73 / 99
ルカ・ギルバー視点:1
しおりを挟む
俺は、ギルバー侯爵家の次男として産まれた。
アルファ家系ではあるが、特級アルファは1人もいない侯爵家で、特級アルファとして産まれた俺は、父親が兄のことを想うあまり、幼い頃から貴族の少ない軍の養成学校に入校させられた。
昔気質な家系ということもあり、父も母も長男であるジョーダンをとても大切にしており、次男のくせにジョーダンよりもアルファ性の数値が高い俺は疎まれていたのだ。
けれど、俺はたまにしか合わない兄のことを特に嫌いだとは思わなかった。
兄もまた、俺のことを特に嫌ってはいなそうだったからかもしれない。
長男のスペアとしての教育すら受けさせてはもらえなかったが、軍で荒波に揉まれ、仲間と共に切磋琢磨し、人数は少ないが人生経験として入隊させられている貴族の子息に勉強を教えてもらい、教え方がうまかったのか、勉強もメキメキとできるようになり、それなりに楽しい人生を過ごしてきたと自負している。
きっとこの先も、親や家族に対する愛を得られない変わりに、自由を満喫して生きて行き、酒場などで出会った女性と結婚するのだろう。漠然とそう考えていた。
けれど、軍から休暇を出され居心地の悪い実家に帰っている時に久しぶりに顔を合わせた両親は、迷惑なことに俺の存在をやっと思い出してしまったようだ。運が悪いことにちょうど帰省の時期と入学手続きの時期が重なっていたらしく、急ぎ、ボートルニア帝国貴族学園への入学手続きが決まった。次男とはいえ、侯爵家の息子がボートルニア帝国貴族学園へ入学しないのは、彼らにとって外聞が悪いらしい。
そうして俺は、この居心地の悪い屋敷よりも、自分の居場所と思っていた軍すらも奪われてしまった。
そんな経緯があったので、学園生活はまるでやる気を感じていなかったが、俺はそこでほとんど話したことの無い生徒に一目惚れをした。その生徒というのがバトラルだった。小さい体で、ふわふわのハニーブロンドの髪は、太陽の光が当たってキラキラと輝いていた。ヒートを起こしているわけでもなさそうだが、彼の近くを通るといつも甘い香りがした。その華奢な体をめいいっぱいに動かし、いつも全力で動いていて、ちょこまかしている様が可愛らしく健気で、陰ながら応援していた。だが彼は貴族に産まれた男性オメガだ。すでに皇太子殿下と婚約をしており、あとは公爵家の特級アルファが優先されるだろう。そして、その次が公爵家の特級ではないアルファ。その次に侯爵家が回ってくるとしても、あの両親は俺が兄を差し置いて彼の夫の1人になることを認めてはくれないだろう。
良い。それならそれで。彼が皇太子妃殿下になったなら、ひいては皇帝妃陛下だ。
軍人として、この国に仕えていれば回り回って彼の役に立つことはできるはずだ。
そう決意した俺は、彼のことを好きだとは、両親にも、使用人にも友人にも、もちろんバトラル本人にも誰にも話すこともせずただ日々を過ごした。
けれど、そんな日々は兄のやらかしによって突如終了した。
バトラルにもそれ以外にも多大な迷惑をかけ、家名に泥を塗ったのだ。
身勝手な理由でバトラルに危害を加え連れ去ろうとしたことは、例え兄1人が死んだところで許されることではない。
俺が兄に代わりギルバー侯爵を襲爵したが、それも時間の問題で、いずれ一家全員連座されることだろう。父も母も、暗い表情で部屋にこもりがちになった。
俺はいつ処刑されるかも分からない身なので、がむしゃらに働いた。
残された人生、全力を出しすぎたとしても疲れた頃には処刑だろう。
だから、出し惜しみせずに全力をだした。
時間外労働もすすんで引き受けた。
けれど、しばらくしても俺は処刑されることはなく、それどころか宰相を目指して見習いのようなことをさせられるまでになっていた。
学生の頃、ほとんど話すこともできなかったバトラルの教育係も任されて、寝る時間もさらになくなったが、バトラルと話せて、俺は最高に幸せだった。
最近はいつも隣に生意気な年下の子爵子息がいるのが、鬱陶しく思いながらも、忙殺される生活の中で、バトラルに勉強を教えている間は、唯一と言っても良いほどの癒しの時間だった。
アルファ家系ではあるが、特級アルファは1人もいない侯爵家で、特級アルファとして産まれた俺は、父親が兄のことを想うあまり、幼い頃から貴族の少ない軍の養成学校に入校させられた。
昔気質な家系ということもあり、父も母も長男であるジョーダンをとても大切にしており、次男のくせにジョーダンよりもアルファ性の数値が高い俺は疎まれていたのだ。
けれど、俺はたまにしか合わない兄のことを特に嫌いだとは思わなかった。
兄もまた、俺のことを特に嫌ってはいなそうだったからかもしれない。
長男のスペアとしての教育すら受けさせてはもらえなかったが、軍で荒波に揉まれ、仲間と共に切磋琢磨し、人数は少ないが人生経験として入隊させられている貴族の子息に勉強を教えてもらい、教え方がうまかったのか、勉強もメキメキとできるようになり、それなりに楽しい人生を過ごしてきたと自負している。
