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第二章 冒険者編
第十七話 油断
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「いきます!中級魔法 ストーンショット!」
ミリアとモモからいくつもの尖った岩のつぶてが発射されたのを確認するのと同時に俺とツバキが攻撃を仕掛けた。
相手は大人の膝下くらいの大きさがある強靭な顎を持った昆虫型モンスター『キラーアント』
気をつけるべきポイントはあの頑丈な甲殻。
刃をなかなか通さないだけではなく、炎属性への耐性も兼ね備えている。
鎧にも素材として使われているぐらいなのだから初見での対処は難しい。
「だが・・・」
スパンと俺とツバキは一太刀で頭部と胴体を一刀両断する。
「接続部は弱いのを知っていればなんてことはない」
頭が離れたのを理解しないままゆっくり前進し続け、その場でぐったりと倒れたキラーアントの胴体。
バースに来る以前より格段に成長しているのを感じる。
だがここで、ふと疑問に思ったことがある。
今の俺の実力は一体どのくらいなんだろう。
おそらく並大抵のモンスターになら負けないだろう。
もしかしたら、師匠にだって・・・
そんな事を考えていたら、
「カインさん早く行きますよ」
とグラジオの呼ぶ声が聞こえたので一旦考えるのはやめてみんなのもとに駆け足で向かった。
///
進み続けて数時間。
俺たちは魔物を練習通りのやり方で狩りつつ、順調に進み続けていた。
「この調子で行けば、今日中に最深部にいけそうです。
ですが、気は抜かないでください。ダンジョンではモンスターと同じくらい気をつけなければならないものがあります」
グラジオは先にある地面を指差す。
よく見ると、そこには薄っすらと魔法陣のようなものが描かれている。
「それが、罠です」
「大抵はあまり気にしなくてもいいのが多いですが、『転移』だけは特に注意してください。
これに引っかかってしまうと、最悪の場合、一人だけダンジョンの奥地に飛ばされることになります」
グラジオは真剣な顔でそう言うが、
「・・・一人、か」
思えば、俺は一人で狩りをしたことがなかった。
いつもそばにダインかツバキがいた。
おかげでピンチになることもなく順調に来れたわけだが。
最近は順調に成長し続けているし、今の俺ならきっと一人でもやっていけるだけの実力はあるのでは。
ふとそんな考えがよぎったのだった。
「ですので決して気を・・・」
「大丈夫ですよグラジオさん」
言い終わる前に返事を返す。
今更そんな単純ミスをするつもりはない。
足元を気をつければいい話だ。
「ん?魔獣か」
ツバキの言葉で奥からカタカタと足音が近づいてきていることに気づく。
奥の暗闇をよく見ると一体のキラーアントらしきものが見えた。
普段キラーアントは複数体で移動するのだが群れからはぐれたのだろうか。
まあ、一体だけならわざわざ魔法を打つ必要もないだろう。
ここはササッと倒すか。
「自分が倒してきます」
そう言ってすぐに剣を抜いて飛び出す。
「カインちょっと待て」
今更一体に負けないだろうとツバキの制止を聞かず、そのまま剣を振り下ろす。
しかし、今までと違いカーンと甲高い音が鳴り響いた。
おかしいな。
たしかに接続部分を狙っていたはずだが何故か頭部の外殻に止められている。
そしてたった今、さっきまでこのキラーアントは薄暗いところにいたため気づけなかったが、体の色が通常色の黒ではなく、赤色であった。
これってまさか・・・
「まずい、変異種だ」
ツバキがいち早く気づいた。
キラーアントの変異種は並の個体の二倍近い強度と速度を持っている。
すぐに俺の剣は振り払われ、バランスを崩される。
「危ない!!」
グラジオが咄嗟に俺に飛びついてくれたおかげで、なんとかキラーアントの変異種の攻撃から回避し、その外した隙をツバキは目にも留まらぬ速さで切り裂いた。
しかし、「くっ」とグラジオは肩を抑える。
「まさか」と確認すると、予想通り、俺をかばった時に攻撃がかすめていたのだ。
「グラジオ!」
