キャラ文芸倉庫

トカゲ男

９

　あれはいつの事だっただろうか？
　確か子供頃の出来事だったはずである。
　それはいつもの様に俺が公園で一人、遊んでいた時の事だった。
　
　
　別に友達なんてものが欲しいと思った事なんて一度も無かったが、大人たちは
　こぞって友達を作れというのだ。それが正しくて、それ以外はあり得ないと言わ
　れても俺にはその理由が全くもって理解出来なかったし、寧ろこれは何かしらの
　トラップなのだとさえ考えていた。
　
　
　大人は嘘を吐く。
　俺は子供ながらにその事実に気が付いていたから、これは自分達が経験した事を
　子供にさせようとする悪習なのだと思った。自分達が苦労したのだからお前達も
　苦労しろという明らかに凡人が考えそうな事である。
　
　
　だから俺は無視した。
　大人達の言う事を悉く無視をして、一切友達を作らないと決めたのだ。
　自分で決めたからこそ俺は一人で居る事に対してプライドを持っていたし、
　それが誇らしかった。他人とは違う自分が特別だって思って居た。
　
　
　他人と同じという事が何よりも恥ずかしいと考えていた。
　だってそれが特別だという事なのだから。
　他人と同じ事をしているような奴らが特別になりたいと真剣に言っているのを
　見せられる度に俺は自分が間違って居なかったと確認出来た。
　
　
　それはカリスマなんて誰にでも成れるようなちゃちなものではない。
　俺だけしかいなくて、俺が全て。
　それが俺だった。
　唯一にして絶対。
　そんな神みたいな存在に俺はなっていた。
　
　
　はずだったのだ。
　アイツが俺の前に現れるまでは俺はそんな絶対的な存在だったのに、
　誰からも一目置かれるような存在だった俺の前に現れたそいつはまったく
　同じ格好をしていた。
　
　
　それなのに俺よりも確実に特別な感じがした。
　俺自身がそう感じてしまっていたのだ。
　だからこれはもうそういう事なのだろうと俺は答えを出した。
　
　
　これはきっと悲しい事なんじゃないと自分に言い聞かせる。
　今まで見下して来た奴らと自分が同じ存在だという事に気が付けたのだから
　いい事だった。それが分かってしまえば俺がするべき事は自ずと理解出来た。
　
　
　友達を作ろう。
　
　
　そうして今に至る俺には沢山の友達がいる。
　友達になったのはバラバラの年齢ではあったけど、それでもこうして一緒に
　居れる事に喜びを感じていられるのはあの時、俺に気が付かせてくれた存在と
　出会う事が出来たからだろう。
　
　
　だからいつも目にする度に感謝している。
　
　
　俺に大切な事を教えてくれた、そうそれはトカゲ男。