偽りの愛

いちみやりょう

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俺は弟じゃなくなった

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「若! 今日も喧嘩なされたのですか?」

そう俺に聞いてきたのは父の舎弟の一人。
名前はいちいち覚えていないが、こいつらはやたら俺を慕ってくる。
俺の父はヤクザの頭で、俺はその息子ってだけなのに。

「ああ」

俺がいつも通りそっけなく答えても特に気にした様子もなくみんな嬉しそうな顔をする。

「そうですかっ、勝ちましたか?」
「当たり前だろう」

そう答えると嬉しそうにニヤニヤしながらどこかへ去って行った。

俺は自分に割り当てられた部屋に戻って服も脱がずにベッドにダイブした。
喧嘩には勝ったが顔の傷がひりひりと痛む。

「くそっ」

俺は自分から喧嘩を売ったことなどない。
周りが喧嘩をふっかけてくるから買ってるだけだ。

ベッドから起き上がるのも面倒で寝転がったままなんとか制服を脱げないかともがいていると部屋の入り口からため息が聞こえた。

「若。服を脱ぐときぐらい起き上がったらどうです。みっともない」
「うっせーよ。俺はめんどくせぇ気分なの。なんなら脱がしてくれよ、憲史けんし
「……はぁ」

憲史は心底呆れたように息をついて俺の服を脱がせにかかった。

「ほら、腰あげてください」
「ふへへ、なんかこの状況、エロくね?」
「そうですか。俺は幼稚園児の相手をしている気分ですよ」
「ひでえ」
「ほら、こんなに怪我をして。着替えたら手当てをしますのでちゃんと起き上がってくださいよ」
「わかったよ」

口ではなんだかんだ言っても結局俺の世話を焼いてしまうこいつは、久道くどう 憲史けんしと言って俺の5歳年上の世話係だ。孤児だった憲史をうちの父親が引き取って、俺の世話係にしたんだ。
昔は俺の名前も呼んでくれていたのにいつからか“若”としか呼ばれなくなった。

いつからか……なんてとぼけてみなくても分かってる。
俺が14歳、憲史が19歳の時、俺がこいつに告白したからだ。
弟のように可愛がっていた人間から突然告白されて憲史はさぞ気持ち悪かったに違いない。
だが、憲史は優しく微笑んで初恋を拗らせていた俺を残酷なまでに木っ端微塵に振った。

『俺がマサをそういう意味で好きになることなんて一生ないよ。マサが大きくなれば俺はマサの舎弟になるんだ。大丈夫。身近に俺しかいなかったからマサは勘違いしてしまったんだね。マサにはきっといい女の子がお嫁さんに来てくれるよ』

優しく優しく俺の頭を撫でながら憲史は俺を振った。
それからだ。憲史は徐々に俺に対して敬語になっていった。
マサと呼んでくれていたのは“若”になった。
弟のように可愛がるんじゃなくて舎弟として俺に従うようになった。

俺はそれが寂しかったけどいくら頼んでも謝っても元の憲史に戻ってくれることはなかった。

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