異世界騒動記。「さて、一丁やる気だしますかね‥。」

桂木 鏡夜

文字の大きさ
8 / 15
一章

七話「最低屑野郎は俺がぶっ潰す!」

しおりを挟む
「何故そんな事をしなければならない?」

 カリュはほんの僅かだがピクリと表情を動かせる。

 俺は其れを見逃す筈は無い。

「疑いは無い方がいい。念のためだよ。なぁ、ルナちゃん。どうする?」

 ルナに俺は指示を仰いだ。

 ルナも俺の考えている事が伝わった様だ。
 
 だがルナは悲しそうな表情を浮かべ、決断し兼ねていた。

 その様子にカリュはフッと余裕ぶった表情に戻った。

「ルナ様。此れでは私に何か如何わしい物があるみたいじゃないですか。私は潔白です。どうかこの者から槍を下げさせては貰えないですか?」

「そうだ!ルナ様を助けてくれたのか知らんが、うちの守り人に何て無礼な奴だ」

「そうよ!カリュ様に疑いなんてこれっぽっちもないんだから!」

 他の村人がカリュを庇う。

 ムカつく話だが女から俺に送られる罵声は男よりキツイ。

 カリュは嘸かし憧れなんだろう。

 自慢じゃないが今迄の人生で女性にキャーキャー言われた記憶はない。

 寧ろピンク色の声援を受けている男は爆破してしまえというタイプだ。

「ルナ様。」

「カリュ‥。」

 ルナと此奴が今までどういう関係を築き上げたのかは知らない。

だけど少なからずルナからの表情はカリュが裏切ったとは思いたくないといった感情の揺れが見えた。

「はいはい。ルナちゃんに話を振った俺が悪かったよ。そんな事より、なんであえて布取らねぇーんだ?取るだけじゃねぇかよ。」

「何よ貴方!カリュ様に失礼よ!!」

「うっせぇ!!テメェは引っ込んでろ!!」

 女には悪いが俺は荒く言葉を返した。

「なんて最低な物言いなの。貴‥」「いいさ」

 女が俺に何かを言い返そうとするのをカリュが止める。

「カリュ様‥」

 女は頬を染め、恥ずかしそうにする。

 ケッ。って感じだぜケッ!!。

 「外せばいいんだろ。外せば。」

 そういってカリュは腕に巻かれた布を解き見せた。

 だが其処には紋章は刻まれてはいなかった。

「これが何なのよ。」と訝しげな表情を作る村人達。

 ルナは安堵の為か、胸を撫で下ろす。

 「ふははっ。何がしたかったのかは知らないが、これで晴れて潔白が証明出来た訳だ。」

 高笑いするカリュに俺は冷たい視線を送る。

「誰が片方だけと言ったんだ?左の布も取れ。幼稚みたいな事してんじゃねぇよ。」

 俺の言葉にカリュの表情は強張りを見せた。

「貴様。何がしたいか知らんが、いい加減に「おかしいんだよ。」

 カリュの言葉に俺は言葉を被せた。

「何を言っている?」

「守人が皆んな死んでる中で、そんなタイミング良く帰ってくるか?普通。それにお前が今殺した奴が【クジャ族】の男と契約したって言ってたんだよ。なぁ、ルナちゃん。」

 「な!?【クジャ族】に裏切り者が!?」

 村人達はザワザワと騒めきだす。

「馬鹿馬鹿しい。クジャ族で裏切りなんて事があり得る訳がないだろう!そのゴブリンに唆されおって貴様ただじゃおかんぞ!!ルナ様!早く此奴を下げて下さい!身の潔白は証明したでしょう!!?」

