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菫川ヒイロ

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されど初恋

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「ナキちゃんは可愛いね」


 そんな事を言われて私は有頂天だった。
 だってそんな事を言われたのは初めてだったし、そんな事を言ってくれるような
 男の人なんて居なかったから。たとえそれが何の気なしに言った言葉であったと
 しても、それはそうなるべくしてそうなったのだ。
 
 
 年上のお兄ちゃん。
 ただの親戚のお兄ちゃんが我が家へやって来たというだけで、それはよくある事
 でしかなく、べつに私に会いに来たという訳でもなかったのだ。でも私にとって
 はとても特別な出会いであった。
 
 
「私、お兄ちゃんと結婚するわ」


 なんて事をお兄ちゃんが帰った後に私が口にしたら父は悲しそうな顔をしたけど、
 母は微笑んでいた。まあ分からなくはないのだ娘の恋路を邪魔するのが父親だし、
 応援するのが母親の役目だという事なのだろうが、私にはそんな親の気持ちなん
 て分かるはずもない。
 
 
 そんな事よりも私はお兄ちゃんとの結婚生活に思いを馳せる。
 それはバラ色の世界で甘~いケーキのような毎日が約束されていた。
 お兄ちゃんと二人だけの世界、他には何も要らなくて、ただ毎日を楽しく過ごす
 のが私の目標だけど、たまにはちょっとしたケンカもしたりなんかして、でも結
 局最後は仲良しになる、そんな生活を夢見ていた。
 
 
 別にいいじゃないそれぐらい。
 それの何がいけないというのだろうか?
 夢を見るのが子供ってものだろうし、そういう子供が大人は大好きなのでしょう?
 
 
「ちょっとナキ、ちゃんと座っていて。お母さん大変なんだから」


 母親に静かに座っているように言われたけど、なんだか落ち着かなくて足をぷら
 ぷらさせたりして気をまぎらわすという方法を編み出した私はきっともう大人な
 のだろうと思う。どうやらもうすぐ私には弟が出来るらしいという事を聞いてか
 ら私はちゃんといい子にしていたし、お手伝いもいっぱいしているからもうお姉
 ちゃんなのである。
 
 
 だからこういう広い部屋で人がいっぱいいる中でもちゃんと我慢は出来るのだ。
 他の子につられたりなんかしないでちゃんと椅子に座っていられるから、そんな
 風に子ども扱いされるのは心外だった。
 
 
「そろそろじゃないか」


 父親がそう言った後、部屋の中は暗くなりそして光が当たったドアが開いた。
 うるさい音楽と共に入って来たのはお兄ちゃんで、その横にはよく知らない女が
 いた。何が楽しいのかやたらと笑うその女を当然私は睨みつけながら思い出して
 していた。
 
 
「今度、お兄ちゃんの結婚式があるから服を選びましょう」


 どうやら私はもう結婚する事になってしまったようだと思いながら母親と一緒に
 服を選ぶがどうも母親が持って来る服が納得できないでいたのは、持って来る服
 が一々地味なものばかりを持って来るからで、私は当然拒否をした。
 
 
「こんなの嫌よ私。もっと可愛くて派手なのがいいわ、折角の結婚式なんだもの」


 それは当然の主張である。
 メインである私がどうしてこんな地味な服を着ないといけないのだろうか?
 
 
「そお? でも花嫁さんよりも目立ってもダメなのよ。主役は花嫁さんなのだから
 そういう事をするの御法度ってやつなの、覚えておきなさい」
 
 
 母親が指を振りながら私に言うけれど、覚えておく事よりも重要な事があった。
 
 
「花嫁は私でしょ? 」


 そうだ、私が花嫁のはずだ。


「なんでそうなるのよ。ああそうか、結婚するとか言ってたもんね。でもそれは
 無理だから諦めなさい。初恋は叶わないって相場は決まっているんだから、ちょ
 うどよかったじゃない。相手としては最高よ、大して心も痛まないですむような
 人がいいのよ初恋は」
 
 
 私には母親が言っている事がよく理解できなかったけど、初恋は叶わないという
 言葉だけは何故か私の中にしっかりと刻まれた。


「嫌よ、絶対に私が結婚するわ」


 でもその気持ちは変わらないのだ。
 

「そう、まあ頑張ればいいわ。それよりも今は服を選びましょう。こっちとこっち
 どっちがいい? 」
 
 
 私の意見など母親は気にも留めないで服の話を始めたが、私がまだ納得した訳で
 はないという事は理解したはずなのにどうしてそうなってしまうのか? いつだ
 ってそうなのだ。私の話など結局聞き入れてはくれない、だから私も母親に聞か
 れても無視をする事にしたがそんな手が通用するはずもなかった。
 
 
「何? 勝手に決めるわよ? 」


 強権を振るわれてしまえば私にはどうする事もできない。


「それはダメ! 」


 勝手に決められるのだけは嫌だったから、私は嫌々ながらもましな方を選ぶ。
 だってお兄ちゃんと会うのに変な服は着れないから、そこだけは譲れない私の
 拘りだったのだ。
 
 







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