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第1章 呪いの烙印
4. この間違った世界で
しおりを挟むユミナ・・・今いくよ。
---
その日、懐かしい感触を思い出した。
忘れかけていた、あの手応え。
吹き出す血の、生あたたかい温度。
「お、お前・・・ッ、何なんだよおま-」
「うるさい。勝手に喋るな。」
「ひいっ-」
「ちょっとでも妙な動きを見せてみろ。二度と家族には会えなくなるぞ。」
首に押し当てたナイフの刃の角度を少し変えると、男は更に汗を吹き出す。心拍数がはね上がっている様子が見て取れる。もうこうなったら正常な思考など出来ないだろう。憐れなことだ。
クラスは風。ランクはB・・・いや、C+と言ったところか。 他愛ないものだ。その醜く弛んだ身体でまともな接近戦など出来るはずもない。こんなモノ、魔法が使えるだけの只の肉塊だ。
「さて、門をくぐり抜ける時は、分かっているな?」
「はっ、ハイ・・・!分かっております!!」
車は城門にいよいよ近づく。
---
「おう、ペディ。 遅いぞ。休憩が短くなっちまうだろうが。」
「す・・・すまんな。」
「後ろのガキを部屋に入れとけよ。おれは先に飯にいく。」
「わ、わかった。」
「・・・お前、凄い汗だな。どうした?」
「え!? い・・・いいや、そのッ これは-」
「・・・そうだ! は、腹の具合が今朝から悪くて-な!!」
「お、おう。そうか。 お大事にな。」
門番の男は、最後はもう興味を失ったように適当に返事をすると、そのまま視界から遠ざかっていった。
「・・・上出来です。」
「こ・・・これでいいんだろ!? も、もう助けてくれ!お前のような高次な魔法使いにおれは対抗出来ん・・・! だから、追いもしない!!命だけは・・・。 」
「分かりました。今から記憶消去の術式をかけさせて頂く。後ろを向け。」
-ドサッ。
薄暗い石畳の通りの真ん中に、大柄な男の死体が発見されるのにそう長い時間はかからなかった。荷台で“内”に運び入れられた青年が忽然と姿を消していることも。
---
ここから、逃げなければならない。
最初に違和感を覚えた点は、まるで説明が足りていないことだ。それは何かが欠けていると感じる程不自然に。
だから、探した。
最初は足りていない説明を。
そして、見つけてしまった。
説明では無く、
説明が足りていない現象の理由を。
そして、私が導き出した結論はただ一つ。それは間違いなく、今までの人生で最も迷わずに下した判断であった。
-今すぐ、逃げろ。と。
しかし、現実はそう甘くは無かった。
「気づかなければ幸せだったものを。」
「・・・。」
男は彼女を一瞥してそう吐き捨てると、暗い廊下へと姿を消していった。
牢の床は冷たい。きっと夜にかけてさらに冷え込むだろう。
会いたい。今すぐに。シド。
あぁ、マテリア・レターを買っておいて良かった。
荷物を見分される際、咄嗟に服の中に忍ばせた私の持ち前の勘の鋭さも今回ばかりは、良い方に働いたと思う。
それにしても、あまりに残酷な仕打ちではないか。これは。
愛する人へ送る 初めての手紙が、自分の遺書になるなんて。
---
この時間だけは、全てを忘れられる。
城から出ている間だけは、私は呪いの子では無くなる。
あの檻の外の空気を吸っている間だけは、私は姫では無くなる。
そして、この双眼鏡で遠くを眺めている時だけは、私はもはや人の身体をすて、ただの蝶で在れる。
垣根で全ての死角になる場所、軋む鉄の蓋を外し、排水に使われるこの狭い横穴から外に脱出する。 これ以上私の身体が成長すればこの路も使えなくなる。外へ出ることはかなわなくなるだろうと思う。
人によっては城に見えるらしい私専用のこの檻に、ついに閉じ込められる。
まぁ、その時が訪れたら、大人しく命を絶ってしまおうと思っている。私の生にはそれほど価値が無い。
服についた土を軽くはたいて落とす。双眼鏡を手に取り、私は今日も蝶になった。
-そして、見つけた。
この世に生まれてから、ずっと探していたものを。見つけた。
「・・・行かなきゃ。」
---
【親愛なるシドへ。
私が村を発ってからもう1ヶ月が経とうとしています。早いものね。 シドと会えない時間がこんなにも辛いものだなんて、思わなかった。
これが初めての貴方へのラブレターなのに、まず、私からお別れを言わせて下さい。今はメサイアの魔法初期訓練所の寮で生活しているのだけど、おそらく私はもう村には戻れません。知ってしまったの。あの城壁の秘密を。
あの壁の維持には途方もない魔力が必要で、その供給源は・・・私達“外”で魔力を発現させた人間、いえ、彼らからすればただの「家畜」。 私達は人柱にされる。儀式場で大規模な術式で焔に焼かれて私達は壁に吸い取られるの。
こわい。ねぇ、こわいよシド。
シドは魔法使いは邪悪だって言ってた。
自分達を皆殺しにしたって。でも、私はそうは思わなかった。魔法使いにも悪い人といい人が居るって思ってた。 魔法を使って生活は便利になるし、私は憧れてた。だから魔法使いになれると思った時、嬉しかった。
でも、この壁の事なんて知らなかった。
内の人は皆知ってるのかな・・・。 同じ、私達外の人間だって同じ人間なのに。おかしい。こんなのって・・・ 人の命を犠牲にした壁に囲まれて、なんでこの人達は平気なの??私分からない。せっかく、シドに会えたのに・・・何で死ななきゃいけないの? 今すぐ貴方に会いたい。話したい。抱きしめたい。
私にもっとすごい魔法があったら今すぐ壁を越えてシドの待つ家に飛んでいけたのかな。
私達があの日初めてあった時のこと覚えてる?私はあの日、パパ達が話してた“悪魔の子”を言いつけを破って見に行ったの。貴方は指に止まった蝶に優しく微笑んでいた。私はその時思ったの。貴方が“悪魔の子”のわけがないって。
シド、私 魔法なんて使えなければよかったね。
でも、こんな私でも貴方にこのレターが送れるのは私の魔力のおかげ、、ねぇ、もう私は分からなくなっちゃったよ。
何なの魔法って。この世界って何なの?
間違ってる。こんなの絶対間違っているわ。
あなたを幸せにするためだけに生きていたかった。 さよなら。愛するシド。
貴方のことを世界で一番好きだった女の子がいたこと、時々思い出してあげてね。
ユミナより 】
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