 急に怒りだすカリュに対して俺は冷静だ。

「ルナちゃん。村人を想うならしっかりと現実は見なきゃいけないよ。」

  俺の言葉に意を決したのかルナの表情は固まった。

「カリュ。片方の布も取って。」

 一瞬の沈黙が走るが直ぐにカリュが言葉を発する。

「ル、‥ルナ様。私を伺うので?」

「布を取り紋章がなければ潔白。単純なこと。それとも取れない理由があるの?」

 カリュはバツの悪そうな表情を一瞬見せたが、直ぐに開き直るかの様に笑い始めた。

「くく。くはははは!!」

「気でも狂ったか?」

「いや、とんだ邪魔が入ったもんだと思ってね。」

「カリュ。やっぱり。」

 カリュは巻きつく布を勢いよく外すと、腕に親玉中年親父と同じ文様が浮かび上がっていた。

「そうだ。俺がこの村にゴブリンを召喚したんだよ!!」

「そんな!?」

「カリュ様‥。」

「ルナ。君が振り向いてくれないからだ。他のクズ女は振り向いても唯一お前だけが俺を見もしない。何が悪い?俺の何が嫌なんだ?だからゴブリンを村に襲撃させ、村の英雄となりお前を救いだせば見てくれる。俺を男として見てくれる。その筈だったのに!!」

 は?何言ってんだこいつ?
 とんだ勘違い野郎じゃねぇかよ。

「カリュ。私は貴方の実力を高く勝ってあました。残念です。」

 ルナのその一言にカリュは熱狂する。

「だまれぇ!!!こうなったら村全員ブチ殺して、お前を犯しまくってやる!!」

 ガキィン!!

 俺の槍は、カリュのいつ抜いたか分からないククリ刀で弾かれ、そのままカリュはルナに襲いかかろうとする。

「させっかよ!」

  俺は仰け反り状態から即座に状態を戻し、カリュの服を掴むと、カリュは振り返り、俺の顔に肘を入れた。

ガ!!

 その反動で俺は飛ばされる形になり、カリュは再度、ルナを襲おうと振り向くと、カリュの前に先程カリュを庇っていた女が立っていた。

 カリュは冷たい視線で「どけ。」と女に言うが、女は「どきません。」と両手を広げた。

 女の身体は恐怖からか悲しいからか震えているのが目で取れ、目には涙を浮かべている。

「う、‥か、カリュ様。全部嘘ですよね?カリュ様が、カリュ様がそんなことするわけないですもんね。」

 涙を流しながらカリュに笑顔を見せる女に対し、カリュはフッとまた顔を緩めた。

「カリュ‥様?。」

 「メル。俺を信じてくれてありがとう。」

「やっぱり。」

 女の表情が一瞬明るくなったその瞬間。

 ザシュ!!!

 ククリ刀が女の身体を貫いた。

「キャアー!」

 ルナの悲鳴がテント内に響き渡る。

 カリュはククリ刀を女から抜き取ると、女は崩れ落ちる様に地に倒れた。

 ルナは急ぎ女に駆け寄った。

「る、‥ルナ‥様」

 その言葉を残し、生き絶えた様だ。

「メル!メル!メル!!カリュ!!どうしてこんな事!!!」

 ルナはカリュを強く睨みつけるとカリュはまたあざ笑うかの様な表情を浮かべだす。

「何故?決まってるさ。君を僕のものにする為さ。そんなゴミ女いつだって手に入る。俺からしたら只の慰めものにすぎないのさ。ぬはは、はははははははははははは!!!!」

 此奴、腐ってる。

 他人の為にここまで腹が立って殴り飛ばしたいと思ったのは生まれて始めてかもしれない。

 極力俺はイジメが起きない様にイジメっ子の気を逸らしケンカが起きない様にしてきた派だが、今の俺の心は熱いマグマが噴火し始めた瞬間だった。

「調子こくなよ。ブス野郎。」

 俺はゆっくりと起き上がり、さっき飛ばされた槍を拾い持った。

 カリュは此方に視線を向ける。

「フッ。この俺を倒そうというのか?そもそもお前は余所者。逃してやっても良いんだぞ。」

「生憎だが、そんな気分じゃねぇよ。最低なクズ野郎は俺がぶっ潰す!!」

「そうか。」

 カリュはニタッと下卑た表情を見せた。

 本性って訳ね。

「まぁ、‥どっちにしろ逃すつもりはもうとうにないがなぁ!!」

 カリュが攻め込んできた。

 

====== ====== ====== ======

次で一章終了予定。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...