諦めないという事

菫川ヒイロ

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 『帰れる』というその言葉にムロは疑いつつも、すぐに眠るを発動した。
 それ程までにその言葉はムロにとって魅力的だったからだ。


「よし、それでいい。ムロ、俺がお前を帰してやろう」


 その声にムロは反応した。
 
 
「お前は誰だ? 本当に帰れるのか? 」


 ムロにしてみれば帰れる事が一番の望みだった。
 ただ、それは出来ないのだとギロミに言われ諦めてしまっていた。
 自分はこれから一生ここで生きて行くのだと……
 
 
 それなのに、帰れるなんて事を言ってくる奴が現れたのだ。
 絶望の淵から見えた希望の光に、ムロは手を伸ばした。
 
 
「そうがっつくな。俺もやっと動けるようになったばかりだからな。
 俺の名はグルコだ。俺がお前を元居た世界に帰してやるよ」
 
 
 その返事にムロは歓喜する。
 
 
「おおおおお。本当か! 本当に帰れるんだな! その…… 」


「グルコだ」


「グルコ! ありがとう、ありがとう」


 ムロは自分の願いが叶う事を喜んだが、そうそう上手い話は転がってはいない。
 

「その代わりにお前にやって欲しい事があるんだムロ」


 どうやら、帰る為には通行料が必要なようだった。
 それでも帰れるのならば、この世界から抜け出せるのであれば、
 ムロはなんだってするつもりでいた。
 
 
 
「何だ、やって欲しい事って。出来る事なら何だってやってやる! 」


 ムロは本気だった。普段はそんな事を絶対に言うような奴ではないのだが、
 今回ばかりは意気込みが違う。そこにはムロの固い意思が感じられた。
 だからグルコも特に気にする事なくそれを言ったのだ。
 
 
「ギロミを殺してくれ」


 簡単な事では無いとは思っていたが、なんとしてもやり遂げるという意思は
 あったはずのムロに現実は非常を突き付けて来た。
 
 
「ギロミを……あの魔王を…… 」
 
 
 ムロはあのピンクと緑の髪の奴を思い出しゴクリと唾を飲む。
 それはムロには不可能な事だった。
 
 





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