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僕の彼女は勇者
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しおりを挟むそれは勇者御一行が真緒討伐へと挑む事が決まった日。
全員が集まって話し合いの場を設けたのは当然魔法使いだった。
分かり切った事ではあったが確認しておきたい事があった。
「今回は今までとは話が違う、必ず死人が出る。それでもお前等は、真緒討伐へ
出向くか? 別にここで抜けても俺はそいつの意思を尊重する。そもそも俺が
そうしたいと思っているくらいだからな」
そうは言っても魔法使いは抜ける気などさらさらない。
自分が抜けたからと言って、その後が明るいなんて事が想像できない。
そもそも戦力の低下は明らかだし、自分が預かり知らない所で重要な事が決まる
なんて魔法使いには受け入れられなかった。
「オレは行く。そんな当たり前の事を聞くなよな! お前等が来ようが来まいが
関係ねえし、とっくの昔に、戦士になった時に覚悟は出来てんだ。
戦士が死ぬのは戦場って決まってるんだよ。抜けたい奴は勝手にしろ」
それは戦士らしい言葉。
言動も戦いのスタイルも荒々しいが、そこには何時だって確固たる信念があった。
「もちろん、私は勇者ですから行きますよ。真緒をもし倒せるのだとしたら私
ですからね。それが私の運命なのです、全うしてみせますとも。ただ、私は誰も
死なせはしませんけどね。必ず私が守ります、人間国もここに居る全員もね」
勇者は根っからの勇者だった。
決して後ろ向きな言葉など口にはしない、勇者はいつだって希望を与える存在
でなければならないのだ。
「ぼ、僕も行きます。みんなのサポートは僕が完璧にやってみせますから、安心
してください」
そして最後に聖職者がそう口にする。
弱弱しい雰囲気を纏ってはいても意志は強い。
実はこの面子の中で聖職者が一番肝が据わっているんじゃないか? と
魔法使いは常々考えていたのだ。
「それと、ここで僕から一つ言っておきたい事があります。
僕は勇者の事が好きです。愛しています。だから僕と付き合って下さい」
ほらな、こんな事を言ってしまえるのだから間違いないと魔法使いは確信する。
自分の目に間違いは無かった。
「ななな、何を急に。そんな、みんながいるのに……」
そして動揺を隠せていない勇者を見れるなんて事があるとは……
当然、魔法使いは静観を決め込む。こんなに面白いものが見れる事など
そうそうないからだ。いいぞいいぞもっとやれ! と心の中で囃し立てる。
「返事は真緒を倒してからで大丈夫です。
これだけは絶対に言っておきたかったので」
真剣な顔の聖職者の耳は真っ赤で、それでもかっこいいと思える。
それに顔が真っ赤になっている勇者というそうそうない構図はなかなかに面白い。
「ふぅん、男の子だねぇ。で、勇者はどうするんだ? 」
そして戦士が煽る。
当然ややこしくなる可能性もあった。
でもそんな事よりもはっきりさせておきたいのが戦士の性格だ。
「わ、私の方が聖職者の事好きなんだから! 」
そして、なんだこれ? と思ってしまう勇者の答え。
甘い、あまりにも甘すぎるシチュエーションにこっちの方が恥ずかしい。
まったくもって勇者は勇者以外はポンコツ過ぎるだろ。
そんな所で張り合う意味なんてあるのか? と魔法使いは思うが
その負けず嫌いこそが勇者たる所以なのだろう。
まあこれでより一層負けられなくなったと作戦の考え直しを始めた。
「いいえ、僕の方が勇者の事が好きです」
張り合う聖職者に、更に勇者が張り合い終わりが見えなくなってしまう前に
魔法使いはその場を抜け出す。これ以上ここで見ているのは毒にしかならない。
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