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元バトラル視点5
僕は仕事を始めることにした。
圭吾がどんな仕事をしていたかは分からないけど、僕がこの体で目覚めてからもう何日も出社していないし、多分クビになっているんだろう。黒川さんに使い方を教えてもらったインターネットというものの情報では、そうなっていた。元居た世界でも、何日も連絡もなく休むような使用人は暇を出すので、それに関しては世界による違いはないかもしれない。
とりあえず、履歴書不要の文字につられて、清掃会社で働くことにした。
日中は慣れないながらも仕事に行って動き回って、夕方や休日にはたまに黒川さんと会って遊ぶ。黒川さんだって仕事をしているし、僕以外の友人と遊ぶこともあるので、そういう時は1人で散歩したり、近場の飲み屋で飲んだり、一緒に飲んだ見ず知らずの人と意気投合したりしてそれなりに充実した日々を過ごしていた。
黒川さんと会えない日は寂しく感じるけど、負担に思われたくないし。
僕を大切な友人だと言ってくれる黒川さんの気持ちを、僕の恋心なんかで壊したくはない。
もしかしたら、恋人というものを作った方が良いのかもしれない。そうした方が、黒川さんにも僕にも良いのかもしれない。
だから、僕はインターネットで検索したゲイが集まるという飲み屋に通うことにした。
基本的に女性の少ない世界で生きてきた僕は、オメガ性の体ではなくなったとしても男性に惹かれるのだろうと思う。実際に好きになったのは黒川さんだし、職場で話す女性には特になんの感情も生まれなかったから。
けれど、一晩の相手に誘われることはあっても、交際するなどという工程を踏もうとしてくれる人はなかなか現れず、何の収穫も得られないまま数ヶ月が過ぎ、今度は一晩の相手すら誘ってもらえなくなった頃だった。
「隣、いいか?」
「もちろん……って、黒川さん? あれ?」
バーの端っこの席でちびちびやっていた僕の横に腰掛けたのは、かっちりとしたスーツを少しだけ着崩した黒川さんだった。今日は会う約束はしていなかったから、たまたま黒川さんも飲み屋に入って、たまたま知り合いの僕がいたから話しかけてくれたのだろうか。そう思っていると、黒川さんは慣れた様子で店員さんに「いつもの」と注文し、店員さんの方も慣れた様子で受け答えしてすぐにグラスを差し出した。
「黒川さん、常連ってやつなの?」
「……まぁな」
「でも、俺が通ってる間1回も合わなかったのすごいね。俺、ここ数ヶ月通ってるのに。まぁ、あんまりお金ないから、しょっちゅうじゃないけど」
「……知ってる」
「え?」
「圭吾がここに通い始めた1番初めの時から、ずっと知ってる」
「え? どういうこと?」
「1年くらい前、圭吾が俺と友人関係を辞めたいと言ってきたことがあっただろう」
「え、うん」
僕が圭吾の体で目覚めた時だ。
「その時から、圭吾の様子がどうも気になって調べさせたし、ゲイバーを探している時はさりげなく俺の行きつけに通うように仕向けた」
「な、なんで? 俺、そんなに様子変だった?」
「まぁ、以前と比べれば様子はかなり違ったな。以前の圭吾は、俺が睨むと嬉しそうに笑ったが、今の圭吾は、俺が笑えば嬉しそうに笑う。だが、以前から変わっていないのは、何事も全力で頑張っているところだ」
「そ、そう」
記憶を探っても黒川さんに睨まれた記憶なんてないが、圭吾は一体何をして睨まれていたんだろう。黒川さんが怒っているところを見たことがないけど、もしかしたら、ドMの圭吾は人を怒らせることが得意なのかもしれないと思った。とにかく、僕からすれば黒川さんから睨まれるなんて想像しただけでも恐ろしい。
「最近、一晩の相手からは断ってると聞いた」
「う、うん。やっぱり1人の人と付き合いたいって思うようになったんだ」
「そうか」
「うん」
「……圭吾は、虐められるのが好きで、俺は、相手のことは相手が俺なしでは生きていけないくらいにドロドロに甘やかしたい。俺たち2人は相性は最悪だろう。だが、一度試してみる気はないか」
「試してみるって?」
「俺と、真剣に交際してみてくれないか」
「な……なんで?」
ぶわりと気分が高揚し、直後に疑問を感じた。よく考えてもとても嬉しい提案ではあるけど、そんな黒川さんに何の得もない提案に、僕はそのまま疑問を口にしてしまっていた。
「俺が圭吾を好きだから。というのは理由になるか?」
「好き? ぼ、俺を?」
「ああ。俺は圭吾が好きだ。だから、俺と付き合ってくれ」
とても信じられないようなことを言われた。
けれど、黒川さんはそんな嘘をつくような人間じゃないと言うことは、短い付き合いでもよく分かっている。
僕が好きな相手が、僕を好きだと、付き合ってくれと言っている。こんなチャンスは多分一生に二度とない。僕は、早く応えなければと焦る気持ちで、黒川さんを真っ直ぐに見据えた。
「あ……、俺、俺も、黒川さんが好き……です。よろしくお願いします」
「……ああ。良かった」
黒川さんは、そう言って優しい笑みを僕に向けてくれた。
