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24:再会
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「さあ。話しておいで」
「……はい」
クリストフに優しい声音で背中を押され、春海は一室の前で緊張して固まっていた体をようやく動かした。
クリストフが春海に会わせたいと言っていた人物が、目の前の扉の奥に来ているのだ。
ここから先、春海は1人で部屋に入り、その人物と対面する。
(ユリウス様……)
心の中で、予想している人物に呼びかける。
この1年、クリストフのおかげで家族というものを知ったし、愛されるということも知った。
けれど、春海が父や兄の幻覚に悩まされなくなったのは、きっとクリストフだけではなくてユリウスのおかげでもある。
嬉しいことがあったとしても、悲しいことがあったとしても、自分を否定し傷つけるだけの幻覚は、ユリウスに会って友人になってから、1年経った今もさっぱりと出なていないのだ。
だから彼と2人きりで話すのは、そうした方が良いだろうと、クリストフが言ったからというのもあるけれど、春海自身、彼とゆっくり2人で話したいと思ったからだ。
「さあ。扉を開けるよ」
「はい」
「行っておいで」
クリストフの魔法によってひとりでにドアがガチャリと開き、今度は春海の体をふわりと暖かい空気が包んで、抵抗する間も無く中に入れられ、対面するソファの1つにふわりと着席させられた。
「っ、ハルミ」
「ユリウス様」
ソファの向かいには、想像通りユリウスが居て、春海を見て目を見開いていた。
「ハルミ、無事で良かった。そして、すまなかった」
「え?」
ユリウスに謝られることなど何も心当たりがなく、春海は少し戸惑った。
「魔力体だったことも、お面のことも、私が至らず未熟なばかりに、たくさん傷つけてしまっただろう。すまなかった」
それからユリウスは色々と教えてくれた。
「ハルミが着けていたお面は魔力制御の機能のあるお面だったそうだ。着けているのといないのとでは、声も違うし、魔力量や気配も変わる。私はそんな事にも気がつかず、最後に会った日にハルミにを傷つけてしまった」
「そんな……、ユリウス様のせいじゃないです。それに傷ついてなんか」
それに声も気配も魔力量も変わっていたなんて、身に着けていた春海自身知らなかったことだ。
「ハルミに呼ばれるのならば、名前でも兄上でもお兄様でも何でも嬉しいと言ったのに。あの時私はハルミがお兄様と呼ぶのを拒絶した」
「っ」
そんなことは当然のことだと今の春海なら思える。
確かにあのときは、自分が特別だと勘違いしてユリウスにあれ以上迷惑をかけることが怖かった。けれどそれで傷ついたとは思っていない。
「ハルミが居なくなって、すぐに探した。けれど、小さい体でそう遠くまで行っていないはずなのにアルトルすら探し出すことが出来なかった。私は途方に暮れた。一縷の望みにかけて、走り去った彼がハルミではなかったかもしれないと、中庭に来るかもしれないと、私は中庭から動けなくなった」
ユリウスの膝の上で固く握られている手はわずかに震えているように見えた。
「中庭でできる範囲の仕事をしながら、人を使ってハルミを探させた。けれどやはり、見つからない。私は、ハルミがいなければ生きていけないというのに……っ」
「っ」
言われたことをすぐには理解できなかった。
そして理解してからも、あまりにも嬉しい言葉すぎて、現実かどうか心配になった。
「そうして中庭で腐っている私のもとに、魔法省を引退したジーケルト教官が現れた。そしてハルミが教官の家にいることを知った。見つからないはずだと納得した。教官の家はこの国で1番、隠しものに向いている。世界一の魔法使いの家なのだから」
「世界一……? ジーケルト……?」
ユリウスは春海が教官の家にいると言った、つまり、クリストフの苗字はジーケルトで、クリストフは世界一の魔法使いということなのだろうか。
「あれ? でも確か、アルトルさんもジーケルトと名乗っていたような気がする」
春海の呟きにユリウスは一つ頷いた。
「教官はアルトルの伯父さんで育ての親でもある。教官はそのアルトルにすら知らせずに、ハルミをかくまっていた」
「そう、だったんですね」
「教官は言った。ディクソン侯爵家のことが片づけば、ハルミに会わせてくれると。私はハルミが確実にこないと分かった中庭をやっと離れ、先日やっと全てを終わらせることができた」
春海はそうまでして会いたいと思われているのは、何だかとても愛されているような気がして、照れ臭くなった。これも1年前なら、自分が特別なわけじゃない、勘違いするなと必死に自分を諫めているところだったけれど、愛を知った春海は心に余裕があった。