きっとこの先も、親や家族に対する愛を得られない変わりに、自由を満喫して生きて行き、酒場などで出会った女性と結婚するのだろう。漠然とそう考えていた。
けれど、軍から休暇を出され居心地の悪い実家に帰っている時に久しぶりに顔を合わせた両親は、迷惑なことに俺の存在をやっと思い出してしまったようだ。運が悪いことにちょうど帰省の時期と入学手続きの時期が重なっていたらしく、急ぎ、ボートルニア帝国貴族学園への入学手続きが決まった。次男とはいえ、侯爵家の息子がボートルニア帝国貴族学園へ入学しないのは、彼らにとって外聞が悪いらしい。
そうして俺は、この居心地の悪い屋敷よりも、自分の居場所と思っていた軍すらも奪われてしまった。
そんな経緯があったので、学園生活はまるでやる気を感じていなかったが、俺はそこでほとんど話したことの無い生徒に一目惚れをした。その生徒というのがバトラルだった。小さい体で、ふわふわのハニーブロンドの髪は、太陽の光が当たってキラキラと輝いていた。ヒートを起こしているわけでもなさそうだが、彼の近くを通るといつも甘い香りがした。その華奢な体をめいいっぱいに動かし、いつも全力で動いていて、ちょこまかしている様が可愛らしく健気で、陰ながら応援していた。だが彼は貴族に産まれた男性オメガだ。すでに皇太子殿下と婚約をしており、あとは公爵家の特級アルファが優先されるだろう。そして、その次が公爵家の特級ではないアルファ。その次に侯爵家が回ってくるとしても、あの両親は俺が兄を差し置いて彼の夫の1人になることを認めてはくれないだろう。
良い。それならそれで。彼が皇太子妃殿下になったなら、ひいては皇帝妃陛下だ。
軍人として、この国に仕えていれば回り回って彼の役に立つことはできるはずだ。
そう決意した俺は、彼のことを好きだとは、両親にも、使用人にも友人にも、もちろんバトラル本人にも誰にも話すこともせずただ日々を過ごした。
けれど、そんな日々は兄のやらかしによって突如終了した。
バトラルにもそれ以外にも多大な迷惑をかけ、家名に泥を塗ったのだ。
身勝手な理由でバトラルに危害を加え連れ去ろうとしたことは、例え兄1人が死んだところで許されることではない。
俺が兄に代わりギルバー侯爵を襲爵したが、それも時間の問題で、いずれ一家全員連座されることだろう。父も母も、暗い表情で部屋にこもりがちになった。
俺はいつ処刑されるかも分からない身なので、がむしゃらに働いた。
残された人生、全力を出しすぎたとしても疲れた頃には処刑だろう。
だから、出し惜しみせずに全力をだした。
時間外労働もすすんで引き受けた。
けれど、しばらくしても俺は処刑されることはなく、それどころか宰相を目指して見習いのようなことをさせられるまでになっていた。
学生の頃、ほとんど話すこともできなかったバトラルの教育係も任されて、寝る時間もさらになくなったが、バトラルと話せて、俺は最高に幸せだった。
最近はいつも隣に生意気な年下の子爵子息がいるのが、鬱陶しく思いながらも、忙殺される生活の中で、バトラルに勉強を教えている間は、唯一と言っても良いほどの癒しの時間だった。
272
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。
牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。
牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。
そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。
ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー
母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。
そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー
「え?僕のお乳が飲みたいの?」
「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」
「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」
そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー
昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!
「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」
*
総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。
いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><)
誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる