魔烙印-MAGIC BRAND-

とろみ

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第1章 呪いの烙印

1. 悪魔の子の恋

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「おめでとう。ついに明日だね、ユミナ。」
「ありがとう シド。」
爽やかな春の夜風を感じる。月明かりが照らすなか、ユミナの整った横顔を伺いつつ、僕は次の言葉を探す。
「・・・寂しく、なるね。」

ふいに、ユミナの長い髪がさらさらと顔に当たった。

「その言葉は、私に言わせて欲しかったなぁ。」
「はは、ごめんよ。」

肩に寄りかかる彼女の心地よい重さを感じながら、僕は目を閉じる。

「ユミナ・・・。」
伝えなければいけない事がある。
「・・・君に出会えていなかったらきっと今の僕はないよ。君が僕を人間にしてくれたんだ。」
16歳でこの村に来て2年。ユミナの存在は僕にとってかけがえのないものだった。何故ならば僕は-
「違うでしょ。やり直し!」
「・・・え?」
何故だか彼女は不貞腐れたようになっている。
別に、変な事言ってないよな、、むしろお礼を言ったのに何で-
「私が今聴きたいのはそんな言葉じゃないの!」

・・・・・・。
なるほど、どうやら僕はとんだ失態をおかしたらしい。

「ユミナ、君の事が好きだよ。」
「・・・ふふ。よく出来ました。」

こんな僕には手に余るほどの幸せを、彼女はいつも与えてくれる。 この日々も、もう終わってしまうのだろうか。そんなことを考えていたら、彼女の左腕につい視線を向けてしまった。

「不思議よね。魔烙印マジック・ブランド。」
「あぁ、ごめん。つい。」
「いいの。これって大体思春期ごろに出ることが多いみたい。私は少し遅めだったのかな。」
「そういうのは個人差があるって言うけど。」
「そうね。10歳で発現する子もいれば20歳手前でって人もいるみたい。」
「王族さまは生まれた時にはもう烙印あるって聞いたよ。」
「ははは。王族とかと比べちゃあいけないよ。もう格が違うもん。」
「ユミナは・・・」
「ん?私のはDランクね。」
彼女は肩の深い青色の烙印を手でなぞる。
彼女の身体に浮かび上がるそれは、不思議と僕の憎む烙印とはまるで違うものに見える。邪悪さなど微塵も感じられない。
「水のクラス。まぁ結構人口は多いらしいわ。」
「・・・“内”の話か。」
「そうね。」

魔法都市メサイア。内。不落城。
原則として王族と貴族。そしてDランク以上の魔法使いのみが居住を許される城壁の中の世界。外の世界に生きる人間のことなど、家畜としか思っちゃいない奴らが住む世界。

「ほんとに・・・なんか現実味が無いのよね。あの中に、メサイアに私が入るなんて。」
「マリアさん寂しがるだろ。」
「もう何度も泣かれたわ。でも喜んでた。誇りだって。」
「良かったじゃないか。」
「この村からはシャナさん以来ね。」
「何してんだろうな。あの人は。」
「村に1回も連絡も仕送りも無いしね...」
「あの人は・・・。ユミナはちゃんとマリアさん助けてやれよ?」
「うん。これでママ達にもいい暮らしさせてあげられる。ここじゃ、どんなに沢山働いてもね・・・あ、ごめん!」
「いいんだ。ユミナの言う通り、こっちは搾取の都だ。」
「壁の向こう・・・かぁ。」
僕と彼女は遠くにぼんやりと浮かび上がる、分厚い城壁を見ながらまた身を寄せ合う。

「あ シド、これ。」
彼女は思い出したというふうに僕に何かを手渡す。
「僕に?」
「うん。」
包装を解くと、中から現れたものは1本の万年筆と便箋だ。どうやら魔力が込められている。
「ユミナ、これってまさか。」
「うん、マテリア・レター。私からのプレゼント!」
「すごく高価な物じゃないか。」
「でも、こうしないとシドへ手紙が書けないと思ったの。だって・・・シド宛の便りをママ達は届けてくれるかしら。」
「そう・・・だね。」

こういうことで、どうしようも無く思い知らされる。自分が何であるかを。いや、自分が何であるかを分からないものである事を。得体のしれない者。異常。呪い。悪魔。こんな僕はユミナとこの先何があっても--
「シド。」
彼女はそっと僕にハグをした。優しくて温かいぬくもりを感じる。

「貴方は悪魔の子では無い。絶対に。その左手の印はきっと烙印よ。そうきっと、新しい烙印なの。」
「ユミナ、ありがとう。でも魔烙印マジック・ブランドはもう六種類と神が定められたものだ。それに・・・」
「で、でも!シドは魔力が分かるじゃない!普通は魔力は魔法使いじゃないと感じることすら出来ないものよ!?」
たしかにその通りだ。しかし-
「そう。僕は魔力を感じ取ることが出来る、けれどね。この印にはその肝心な魔力を僕は感じられないんだ。」
「・・・・・・。」
彼女は黙った。
・・・この問答ももう何度目だろう。毎度同じ結論になるのに。

