偽物にすらなりきれない出来損ないの僕

いちみやりょう

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ユリウス視点:初めての感情

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屋敷の中を見て周り、また両親との気まずい夕飯を済ませた後、今度は屋敷外を見て回ることにした。屋敷内では特に異常も見つからず、その上、昼間に見たお面を被った使用人の子供が見当たらなかったからだ。中庭が見える範囲を歩く際には、あの少年がいるのじゃないかと確認するたびに、誰もいない中庭を確認して、少しガッカリしていたのだ。

だが、なぜ少年がいないというだけでガッカリするのかは、ユリウス自身にも分からなかった。

すっかり日が落ちた中庭の奥のちょっとした森に足を踏み入れた。手のひらに光の玉を出して辺りを照らし、草を踏む音が不快なので、音を鳴らさぬように歩く。

(幼い頃はよくこの先の小池に来ていたな)

家族からの疎外感を感じて、1人になりたい時に来ていた場所だ。
ちょうどその小池が見えてきたところで、小池の前に誰かがいるのが見えた。

それはまさしく、先ほどから姿が見えなくてがっかりしている相手だった。

「ここに居たのか」

そう呟いてから、ユリウスは内心しまったと焦った。
その言葉では、ユリウスが少年を探していたように捉えられる。実際それも理由にあるが、なぜかそう思われるのは照れ臭く感じた。

少年は驚いたのか素っ頓狂な声を上げて、返事をした。

「いくら敷地内とはいえ、暗くなったら危ない。自分の部屋に戻りなさい」
「はい」

素直に頷いた少年を、使用人塔まで送って行こうとすると、遠慮しているように断ってきた。
けれど眉が下がった困った表情や、弱ったような声音の少年を送り届けないなどできるはずもない。

(なんだか、放って置けない少年だ)

結局、使用人塔まで送ることを強行し、送っていく道すがら、他愛のない話を振り、雑談しながら帰った。少年の寂しそうな雰囲気がそうさせるのか、はたまた何でも話してしまいたくなる雰囲気でも発しているのか、ミヒャエルの話までしてしまった。

(放って置けない、というより不思議な少年、か)

仕事の中で警らや研究をすることもあるユリウスは、市井の人々や、子供の考えを取り入れたりもしたかったが、如何せん見た目のせいで怖がられ、まともな会話はできないのだ。
けれど、目の前の少年は、確かに怯えているように見えるのに、ユリウスから逃げることもせず、剰え、会話することもできるのだ。

その上、少年から発せられているオーラは、一目でいい子なのだろうなと分かるほどに、暖かい色と雰囲気をしている。

けれど、少年は寂しそうな、どこか人を信用していなさそうなそんな雰囲気も纏っている。
ユリウスは昔の自分もこんなだったのだろうかとふと、思った。

(だから、教官も私を気にかけてくれたのだろうか)

教官から親の愛を教わったユリウスは、きっと少年にも愛してくれる人は見つかるはずだと確信していた。きっと少年は幸せになると、そんな気がした。

そんなユリウスのアドバイスとも言えぬほどの言葉を、少年はそんなことを思ったこともなかったというような驚いた顔で聞いていた。

「僕を……、本当の僕自身を愛してくれる人もいるかもしれないってこと……?」

そんな寂しい確認をされて、ユリウスは胸が痛くなった。

「ああ断言する。間違いなく、この世界の何処かにはいるはずだ」

頷き肯定すれば、少年の顔には光が差したようにパッと明るくなった。

(ああ、この少年を幸せにするのが私なら良いのに)

そう思ってから、ユリウスは自分が今何を考えたのか考えて、グッと喉がなった。
そんな感情は初めてだった。何か小さなことでも良いから頼ってもらいたいだとか、その柔らかそうな髪を撫で、甘やかしてやりたいとか。今日会ったばかりの少年に対して向けるような感情じゃない。
もしかしたら、ミヒャエルを失っておかしくなっているのか両親だけではないのかもしれないと、ユリウスは自重気味に笑った。

小型犬のように無防備に尻尾を振っているかのような幻覚まで見えてきそうだ。いや、どちらかと言えば野良猫だろうか。どちらにしても、可愛らしいことには変わりない。
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