その姿を見て、ミリアは血相を変えてグラジオのもとに走りだす。
「そこはダメですお嬢様!!」
ハッと振り返って、グラジオは叫ぶが。
その瞬間、ミリアの足元には例の魔法陣があった。
俺に気を取られてみんな察知するのが遅れた。
ミリアの足先が着いた瞬間、魔法陣はまばゆい光を放出する。
「しまった!」
俺はすぐにミリアに向かって全速力で走り出す。
手を伸ばし、ミリアに指が触れたと同時、トラップが発動した。
「グラジ・・」
ミリアが言い終わるのを待たずして二人の姿は一瞬にして消えてしまった。
「お嬢様ーー!!」
洞窟にはグラジオの叫び声だけが響き渡った。
///
気がつくとそこは変わらず洞窟の中だった。
変わったのは今いるのは俺とルミアのふたりだけということ。
「・・・はあ」
失敗した。
これの全責任は俺にある。
自分の力を過信して魔獣相手に油断していた。
以前はそんなことあり得なかったのに。
これまで下手にうまくいき過ぎて、自分が負けることはないと心のどこかで思っていた。
全く、何やってんだよ。
調子に乗って勝手に一人で突っ込んだ挙げ句、グラジオに怪我を負わせて。
さらにそのせいで転移の罠に気づくのも遅れて・・・
自分を主人公と勘違いでもしてたか俺。
グラジオも師匠もモモもここにはいない。
彼らがいないだけでここまで不安になるなんて。
俺はまだまだ未熟のクソガキだったな。
これから一体どうすれば・・・
「グラジオ・・・」
ふとそばから泣きそうな声が聞こえた。
そこにはうずくまって震えるミリアの姿。
それもそうだ、俺より不安なのはミリアの方だ。
いつも守ってくれていた実力のあるグラジオはいない。
いるのはそのグラジオの足を引っ張った俺。
「・・・」
なあ、俺。
今するべきことなんて、そんなの決まっているじゃないか。
へこむより先にやることがあるだろ。
「ミリア、本当にごめん」
そう言って頭を深く下げる。
「俺のせいでこうなった。グラジオの怪我も全部」
もちろんこれで許してもらおうなんて考えていない。
頭下げただけで許されないことぐらい前世で経験済みだ。
失敗したなら、へこんでいる暇なんてない。
へこむのは後だ。
俺がすべきこと、それは。
「だから責任を取らせてくれ。俺が命をかけて、必ず、グラジオたちのもとまで届けてみせる」
「どうか信じてくれ」
いきなりのことで彼女はキョトンとしたような顔でこちらを見つめる。
しかし、少し経って彼女はふふっと笑った。
「・・・わかりました」
「でも!」
と付け加えるようにミリアは言った。
「カインさんだけじゃなくて、二人で頑張りましょ!」
その言葉に俺は自分がまた同じミスをしそうだったことに気がついた。
俺はまだまだ未熟だってことをさっき思い知ったのに、今俺は一人で戦おうとしていた。
魔獣一体に負けたところなのにだ。
「・・・ありがとう」
バシっと頬を強く叩く。
切り替えろよ俺。
失った信頼戻せるように死ぬ気で。
もう強い俺はいない。
過信はもうしない。
「それじゃあ行こう。グラジオたちのもとに」
「はい!」
こうして二人でのダンジョン攻略が始まった。
ミリアとモモからいくつもの尖った岩のつぶてが発射されたのを確認するのと同時に俺とツバキが攻撃を仕掛けた。
相手は大人の膝下くらいの大きさがある強靭な顎を持った昆虫型モンスター『キラーアント』
気をつけるべきポイントはあの頑丈な甲殻。
刃をなかなか通さないだけではなく、炎属性への耐性も兼ね備えている。
鎧にも素材として使われているぐらいなのだから初見での対処は難しい。
「だが・・・」
スパンと俺とツバキは一太刀で頭部と胴体を一刀両断する。
「接続部は弱いのを知っていればなんてことはない」
頭が離れたのを理解しないままゆっくり前進し続け、その場でぐったりと倒れたキラーアントの胴体。
バースに来る以前より格段に成長しているのを感じる。
だがここで、ふと疑問に思ったことがある。
今の俺の実力は一体どのくらいなんだろう。
おそらく並大抵のモンスターになら負けないだろう。
もしかしたら、師匠にだって・・・
そんな事を考えていたら、
「カインさん早く行きますよ」
