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しおりを挟む私は今、すごく気分がよかった。
これから大好きな人に会えるのだから当然だと言えよう。
あんな形で前世は終わってしまったが、生まれ変わってもこうしてもう一度会え
る喜び、それはひとしおである。正に私達は運命で繋がっていたのだと実感する。
魔法の練習場であった裏庭からじょうが居る修道院までは数歩でつく距離ではあ
るけれど、これ程までに胸が高鳴る一歩はそうそうないであろう。一歩一歩を踏
みしめて歩きそしてドアを開けた私が我慢をしてそのまま歩くなんて事が出来る
訳もなく走りながら彼の姿を探した。
時間にしてどれぐらいぶりなのだろうか? 何かいろいろとややこしいのでそれ
はもう考えない事にした。というよりも彼が目に入った瞬間に全てはどうでもよ
くなってしまったのだ。いつもの様にみんなが祈りを捧げている中で彼だけは当
然のように何もしていなかったから簡単に見つける事が出来た。
「じょう! 」
彼を見つけた瞬間に私は走り出し名前を呼ぶと目が合った。それだけで私達は全
てを分かり合えたのだ。それは私達にとってはとても感動的な再会ではあったけ
れど、その他の人達にしてみれば何が起こったのか理解するのが難しくただ呆然
とするしかないような状況での抱擁はこんな神聖な場所でするような事ではなか
ったから誰も私達を場違いだとは思ったとしても何かしらの行動に移す者は居な
い。それならばこの状況を活用するのは必然ですらあった。
「思い出したんだね、みさき」
「ええ、全部思い出したわ。だからもうここに居る意味はないわ、行きましょう」
再会の抱擁も一段落してそう言った私に彼は頷き、私達はその場から駆け出す。
それが異常事態だとようやく気が付いたシスター、でももう遅い。私達に追いつ
ける者などこの場には居なかった。それに私には魔法があったからどうにだって
出来た。邪魔をするというのであれば手加減などせずに私は魔法を放つ事だろう。
結果としてそのような事にはならず、私達は自由になった。
誰からも束縛されたりはしない、自由を手に入れたのだ。
これでやっと私達の新しい人生が始まる。
****
私には好きな人がいた。
彼は誰に対しても優しくて、それはもちろん私に対しても優しかったから好きに
なった。それだけの事で私が彼を好きになるには十分な理由だったし、ただ優し
いという理由だけで人を好きになれるというのは子供の特権なのだと今の私は思
うのだ。
なんて昔話をふと思い出したというだけの事だった。
あの頃の私は自分の意見を言うのが苦手で、自己主張という事がどうも苦手であ
り、とりあえずは周りに合わせるというのが私なりの処世術だった。それが私に
とっては生命線であり、それさえあればどうにかなると本当に思っていたのだ。
一々何かを考えるという事をしなくて済むという事は私にとってすごい発見であ
ったし、そんな楽をしているだけなのに上手く物事が進むというのは感動的です
らあった。これで私は無敵だとさえ錯覚してしまう程の完全無敵の方法であった
からそれに頼りっきりになってしまっていた。
だからだろう、天敵とも呼べるその少女との出会いは私にとって最悪の出会いで
あった。きっとこれからも忘れる事はないだろう、クイサという名の少女の事は。
彼女は他人と同じという事を悉く嫌う、だから私の様な奴は特に嫌いだったのだ
ろう。もちろん私も同じように彼女が嫌いだったし、みんなもクイサが嫌いだっ
た。
彼女のいつだって自分を貫き通すという所が嫌いだった。
要は羨ましかったというだけの事なのだが、当時の私にはその感情が受け入れら
れてなかったのだ。いろんな感情がそれを邪魔した。もしかしたら仲良くなれた
かもしれないのになんて幻想を描いてしまうくらいの好意は持っていたのにもう
彼女はいない。
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