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第二章 冒険者編

第十三話 ミリアとグラジオ1

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 魔術師のモモが新しくパーティーに入ることになり、三人での旅がスタートした。
 モモの実力はというと、

「いきます!中級魔法 バインド!!」
 この魔法は魔力で生成した鎖で敵を拘束するのだがどれだけ拘束できるかは術者本人の力量によってきまる。
 人によっては一秒と持たずに破られてしまうこともあるのだが。

「へえ、なかなかやるじゃん!」
 とツバキも認めるほど、腕は確かなようだ。
 イノシシの見た目をした魔物、ラッシュボアーはその突進力からこの名がついたのだが完全に動きが封じられている。

 動けない魔獣を仕留めるのは朝飯前だ。
 一瞬にして一刀両断にする。

「よし、これで晩飯は大丈夫そうだな」

 バースから旅立って数日。
 今の所、餓死しないで済んでいる。

 ツバキの食事量の多さのせいでバーンにいたときは一番の出費は食費だった。
 旅は食材は自分で確保しないといけないため不安ではあったが、モモが入ったことで効率も上がって一日に取れる魔核も食材の量も大幅に増加している。
 流石のツバキも満腹になってくれるはずだ。 

 日も暮れてきたので今日のところはここにテントを立てて、料理の準備をすすめることにした。
 ふと、ラッシュボアの丸焼きの準備をしていたときに、大事なことを聞き忘れていたことを思い出した。

「そういえば俺たちってどこに向かっているんですか?」
「ああ、たしかに言ってなかったね」
 ツバキは微笑して次の目的地の名前を言う。

「今向かっているのは、精霊国アイル。エルフが治める国さ」

 誰もが知っている有名な種族の名前に俺とモモは驚きを隠せなかった。
 母親のルミアのハーフエルフと違い、エルフは純血。
 他の種族の血が入っていないことを指す。

「あのエルフですか・・・」
 特にモモは一番衝撃を隠せないようだ。

 それもそのはずエルフは又の名を「妖精族」
 魔法の原動力、妖精との親和性の高さからそう名付けられた。
 親和性が高いとどうなるか。
 簡単だ。

 『少ない魔力で魔法が撃てる』

 これは全魔術師の憧れでもある。
 シンプルだが最も強力な能力だ。
 ツバキいわく、俺たちの初級魔法みたいに中級魔法を扱ってくるらしい。

「それにしても師匠、エルフに詳しいんですね」
「前のパーティーにいたんだ」

 前のパーティーということはダインとルミアも所属していたということだよな。
 もしかしたらルミアのあの自慢話は本当だったのかもしれない。

 アイルに行く目的はその人から魔法を教えてもらうためだという。
 それを聞いた瞬間モモの目が眩しいくらい輝いた。
 そういう俺もエルフから魔法を教われると聞いてワクワクしている自分がいる。

 俄然アイルへの期待が高まっていたときだった。

 ガサガサ・・・と近くの茂みから草をかき分ける音がした。

 俺たちは一瞬で戦闘態勢に入る。
 野宿する際、魔術師は魔除けの結界を張る。
 範囲魔法の一種で、魔獣は近づくためにはそれを破らないといけない。
 だから接近していたらそれによって気づくはずなのだが。
 もしかしたら盗賊の類か。

 徐々に近づいてくる。

 俺とツバキは目で指示を出し合い、ポジションを移動する。
 モモもすでに杖を構えている。

 一番近くの草むらから何かが見えた瞬間、俺とツバキは一斉に飛びかかった。
 しかし「えっ?」と突然のことに呆気にとられている俺と同じくらいの少女と傷だらけの大男がいた。

 少女の方は白髪の綺麗な髪、緑色の瞳。
 大男の方は緑色の髪に体は鎧に包まれていてもわかるガタイの良さ。
 そしてどちらも人族ではありえない長い耳。

 明らかに先程話していた種族と一致している。

「エルフ・・・?」
 早すぎる登場に誰も理解が追いついていない。

「きゃーー!!」
 と少女が叫ぶと一瞬にして大男が立ちふさがる。

「あなた達はここらへんの冒険者か」
「・・・そうだけど」
 剣を向けて警戒する大男はその言葉を聞くと安心したかのように剣を下ろす。

 少女の方は見たところ大丈夫のように見えるが大男の方は今にも力尽きて倒れてしまいそうだ。
 ぐーと少女のお腹がなる。
 どうやら食事も十分に取れていないようだ。
 ラッシュボアーの肉を見て少量のよだれを垂らしている。

 事情を聞くためにも、ツバキには我慢させて(にく~と泣いてはいたが)思う存分食べさせ、大男には俺とモモで治癒魔法をかけた。

 にしても、師匠から聞いた話によればエルフは人里にはめったに降りてこないはず。
 何か訳がありそうだな。

「ありがとう、君たちがいなかったら大変なことになっていた」 
 治療が終わると大男は頭を下げた。
 それを見て隣の少女も食べるのをやめて真似するようにお辞儀する。

「さっそくで悪いのだが君たちは今、どこに向かっているのだろうか」

 なぜそんなことを聞くのかと問い返そうとしたが、それよりも先にツバキが答えた。
「精霊国アイルだ」

 ツバキの返答を聞くと大男はもう一度大きく頭を下げる。
「どうか我々も同行させてくれないだろうか」

 どうやら偶然にも目的地が一緒だったようだ。
 あの怪我の量、ただ事じゃないことがあったはずだ。
「まずは事情を説明してくれないだろうか」

「ああ、もちろん」と大男はうなずくと立ち上がって胸に手を当てる。

「私は精霊国一番隊隊長グラジオ」
「そしてこの方は・・・」

「精霊国王女 ミリア様です」

「えっ・・」
「王女・・様?」
 俺と同い年に見える横に立っている少女が王女だという事実に「うそだろ・・」とつい言葉が漏れる。

 どうやら俺たちはとんでもない人たちを助けてしまったようだ。
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