして、不可抗力だが赤ん坊を産んで。考えががらりと変わった。それも好きな人との子供だ。
どんどん出てくる腹に、愛着が生まれ始めたのはいつからだっただろうか。
最初は妊娠したということに対してどこか他人事に感じていたしあまり興味はなかったのに、何かと動いたり虐めてもらうのに邪魔になり不便だと思って、けれど、そこに命があるのだと思ったらなんだか愛おしくも感じて。腹が大きくなるにつれてだんだんと親になるのだと自覚が出てきて、内側から蹴られたりした時には幸せを感じるほどになっていた。
「眠いか? 眠ってくれ」
「……ん」
先ほどまでで体力を使い果たした体は、多幸感に包まれていた。
ふわふわして、眠気が襲ってくる。
妊娠ができるとは言っても、この体は胸が出ているわけでもなく、乳腺が発達してないので授乳はできないらしい。少し寂しくも感じるが、赤ん坊にはちゃんと栄養のあるミルクを与えられるらしい。本当はナニーの仕事らしいがそれを俺も飲ませることで手をうった。
「……可愛いな」
うとうととしていると、ベッドの横で静かにただずんでいたバイロンが呟いた。それに、クライブが自慢げな様子で応えた。
「そうだろう。私とバトラルの子だ。バトラルに似てきっといい子に育つ」
「ああ……。次期皇太子殿下はとても可愛らしい。きっといい子に育つだろう。それはとても楽しみだが、次は私との子だ」
「バトラルはまだ出産直後だ。気が早いんじゃないか?」
「そうか? きっとバトラルなら喜ぶ」
俺が目を閉じているから、もうすっかり寝ていると思われているようだ。
出産直後の人間に対して早くも次の子を要求するなんて鬼畜な所業は、まさしくドMな俺にしか許されない発言だろう。
だが、バイロンの言う通り、そんな発言を聞いて俺はすっかり嬉しくなっていた。
313
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる