偽物にすらなりきれない出来損ないの僕

いちみやりょう

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2:ミヒャエル

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寝ている自分の周りがやけに騒がしく、春海は重い瞳をやっとのことで上げた。

「目を覚ましたかっ」
「ミヒャエル……ッ、ああ、あなた、ミヒャエルよ」

春海の目の前には、金髪碧眼の40代ほどの男女がいた。
仰向けに寝ている春海の上から覗き込むようにされており、どちらもホッとしたような表情で春海を見つめている。

「……ぁ、あの……?」
「ああ、話さなくてもいい。今は目が覚めたばかりなのだから。細かいことはいいから、ミヒャエルはゆっくり寝ていなさい。ああ、神様……ありがとうございます」

男性の方が、起き上がろうとした春海の体をそっと寝台に戻し、ついにはポロリと涙を流した。
その横で、女性の方も涙を流している。

春海は、何が起こっているのか訳がわからず、ただ言われるがままベッドに横になっていた。

(ここって、死後の世界……?)

春海は、寝ている状態で見える範囲で、視線を動かして周りを見てみた。
置かれている装飾品などは、全てアンティークのような見た目で、とても日本だとは思えない。その上、目の前の男性と女性は、金髪碧眼だ。

(もしかして、持ってた岩が僕から外れて、外国に流されちゃったのかな)

困惑した状態のまま、そんな仮説を立ててみたけれど、どうもそれもしっくりこない。

(だって、こんな流暢な日本語、なかなか話せないよね……。それに、僕に向かってミヒャエルって呼んでた)

春海はもともと日本で生活しているし、両親共日本人で当然のように黒髪黒目だ。
だから、金髪碧眼の彼らにミヒャエルという名の人と間違えられるなどありえない。
春海が黙っていると、女性が眉を下げて小さく息を吐いた。

「嬉しくてずっとここに居たくなってしまうけれど、あまり騒がしくしていると、ミヒャエルが疲れてしまうわね」
「ああ、夕飯の席までゆっくり寝かせておいた方が良いだろうな」
「ミヒャエル、愛してるわ。戻ってきてくれて本当にありがとう」

男性も女性も、春海の額に軽くキスを落として、名残惜しそうに部屋を出て行った。
“愛している”なんて言われ慣れない言葉を言われて、春海は自分の頬が紅潮していくのを感じた。

(分かってる。これは、僕にじゃなくてミヒャエルさんって人に向けて言った言葉だ)

それでも、春海からしたらそれでも良いと思えるくらいに嬉しかったのだ。

部屋の中には木漏れ日が入ってきて、暖かくて心地が良くて、うとうととしていると、あっという間に夕飯の時間になった。

「さあ、お食べ。ミヒャエルの好きなものを揃えさせたんだよ」
「ぁ、ありがとう、ございます」
「なぁに? この子ったら他人行儀ね。ふふふ」
「もう病気じゃなくなったから、なんでも食べられるな」

男性も女性も、嬉しそうに目を細めていて、春海まで嬉しくなって一緒に笑った。
テレビで見るような長い机に乗せられた食べ物は、どれもこれも春海のみたことのない食べ物だったが、とても美味しそうで、キラキラと輝いて見えた。
けれど、ナイフやフォークがたくさんあり、どれを使っていいのか春海には分からない。
そんな春海の心情を悟ったのか、女性の方が春海に向かって微笑んだ。

「緊張しなくて良いのよ。今日はユリウスも居ないからマナーも気にしないで食べなさい」

ミヒャエルに続き、“ユリウス”という知らない名前が出てきた。
ミヒャエルという人物は、春海が間違えられている人物だが、ユリウスというのは、ミヒャエルとどのような関係があるのだろう。
けれど、今は知らない名前よりも、目の前の食事に気を取られていた。
マナーを気にしなくても良いとは言われたが、一応、男性と女性の動きを、見様見真似で真似しながら、高級そうなお肉を1口サイズに切り分けて口に運ぶ。

噛むとジュワリと肉汁が溢れ出てきて、すぐに口の中からなくなった。

(美味しい……、こんなの、初めて食べた)

それからはもう、食事の手は止まらず、気がついたときには用意されていた皿の上のものは、綺麗さっぱり何も残っていなかった。
けれど、腹が膨れるとだんだんと罪悪感を感じ始めた。
ミヒャエルという人と勘違いされているだけで、こんな良い物を食べさせてもらえて申し訳がない。

罪悪感ははっきりと表情に現れたらしい。
女性がすぐに気がつき、心配そうに眉を下げた。

「ミヒャエル? 顔色が悪いわ」
「疲れてしまったのかもしれないな。ミヒャエル、無理は禁物だ。部屋に戻ってゆっくりと休みなさい」
「……あの……、はい」

春海は結局、人違いであることは伝えることができず、言われるがまま部屋に戻った。
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