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お前しかいない

5

「よかったね、栄ちゃん」


　帰り道に鈴が労ってくれる。
　
　
「嗚呼、よかったよマジで。正直、どうなるかと思ったけど
　これならどうにかなりそうだな。うん、よかったよかった」
　
　
　今日はいろんな事があったけど、これでようやく俺の高校生活が
　スタート出来るってものですよ。
　
　
　感情の起伏が激しくて、気持ちの整理はいまいち出来てはいないのが現状だが
　いよいよ俺がやりたかった事が出来るのだと思うと何だかだんだん
　こみ上げて来るものがある。
　
　
「鈴、ありがとうな」


　だから俺は鈴にお礼を言う。
　俺が高校に入る為にわざわざ受験勉強を手伝ってくれた、
　自分の勉強もあったというのに、二倍、いやそれ以上大変だったと思う。
　
　
　なにせ俺はどうしようもない奴だったからだ。
　それでも粘り強く教えてくれた鈴には感謝しかない。
　
　
「いやいやいやいや。何そのいい最終回みたいなの。
　まだ終わってないから！　てか、これからだからね？
　大体、栄ちゃんは分かってんの？　監督をするんだよ、監督。
　私の脚本で糞みたいなの作ったらマジでただじゃおかねえからな！　」
　
　
「お、おう！　」


　鈴はそんな捨て台詞と共に自分の家の方向へと帰って行き、
　俺はそんな鈴を頷きながら見送った。
　
　
　
　
　＊＊＊＊＊
　
　
　
　
「まったく栄ちゃんは気を付けていないとすぐに気を抜くから、ほんと困る」
　
　
　とは言え、私は栄ちゃんにお礼を言われて凄く嬉しかったのだ。
　ああやって隠さなきゃ顔が緩みすぎて、とても見せられるような状態では
　いられなかった程に。
　
　
　でも、言ったことに何も嘘はない。
　だってこの私が書いた脚本なのだから、それを駄作にしようものなら
　私は決して栄ちゃんを許すことはないだろう。
　
　
　それが私達二人の約束ではあるのだが、ただ心配な要素はあるのだ。
　栄ちゃん以外の要素がそうしてまう可能性は十二分にある、
　あの立花という女はきっと厄介だ、私の直感がそう言っている。
　
　
　すでにもうその片鱗は見えていたのだが、あれは絶対に質が悪いのだ。
　私にはよく分かる、これはきっと同族嫌悪ってやつなんだと思うが
　あの自分の欲望を隠さないというか隠せなくなっているのを見れば
　嫌でも分かる。
　
　
　私は栄ちゃんがちゃんと出来るのかすでに心配だった。