「まぁ、とりあえず、烙印かどうかは置いとくとしてもよ!シドは悪魔なんかじゃないから!!」
やれやれ、今夜はいつにもまして引き際が悪いな。彼女は顔を真っ赤にしている。
「ありがとう。その言葉だけで充-」

「私の未来の旦那さんよ。」
「!!」

そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべると。

僕の唇に彼女の唇が重なった。

---

「ユミナ!」
「ユミナ、身体に気をつけてね。」
「行ってらっしゃい!!」

翌朝、村の出口にユミナを見送る人だかりに僕は混ざらない。この村の村長の娘である彼女を囲む人々の数は多く、それは彼女自身の人望を表していた。

「行ってらっしゃい。ユミナ。」
物陰に身を隠し、小さな声でそっと言った。

やがて、メサイアの役人と共に奇妙な形をした車にユミナは姿を消した。
馬ではなく、運転者の役人の送る魔力を動力源とする車が音も無く地面を滑り出すと、ユミナへの別れを惜しむ声がより一掃増した。

Dランク以上の魔力を宿すユミナはこれからメサイアでその魔法を活かした職を与えられることとなり、高額な給与を得る。 
そのため、この村のようなけして裕福ではない村から魔法使いが生まれることは名誉なことであると同時に、経済的な大きな助けとなる。ユミナが次に休暇を取ってメサイアから帰還する時にはきっと英雄扱いであることは間違いない。親孝行ものだ。

彼女は“内”でもよくやるだろう。
聡明な女性だ。 僕には勿体無いくらいの。
凡庸な僕は、否、悪魔の子であるシド・アンドラスはせめて彼女からの便りでも待つことにしよう。
彼女に会えたから僕は人間を知り、人間になれたのだ。 会えない日が続くことは勿論辛いが、彼女の幸せを願うことが今の僕に出来る全てだ。

しかし、急いで来るあまり、手袋を着けてくるのを忘れてしまった。早めに家に戻らなければまずいな。

「あらシドさん!村に降りてくるなんて珍しいわ。ねぇ、どう?お昼はうちの店に寄ってかない?」
「シドさん、あの、今度是非一緒に・・・」
「ええ。また今度、寄らせていただきますね。」

この左手を見られるのが一番まずいが、そうでなくとも、僕はひっそりと息を潜めて暮らしたいのだ。
しかし、どうやら僕の容姿は人目に付く。面倒なことだ。人に物珍しく群がってこられると鬱陶しい事この上ない。
さらに正直に言ってしまえば、僕はユミナ以外と話す事など何も無い。
・・・彼女の居ないこの街など、僕にとって何の価値もないな。 またここも、棄ててしまおうか。

「おにーちゃーん、その左手の何ー?」


「何でもないよ。ちょっと怪我しただけさ。」

・・・・・・。
いけない、いけない。
こんなことを考えてしまうようじゃ、彼女に悲しまれてしまうだろう。何より、相応しくないだろう。彼女の夫には。


---

「この世界が・・・滅べばいいのにぃ。」

「はぁ、お前は...そんな事ばっか言ってるとまた執事のヤツらに聞かれて叱られんぞ。」
「つまんない。魔法なんかもう無くなっちゃえばいいの。」
「おいおい、我らがお姫様は何を言っているのやら。」
「お姫様って言わないで!」

昼下がりの中庭。よく手入れされた芝生で上裸で鍛錬する少年と、足を投げ出して椅子にもたれ掛かる様にして座る少女の姿があった。
機嫌を損ねてしまった少女は少年へ声を荒らげていた。
「だかなシルフィ、こう人がこうやって鍛錬をしてるときにだな、お前は魔法なんて-」 
「うるさい!もう!」
「・・・スマン。」
少年は情けなく謝ることしか出来ずに軽く肩を竦め、ゆっくりと空を仰いだ。
彼の左胸に浮かぶ黄色の烙印がその色を徐々に薄め、やがて消えた。
「まぁ、おれも魔法を恨んだことはあるよ。いや、ガレノス家に生まれながらも素質の無い自分にか。」
「ふぅん。」
「でもさ、そんなこと言っても始まらないんだ人生は!魔力が足りないなら他を鍛えればいいんだ。オレはその機会を貰えたんだよ!」
「うわあ 暑苦しい。どこから出てくんのよそのポジティブ思考。」 
「はは!お前だって...その、きっといつか-」
「姫様。時間でございます。」
「わかったわ。」
音も無く現れた執事が、少女に声をかける。姫様と呼ばれた少女は頷き椅子から腰を上げた。
「ありがとう。ケヴィン、お邪魔したわ。」
「おう、またな。」

どこか気だるげな、それでいて静かに身を預けたくなる様な春の空気の中で、少年は目を閉じ深呼吸をした。
「あいつも・・・苦労してんな。」
自分が力になりたい。 
きっと今に何もかもが良くなる。その時に自分がアイツの隣で剣として在りたい。そう思った。
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