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しおりを挟むウルトスピ、この地区で生きて行くということは勝者になるという事だった。
敗者は自然にいなくなるというとても分かりやすい仕組みで出来ているこの地区
では何だってしなければ生きてなど行けないけれど、生憎私は何をすればいいの
かが分からないどんくさいタイプだったからとりあえずリーダーの言う通りにす
る事が私のすべき事だった。
どうやら私のリーダーは相当に賢いらしく、私は今までどうにか生きてこられた。
他人が野垂れ死ぬ様を見る度に私は私がすべき事をやろうと思ったし、リーダー
の言う通りにしていれば大丈夫なのだという思いは日に日に増して行く。そして
リーダーの言う事がこの世界の全てで絶対だったから私は修道院へと入る事にな
った時も何も疑ったりはしなかった。
私が修道院へ連れて来られて最初に教えられた事は神に祈りを捧げるという事で、
それさえしていれば食べる物も寝る場所にも困る事はないと教えられたから言わ
れた通りにするのはとても自然な事であった。これまでの生活から抜け出せるの
ならこんなにも楽な事はないし、ゴミを漁ったり物を盗んだりする事をせずに済
むというのは私には最高の場所だった。やっぱりリーダーは凄い。
そんな私だから神に祈るという行為が何を意味するのかなんて考えた事などなか
ったし、意味など分からなくても言われ通りにしておけばいいのだ。ただ手を合
わせ目を瞑ればいい。ここに居るみんなと同じ行動を取ってさえいれば最高の生
活が出来るのだと信じて疑っていなかった私に彼女は聞くのだ「ねえ、アナタの
神様は何をしてくれるの? 」と。
もちろんそんな質問の答えなんて私は知らないし、そもそもそんな事を考えてい
るような人はここにはいない。祈る事がここでの日常でそれ以外に何の意味もな
い事だったからだ。寝て起きてお祈りをして食事をしてどれも生きて行く為に必
要な事で、それは私にとって呼吸をするぐらい当たり前の事になっている。
だからそれを疑問に思うなんて事はあまりにも危険な事ですらあったのだろう。
すぐにシスターがやって来てクイサを連れて行った。その時の私はそれがどうい
う意味を持つのかなんて分からなかったけど今ならば分かる。この修道院の長と
なった今ならば。
あの時ジェスに「気にする事はないよ」と声を掛けられた事がただただ嬉しかっ
たけれど、その気持ちは今も変わらないけれど、当時の事をこうして今も思い出
す事が出来るのだから彼の事を尚更素晴らしいと思うけれど、もう少しだけでも
クイサの言った事を考えておけば何かが変わっていたのかもしれない。
こうして私がこの地位に就く事になったのは本当にたまたまで、ただの偶然なの
だろう。アビサ侯爵のおかげか、それとも私がただ都合がよかったというだけだ
ったのか、要は気に入られたというだけの事できっと私が上手だったという事に
つきるのだ。どうやら私には才能があったという事なのだろうけどこの才能が誇
れるものかどうかは分からない。ただ私が生きて行く上では必要な才能ではあっ
たし、この環境にいる者ならば必要なものだから、もしこの才能が無ければ私は
ここには居らず最低でも捨てられていた事だろう。
二人が出て行ったあの日、私達はどうして出て行ってしまったのかが分からなか
ったし、馬鹿な事をすると思った。それは二人がここを出て生きて行けるなんて
到底思えなかったからだが実際は出て行った彼等が正しかったのではないかと考
える事がある。二人が出て行ってしまってからというもの、修道院ではシスター
が常に目を光らせていたから少しでもおかしな行動を取ったものならすぐに勉強
部屋へと連れて行かれた。そこで何が行われているかは誰も教えてはくれなかっ
たが、それでも戻って来た子がみんな静かになったのを見て誰もが思ったはずで
ある『あそこへは行きたくない』と。
そしてそんな日々が続けば結果、修道院では誰も笑わなくなってしまった。
ただただ何か分からないものに怯えながら過ごす日々はとても苦痛で、でもどう
すればいいのかなんて私には分からないし、他の子達にも分からなかった。ただ
言われた通りに過ごす日々は私達の譲渡会の日まで続いたのだ。
****
私達は知っていた。
貴族という人達が居て、私達はこの人たちのおかげて生きていられるという事を。
私達は知っていた。
貴族に逆らうなんて事は決して出来ないのだという事を。
だから私達には選択権なんてものはないし、拒否をする事も出来ないのだ。
そこにあるのは感謝をする事だけでそれ以外の感情など持ってはいけない、何も
難しい事ではない、私達は毎日そうやって生きて来たでないか。それならばこれ
からも何も変わりはしないのだ、対象が変わっただけの事である。
今までもただそうして来たように今度は貴族に対してもそうであればいい。
それが私達なのだ、クイサのように何かを求めたりはしないし、疑問なんて持っ
たりはしないのだ。きっと疑う事が私の人生を台無しにすると思ったからこそ全
てをありのままを受け入れた。
分かっている。
今なら全てを分かっている。あの時の彼女の言葉をよく考えなかった結果が今の
私なのだし、これがいい事なのか悪い事なのかといえばきっと罰なのだろう。こ
れからも私は本当の事など言わずに生きていく。何もかも隠して嘘に嘘を重ねて
これが正しいのだと自分自身にさえを嘘をつく。
「しっかりと奉仕してくるのよ、リリエラ。貴女ならきっとお役に立てるわ」
そう言って子供達を送り出す役割が私に回って来ても、ちゃんと笑顔で言えるぐ
らいにはなっていたし、何も問題はなく彼女達を送り出すことが出来ていたのだ
から侯爵の目は間違っていなかったのだろう。そして私は思うのだこの子達の顔
はあの時の私と同じで、あの時のシスターの顔と同じ顔を今の私はしているのだ
ろうと。
このチクチクとした痛みをこれからもずっと感じながら生きて行くのだと思うと
それはそれでいいのかもしれないと思えた。この痛みが無くなってしまったら私
はきっと私ではなくなってしまうような気がしたから。大丈夫だ、何せ私は嘘を
つくのが得意なのだから。
と思っていたのにまた出会ってしまったのだ、私の天敵に。
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