圭吾がどんな仕事をしていたかは分からないけど、僕がこの体で目覚めてからもう何日も出社していないし、多分クビになっているんだろう。黒川さんに使い方を教えてもらったインターネットというものの情報では、そうなっていた。元居た世界でも、何日も連絡もなく休むような使用人は暇を出すので、それに関しては世界による違いはないかもしれない。
とりあえず、履歴書不要の文字につられて、清掃会社で働くことにした。
日中は慣れないながらも仕事に行って動き回って、夕方や休日にはたまに黒川さんと会って遊ぶ。黒川さんだって仕事をしているし、僕以外の友人と遊ぶこともあるので、そういう時は1人で散歩したり、近場の飲み屋で飲んだり、一緒に飲んだ見ず知らずの人と意気投合したりしてそれなりに充実した日々を過ごしていた。
黒川さんと会えない日は寂しく感じるけど、負担に思われたくないし。
僕を大切な友人だと言ってくれる黒川さんの気持ちを、僕の恋心なんかで壊したくはない。
もしかしたら、恋人というものを作った方が良いのかもしれない。そうした方が、黒川さんにも僕にも良いのかもしれない。
だから、僕はインターネットで検索したゲイが集まるという飲み屋に通うことにした。
基本的に女性の少ない世界で生きてきた僕は、オメガ性の体ではなくなったとしても男性に惹かれるのだろうと思う。実際に好きになったのは黒川さんだし、職場で話す女性には特になんの感情も生まれなかったから。
けれど、一晩の相手に誘われることはあっても、交際するなどという工程を踏もうとしてくれる人はなかなか現れず、何の収穫も得られないまま数ヶ月が過ぎ、今度は一晩の相手すら誘ってもらえなくなった頃だった。
「隣、いいか?」
「もちろん……って、黒川さん? あれ?」
バーの端っこの席でちびちびやっていた僕の横に腰掛けたのは、かっちりとしたスーツを少しだけ着崩した黒川さんだった。今日は会う約束はしていなかったから、たまたま黒川さんも飲み屋に入って、たまたま知り合いの僕がいたから話しかけてくれたのだろうか。そう思っていると、黒川さんは慣れた様子で店員さんに「いつもの」と注文し、店員さんの方も慣れた様子で受け答えしてすぐにグラスを差し出した。
「黒川さん、常連ってやつなの?」
「……まぁな」
「でも、俺が通ってる間1回も合わなかったのすごいね。俺、ここ数ヶ月通ってるのに。まぁ、あんまりお金ないから、しょっちゅうじゃないけど」
「……知ってる」
「え?」
「圭吾がここに通い始めた1番初めの時から、ずっと知ってる」
「え? どういうこと?」
「1年くらい前、圭吾が俺と友人関係を辞めたいと言ってきたことがあっただろう」
「え、うん」
僕が圭吾の体で目覚めた時だ。
「その時から、圭吾の様子がどうも気になって調べさせたし、ゲイバーを探している時はさりげなく俺の行きつけに通うように仕向けた」
「な、なんで? 俺、そんなに様子変だった?」
「まぁ、以前と比べれば様子はかなり違ったな。以前の圭吾は、俺が睨むと嬉しそうに笑ったが、今の圭吾は、俺が笑えば嬉しそうに笑う。だが、以前から変わっていないのは、何事も全力で頑張っているところだ」
「そ、そう」
記憶を探っても黒川さんに睨まれた記憶なんてないが、圭吾は一体何をして睨まれていたんだろう。黒川さんが怒っているところを見たことがないけど、もしかしたら、ドMの圭吾は人を怒らせることが得意なのかもしれないと思った。とにかく、僕からすれば黒川さんから睨まれるなんて想像しただけでも恐ろしい。
「最近、一晩の相手からは断ってると聞いた」
「う、うん。やっぱり1人の人と付き合いたいって思うようになったんだ」
「そうか」
「うん」
「……圭吾は、虐められるのが好きで、俺は、相手のことは相手が俺なしでは生きていけないくらいにドロドロに甘やかしたい。俺たち2人は相性は最悪だろう。だが、一度試してみる気はないか」
「試してみるって?」
「俺と、真剣に交際してみてくれないか」
「な……なんで?」
ぶわりと気分が高揚し、直後に疑問を感じた。よく考えてもとても嬉しい提案ではあるけど、そんな黒川さんに何の得もない提案に、僕はそのまま疑問を口にしてしまっていた。
「俺が圭吾を好きだから。というのは理由になるか?」
「好き? ぼ、俺を?」
「ああ。俺は圭吾が好きだ。だから、俺と付き合ってくれ」
とても信じられないようなことを言われた。
けれど、黒川さんはそんな嘘をつくような人間じゃないと言うことは、短い付き合いでもよく分かっている。
僕が好きな相手が、僕を好きだと、付き合ってくれと言っている。こんなチャンスは多分一生に二度とない。僕は、早く応えなければと焦る気持ちで、黒川さんを真っ直ぐに見据えた。
「あ……、俺、俺も、黒川さんが好き……です。よろしくお願いします」
「……ああ。良かった」
黒川さんは、そう言って優しい笑みを僕に向けてくれた。
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