「……はい」
クリストフに優しい声音で背中を押され、春海は一室の前で緊張して固まっていた体をようやく動かした。
クリストフが春海に会わせたいと言っていた人物が、目の前の扉の奥に来ているのだ。
ここから先、春海は1人で部屋に入り、その人物と対面する。
(ユリウス様……)
心の中で、予想している人物に呼びかける。
この1年、クリストフのおかげで家族というものを知ったし、愛されるということも知った。
けれど、春海が父や兄の幻覚に悩まされなくなったのは、きっとクリストフだけではなくてユリウスのおかげでもある。
嬉しいことがあったとしても、悲しいことがあったとしても、自分を否定し傷つけるだけの幻覚は、ユリウスに会って友人になってから、1年経った今もさっぱりと出なていないのだ。
だから彼と2人きりで話すのは、そうした方が良いだろうと、クリストフが言ったからというのもあるけれど、春海自身、彼とゆっくり2人で話したいと思ったからだ。
「さあ。扉を開けるよ」
「はい」
「行っておいで」
クリストフの魔法によってひとりでにドアがガチャリと開き、今度は春海の体をふわりと暖かい空気が包んで、抵抗する間も無く中に入れられ、対面するソファの1つにふわりと着席させられた。
「っ、ハルミ」
「ユリウス様」
ソファの向かいには、想像通りユリウスが居て、春海を見て目を見開いていた。
「ハルミ、無事で良かった。そして、すまなかった」
「え?」
ユリウスに謝られることなど何も心当たりがなく、春海は少し戸惑った。
「魔力体だったことも、お面のことも、私が至らず未熟なばかりに、たくさん傷つけてしまっただろう。すまなかった」
それからユリウスは色々と教えてくれた。
「ハルミが着けていたお面は魔力制御の機能のあるお面だったそうだ。着けているのといないのとでは、声も違うし、魔力量や気配も変わる。私はそんな事にも気がつかず、最後に会った日にハルミにを傷つけてしまった」
「そんな……、ユリウス様のせいじゃないです。それに傷ついてなんか」
それに声も気配も魔力量も変わっていたなんて、身に着けていた春海自身知らなかったことだ。
「ハルミに呼ばれるのならば、名前でも兄上でもお兄様でも何でも嬉しいと言ったのに。あの時私はハルミがお兄様と呼ぶのを拒絶した」
「っ」
そんなことは当然のことだと今の春海なら思える。
確かにあのときは、自分が特別だと勘違いしてユリウスにあれ以上迷惑をかけることが怖かった。けれどそれで傷ついたとは思っていない。
「ハルミが居なくなって、すぐに探した。けれど、小さい体でそう遠くまで行っていないはずなのにアルトルすら探し出すことが出来なかった。私は途方に暮れた。一縷の望みにかけて、走り去った彼がハルミではなかったかもしれないと、中庭に来るかもしれないと、私は中庭から動けなくなった」
ユリウスの膝の上で固く握られている手はわずかに震えているように見えた。
「中庭でできる範囲の仕事をしながら、人を使ってハルミを探させた。けれどやはり、見つからない。私は、ハルミがいなければ生きていけないというのに……っ」
「っ」
言われたことをすぐには理解できなかった。
そして理解してからも、あまりにも嬉しい言葉すぎて、現実かどうか心配になった。
「そうして中庭で腐っている私のもとに、魔法省を引退したジーケルト教官が現れた。そしてハルミが教官の家にいることを知った。見つからないはずだと納得した。教官の家はこの国で1番、隠しものに向いている。世界一の魔法使いの家なのだから」
「世界一……? ジーケルト……?」
ユリウスは春海が教官の家にいると言った、つまり、クリストフの苗字はジーケルトで、クリストフは世界一の魔法使いということなのだろうか。
「あれ? でも確か、アルトルさんもジーケルトと名乗っていたような気がする」
春海の呟きにユリウスは一つ頷いた。
「教官はアルトルの伯父さんで育ての親でもある。教官はそのアルトルにすら知らせずに、ハルミをかくまっていた」
「そう、だったんですね」
「教官は言った。ディクソン侯爵家のことが片づけば、ハルミに会わせてくれると。私はハルミが確実にこないと分かった中庭をやっと離れ、先日やっと全てを終わらせることができた」
春海はそうまでして会いたいと思われているのは、何だかとても愛されているような気がして、照れ臭くなった。これも1年前なら、自分が特別なわけじゃない、勘違いするなと必死に自分を諫めているところだったけれど、愛を知った春海は心に余裕があった。
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