魔烙印-MAGIC BRAND-

とろみ

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第1章 呪いの烙印

2. 魔力と血統

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「お前は本当にガレノス家の男か?ふん、悔しいのなら魔力で示してみろ。」

最近は兄は自分と目すら合わせてくれぬようになってしまった。
魔力。
この世界は魔力が全てだ。
少なくとも、俺の知る世界は。
腕はまだヒリヒリと痛む。兄の首筋に浮かぶ、自分のそれよりもふた周り程も大きく、また緻密で美しい烙印がまだ目に焼き付いている。

ガレノス家はメサイアに仕える第三席貴族、メサイア興国からの名家の一つだ。
代々魔法使いとしてのクラスは最も希少な「雷」
のクラス。初代イライザ・ガレノスはSSランクの伝説級の魔法使いだ。
SSランクとはメサイアの歴代の名だたる魔法使いの中でも数える程しか存在しない。
王家に仕える5つ貴族の中で、それぞれ時の第一席を授与された者であっても、その魔法使いがSSランクであるとは限らない程だ。扱う魔法も文字通り格が違う。彼らの魔法攻撃はもはや天災と相違ないものと言っても過言ではないだろう。戦局を変えるどころか、それで決着を着けてしまう。

「魔力・・・なのか。結局は。」
ケヴィンは大きくため息をつきながら、城からの変わらぬ景色に目をやった。
城を取り巻く城下町、その城下町を囲むように城壁が見える。高い城壁に阻まれて、その向こうは見えない。

「でけぇよなぁ。やっぱり。」

魔法都市メサイアは近隣諸国との戦争にも1度として敗れたことのない強力な都市国家であり、その特筆すべき点は極めて高い防御力だと言える。 メサイアを囲みそびえ立つ分厚い城壁には常に魔力が通されており、侵入者に対して自動反撃する仕組みが備えられている。
俺に仕組みは分からないが。

「ケヴィン!」
良く通る声でふいに自分の名を呼ばれる。
「やぁシルフィ、どうだった。新しく来た賢者様は。」
真っ黒のワンピースは小柄なシルフィによく似合っている。本当はもっと華やかな柄が似合うと思うが、シルフィは落ち着いた配色の服装を好んだ。
パーティではドレス姿だが本人はその格好は毎度苦痛でしかないと毒を吐いている。ドレス姿は・・・とても可愛いのに。
「また一緒よ。解除は出来ない。古い文献ではーって言う事おんなじ。時間の無駄よ。」
「そうだったか・・・。それは残念だったな。」
「別に。もう慣れたわ。」
「・・・そっか。」
シルフィは王族。この国の姫だ。
有力な魔法使い達を束ね、五つの貴族の頂点に立つ存在。 
故にその魔力は他の魔法使いとは一線を画す。

「ねぇ、その火傷どうしたの。」
「ん? あぁ、これはな。兄貴との稽古で・・・」 
「うわー、痛そう。ケーネスさん容赦無いね。」
「手心を加えるのが苦手な人なんだ。兄は。」
「んーー、私は苦手だな。あの人。」
「ははは、まぁそう言うな。いずれは第一席の座をガレノス家に・・・というのが兄の悲願だ。たしかに野心のある兄だが、実力は本物だ。」

兄は強い。身内贔屓ではなく、強い魔法使いだ。
「ケーネスさんが第一席かぁ・・・。あ、リンネさんは?私あの人好きだけど。」
「あの人は・・・俺は苦手だ。」
リンネ・ハイドボルド。兄と同年代の魔法使いで現二席を拝命している貴族の息子だ。 
実力はあるのだろうが、どうにも気合が入っているように見えない男だ。
「あはは。だろうね。ケヴィンとは気が合わなそう。」
とはいえ、彼も周囲からの評判は決して悪くない。何より北方の遠征では実績を挙げている。今も地方に視察中である。
「兄の方が攻撃力は上だ、と思うが。」
「そうだね。ガレノス家はやっぱりそこは強いと思うな。」
「うちの雷撃は離れたところからも敵を殲滅する事が出来る。兄にもはやく遠征を任せるべきだ。」
「“うちの雷撃”って・・・。ケヴィンは出来ないじゃないの。」

・・・痛いところを突かれる。
ジットリとした目で睨まれ、彼女の方を向くことが出来なくなる。

「ランクは少し上がったの?」
遠慮がちに尋ねられた。
「いや、聞かないでくれ。」 
「聞かないでって言ったって。アンタいつも烙印消してるじゃない。」
「戦場ではそれが基本だ。事前に手の内を明かすことになれば、対策を練られる。」
「ここは城内よ。味方しかいないわ。」
ぐ・・・。 最もだ。

