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私は女優
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しおりを挟む「ただいま」
家に帰ると父親と丁度鉢合わせしてしまい、心臓が跳ねがる。
これは驚いたというより罪悪感からなのだろう、そんな私の気も知らず父親は
何も言わずに通り過ぎる。相変わらず会話は無かった。
もうどれくらい話していないだろうか?
思い出せない程度には話していないそんな親子関係だが、だからと言って不都合
があるという訳でもないのでどうするつもりもない。そもそもどうにかしないと
いけないのだろうか?
こんなものじゃないのか?
作り話でもない限りそんなに仲のいい親子なんていないだろと思っている私。
寧ろそっちの方がおかしくないか? 何か変な刷り込みをされているのではない
のかと少しぐらいは疑問に思ってもいいのではないかとさえ思うのだ。
無理じゃない?
父親と仲がいい私。
無理無理無理無理無理蝸牛
想像しただけでカタツムリが出ちゃう。
気持ち悪いから私も直ぐに部屋へ直行した。
*****
「え~そんな事ないですよぅ」
「すごいですぅ~ ありがとうございますぅ~」
なんて新人がやっているのを見ると私はついつい見とれてしまう。
だってすごくない? よくもまあそんな心にもない事を平気で出来るものだと
感心してしまうのだ。早く良い男が見つかるといいねと思いながら私は新人に
全てを押し付けて帰る。今日はこれからデートなのだ。
行きつけのレストラン。
顔見知りの店員に案内されて席に着く。
私の前にはすでにカレシが座っていた。
「ごめん、ちょっと遅れた」
「大丈夫だよ、先に始めてたから」
カレシの前には手の付けられた料理とグラスには飲みかけのお酒。
「そう」
私も自分で注文して食事を始める。
いつもなら味を台無しにしてくれるカレシのつまらない話が始まるのだが、
今日は美味しく頂けている。
『この店ってこんなに美味しかったのね! 』
つまらない話を聞きながらも食べれるだけの料理だったのだから当然なのだが
今頃そんな事に気付いた。もっと来る機会を増やしてもいいかもしれない。
なんて感銘を受けている私にカレシが急に言って来たのだ。
「俺と結婚して下さい」
驚いた。
嘘だろ? って思った。
どうして今なのか? このタイミングに何か意味があったっけ? なんて頭を
働かせるが何も思い浮かばない。だからきっとこれはカレシのタイミングなのだ
と納得したが、だからといってこっちがいいタイミングなのかと言えばどうなの
だろうか?
確かに中身は増えて来ており、この先の事を考えれば受けておく事が正解だ。
それにこの場が明らかにアウェイである、常連であるこの私が。
いつだって味方に敵ありである。
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