ファンタジー倉庫

菫川ヒイロ

文字の大きさ
52 / 129
僕の彼女は勇者

しおりを挟む





 それは勇者御一行が真緒討伐へと挑む事が決まった日。
 全員が集まって話し合いの場を設けたのは当然魔法使いだった。
 分かり切った事ではあったが確認しておきたい事があった。
 
 
「今回は今までとは話が違う、必ず死人が出る。それでもお前等は、真緒討伐へ
 出向くか? 別にここで抜けても俺はそいつの意思を尊重する。そもそも俺が
 そうしたいと思っているくらいだからな」
 
 
 そうは言っても魔法使いは抜ける気などさらさらない。
 自分が抜けたからと言って、その後が明るいなんて事が想像できない。
 そもそも戦力の低下は明らかだし、自分が預かり知らない所で重要な事が決まる
 なんて魔法使いには受け入れられなかった。
 
 
「オレは行く。そんな当たり前の事を聞くなよな! お前等が来ようが来まいが
 関係ねえし、とっくの昔に、戦士になった時に覚悟は出来てんだ。
 戦士が死ぬのは戦場って決まってるんだよ。抜けたい奴は勝手にしろ」
 
 
 それは戦士らしい言葉。
 言動も戦いのスタイルも荒々しいが、そこには何時だって確固たる信念があった。
 
 
「もちろん、私は勇者ですから行きますよ。真緒をもし倒せるのだとしたら私
 ですからね。それが私の運命なのです、全うしてみせますとも。ただ、私は誰も
 死なせはしませんけどね。必ず私が守ります、人間国もここに居る全員もね」


 勇者は根っからの勇者だった。
 決して後ろ向きな言葉など口にはしない、勇者はいつだって希望を与える存在
 でなければならないのだ。
 
 
「ぼ、僕も行きます。みんなのサポートは僕が完璧にやってみせますから、安心
 してください」
 
 
 そして最後に聖職者がそう口にする。
 弱弱しい雰囲気を纏ってはいても意志は強い。
 実はこの面子の中で聖職者が一番肝が据わっているんじゃないか? と
 魔法使いは常々考えていたのだ。
 
 
「それと、ここで僕から一つ言っておきたい事があります。
 僕は勇者の事が好きです。愛しています。だから僕と付き合って下さい」
 
 
 ほらな、こんな事を言ってしまえるのだから間違いないと魔法使いは確信する。
 自分の目に間違いは無かった。
 
 
「ななな、何を急に。そんな、みんながいるのに……」


 そして動揺を隠せていない勇者を見れるなんて事があるとは……
 当然、魔法使いは静観を決め込む。こんなに面白いものが見れる事など
 そうそうないからだ。いいぞいいぞもっとやれ! と心の中で囃し立てる。
 
 
「返事は真緒を倒してからで大丈夫です。
 これだけは絶対に言っておきたかったので」


 真剣な顔の聖職者の耳は真っ赤で、それでもかっこいいと思える。
 それに顔が真っ赤になっている勇者というそうそうない構図はなかなかに面白い。


「ふぅん、男の子だねぇ。で、勇者はどうするんだ? 」


 そして戦士が煽る。
 当然ややこしくなる可能性もあった。
 でもそんな事よりもはっきりさせておきたいのが戦士の性格だ。
 
 
「わ、私の方が聖職者の事好きなんだから! 」


 そして、なんだこれ? と思ってしまう勇者の答え。
 甘い、あまりにも甘すぎるシチュエーションにこっちの方が恥ずかしい。
 まったくもって勇者は勇者以外はポンコツ過ぎるだろ。
 そんな所で張り合う意味なんてあるのか? と魔法使いは思うが
 その負けず嫌いこそが勇者たる所以なのだろう。
 まあこれでより一層負けられなくなったと作戦の考え直しを始めた。
 
 
「いいえ、僕の方が勇者の事が好きです」


 張り合う聖職者に、更に勇者が張り合い終わりが見えなくなってしまう前に
 魔法使いはその場を抜け出す。これ以上ここで見ているのは毒にしかならない。
 
 
 





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

小さくなった夫が可愛すぎて困ります

piyo
恋愛
夫が、ある日突然、幼児の姿になってしまった。 部下の開発中の魔法薬を浴びてしまい、そのとばっちりで若返ってしまったらしい。 いつも仏頂面な夫が、なんだかとっても可愛い――。 契約結婚で、一生愛とは無縁の生活を送ると思っていたノエルだったが、姿が変わってしまった夫を、つい猫可愛がりしてしまう。 「おい、撫でまわすな!」 「良いじゃありませんか。減るもんじゃないし」 これまで放置されていた妻と、不器用に愛を示す夫。 そんな二人が、じれじれ、じわじわとお互いの距離を詰めていく、甘くて切ない夫婦再生の物語 ※完結まで毎日更新 ※全26話+おまけ1話 ※一章ほのぼの、二章シリアスの二部構成です。 ※他サイトにも投稿

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...