「いえ、その・・・別に隠してることは分かってるわ。だから聞くしかないんじゃない。私だって魔法は使えないんだし、笑いはしないわ。」
「お前とは・・・違うさ。王家とは違う。お前はSSSランクの魔力じゃないか。」
「そうよ。でもこんなの・・・私なんて何? 魔法なんて使えないわ。私は王族として失格なのよ。誰も皆、影では同じことを言うわ。これは呪いだって。」
「の、呪いなんかじゃない!それは心無い者共の言う下賎な噂に過ぎないよ、シルフィ。君のその烙印は封印の術式がかけられている特殊なものであって-」
「やめて!・・・ねぇ、聞きたくない、その話。」
「・・・悪い。」

シルフィが生まれた時、メサイアは動揺した。
王家の人間はその圧倒的な魔力のために、生まれた時すでに魔烙印を有していることは珍しく無い。 彼女の場合もそうだった。赤ん坊は産声をあげながらその手に魔烙印を浮かび上がらせたのである。
だが、その烙印が、一言で言うならば“異常”だった。

魔法には「火」「水」「風」「土」「雷」の五つのクラスが存在する。
この中でメサイアでは「水」のクラスの魔法使いが最も人口としては多く、次いで「炎」「風」「土」と続く。これは別の言い方をするのならば魔法クラスとしてのレアリティとも言える。
そして、五つ目のクラスである「雷」。このクラスを宿す魔法使いは、少なくともメサイアではカベルネ家とガレノス家だけだ。 「雷」は非常に強力な攻撃魔法として重宝され、現当主である父は将軍として各国から恐れられる存在だ。兄も父の気質を継ぎ、やや直情的だが闘技場では負け無しの魔法使いだ。

さて、話を戻すと、王家に至ってはS~ランク以上の魔力も相応のものであり、王家の子供が幼少期に破格の魔烙印を発現させることも多い。しかしシルフィは魔力量にしてSSSランク、しかもそれが生まれたばかりの赤ん坊に現れたとなれば、これは尋常な事ではない。

しかし何よりも-  
シルフィのそれはどのクラスの魔烙印でも無い、異形のものだったのである。
シルフィを産むと同時に妃が息を引き取ったこともあり、その異形の魔烙印には誰もが恐れを抱いた。

「私はさ、魔法が使えない人間に生まれたいとさえ思うよ。」
「何を言っているだ・・・!シルフィ!いくら何でも言っていい事と悪い事があるだろう? 魔力を持たない人間は野蛮で意思の疎通さえ難しいというじゃないか。 君は動物になりたいというのか?」
「それでもいいわ。“外”の世界の方が楽に生きられそう。もう魔法なんて・・・嫌。ケヴィンだって・・・そう思わない?何かが間違ってる気がしない?この世界って。」
この少女は時々理解の出来ないことを言う。

たしかに。
彼女の身の回りの事情は複雑だ。政治と策謀が絡み合い、当主たちは権力への野心を隠そうともしない。
でも-そんな事を彼女は言っていないような気がする。
「間違っている・・・とは思わないよ。魔法にしたって、きっとまだ俺の鍛錬が足りないんだ。属性魔法だけじゃなくて、基礎魔法とかもやらないと。・・・ガレノス家の息子が、Cランクなんて、屈辱だ。いい笑いものなんだよ。」
「ふぅん、私はアンタを魔法のことで笑った事は無いわよ?」
「・・・ありがとうな。お前の優しさが今日ばかりは身に染みるよ。」
「は!?何よ、その言い方?」
騒ぎ出すシルフィを横目に立ち上がる。
「とりあえず、今日はもう帰るよ。軽く治療もしたい。兄も、もう見回りに行ったろ。お前とも話せたしな。」
「そう。わかった。」
じゃあね、と見送るシルフィに軽く手をあげて応えると、ガレノス家の邸の方向へと足を向ける。
邸がほど近く見えた頃に、異変に気づいた。
何やら様子が慌ただしい。

---

「何があったんだ?」
「ケヴィン様、おかえりなさいませ。いえ、その・・・」
従者の一人に尋ねるが、彼女は口ごもる。
「私も、その詳しくは存じ上げないのですが・・・。」
「かまわない。何か問題が起きたのか?」
従者は戸惑いを隠せない様子で答える。
「にわかには信じ難い報告なのですが、先程侵入者が場内に・・・という内容でして。」

「侵入者だと??」

あの、城壁を抜けて中に入り込むことが出来るというのか。
「つまり敵襲、ということか?」
「いえ、それがどうやら“外”から入った農奴のようです。」
「・・・何だって?」
「真偽のほどはわかりませぬ。ケヴィン殿、市民のパニックを誘発しないため、このことはまだ内密に。」
落ち着いた声で、精悍な男性が答えた。
「わかった。カベルネ卿、兄は?」
「市内の警備中であったケーネス様はそのまま侵入者の捜索に当たられております。とにかく今は-」

「お話中恐れ入ります!新しい報告です!!」
1人の兵士が肩で息をしながら邸内へ飛び込んでくる。 彼がカベルネへ耳打ちした途端、その表情が固まった。

「どうしたんだ、カベルネ卿。」
こんなにも驚きを表に出す彼は見たことがない。一体何が-

「シルフィ王妃が、行方不明だ。」
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