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おめでたい人

８

　馬鹿な女だと思ったが何か言う気はさらさら無かった。
　だってこの男に何かを言う事に意味なんて無いのだ。
　全てはこの男の掌の上で起こっているのだから、きっと今のこの状況も
　私が考えていることだってこの男は分かっているのかもしれない。
　
　
　私が婚約破棄をした時もそうだった。
　だからもう何もしない事が正解だと思っている。
　ほら、いつの間にかあの男はここから居なくなっているではないか。
　嗚呼、気持ち悪い。
　
　
　
　
　＊＊＊＊＊
　
　
　
　
「まったくもって嫌になりますね、赤字ですか」


　結局今回は出て行った金の方が多かった。
　でもあの女が余計な事をしなければとは思わない。
　これはこれで蒔いた種がしっかりと育っている事が分かったのだから
　それでいい。今回の分をそっちで取り返せばいいのだ。
　
　
　誰だって自分が正しいと思っている。
　勿論私だって正しいと思っている。
　だからこそ常に疑っているのだが、そんな事を言ったって理解は出来ないのだろ
　うああいう人達には。
　
　
　何故自分は関係ないと思っているのか？
　何故自分にはその可能性がないと思えるのか？
　自分の隣に居るその人物は本当に自分の意思で選んだとでも思っているのだろう
　おめでたい。
　
　
　だから私は大好きなのだ、おめでたい人が大好きだ。
　
　
　彼女しかり、彼女の父親しかり、また会える事が今から楽しみだ。