とグラジオの呼ぶ声が聞こえたので一旦考えるのはやめてみんなのもとに駆け足で向かった。
///
進み続けて数時間。
俺たちは魔物を練習通りのやり方で狩りつつ、順調に進み続けていた。
「この調子で行けば、今日中に最深部にいけそうです。
ですが、気は抜かないでください。ダンジョンではモンスターと同じくらい気をつけなければならないものがあります」
グラジオは先にある地面を指差す。
よく見ると、そこには薄っすらと魔法陣のようなものが描かれている。
「それが、罠です」
「大抵はあまり気にしなくてもいいのが多いですが、『転移』だけは特に注意してください。
これに引っかかってしまうと、最悪の場合、一人だけダンジョンの奥地に飛ばされることになります」
グラジオは真剣な顔でそう言うが、
「・・・一人、か」
思えば、俺は一人で狩りをしたことがなかった。
いつもそばにダインかツバキがいた。
おかげでピンチになることもなく順調に来れたわけだが。
最近は順調に成長し続けているし、今の俺ならきっと一人でもやっていけるだけの実力はあるのでは。
ふとそんな考えがよぎったのだった。
「ですので決して気を・・・」
「大丈夫ですよグラジオさん」
言い終わる前に返事を返す。
今更そんな単純ミスをするつもりはない。
足元を気をつければいい話だ。
「ん?魔獣か」
ツバキの言葉で奥からカタカタと足音が近づいてきていることに気づく。
奥の暗闇をよく見ると一体のキラーアントらしきものが見えた。
普段キラーアントは複数体で移動するのだが群れからはぐれたのだろうか。
まあ、一体だけならわざわざ魔法を打つ必要もないだろう。
ここはササッと倒すか。
「自分が倒してきます」
そう言ってすぐに剣を抜いて飛び出す。
「カインちょっと待て」
今更一体に負けないだろうとツバキの制止を聞かず、そのまま剣を振り下ろす。
しかし、今までと違いカーンと甲高い音が鳴り響いた。
おかしいな。
たしかに接続部分を狙っていたはずだが何故か頭部の外殻に止められている。
そしてたった今、さっきまでこのキラーアントは薄暗いところにいたため気づけなかったが、体の色が通常色の黒ではなく、赤色であった。
これってまさか・・・
「まずい、変異種だ」
ツバキがいち早く気づいた。
キラーアントの変異種は並の個体の二倍近い強度と速度を持っている。
すぐに俺の剣は振り払われ、バランスを崩される。
「危ない!!」
グラジオが咄嗟に俺に飛びついてくれたおかげで、なんとかキラーアントの変異種の攻撃から回避し、その外した隙をツバキは目にも留まらぬ速さで切り裂いた。
しかし、「くっ」とグラジオは肩を抑える。
「まさか」と確認すると、予想通り、俺をかばった時に攻撃がかすめていたのだ。
「グラジオ!」
その姿を見て、ミリアは血相を変えてグラジオのもとに走りだす。
「そこはダメですお嬢様!!」
ハッと振り返って、グラジオは叫ぶが。
その瞬間、ミリアの足元には例の魔法陣があった。
俺に気を取られてみんな察知するのが遅れた。
ミリアの足先が着いた瞬間、魔法陣はまばゆい光を放出する。
「しまった!」
俺はすぐにミリアに向かって全速力で走り出す。
手を伸ばし、ミリアに指が触れたと同時、トラップが発動した。
「グラジ・・」
ミリアが言い終わるのを待たずして二人の姿は一瞬にして消えてしまった。
「お嬢様ーー!!」
洞窟にはグラジオの叫び声だけが響き渡った。
///
気がつくとそこは変わらず洞窟の中だった。
変わったのは今いるのは俺とルミアのふたりだけということ。
「・・・はあ」
失敗した。
これの全責任は俺にある。
自分の力を過信して魔獣相手に油断していた。
以前はそんなことあり得なかったのに。
これまで下手にうまくいき過ぎて、自分が負けることはないと心のどこかで思っていた。
全く、何やってんだよ。
調子に乗って勝手に一人で突っ込んだ挙げ句、グラジオに怪我を負わせて。
さらにそのせいで転移の罠に気づくのも遅れて・・・
自分を主人公と勘違いでもしてたか俺。
グラジオも師匠もモモもここにはいない。
彼らがいないだけでここまで不安になるなんて。
俺はまだまだ未熟のクソガキだったな。
これから一体どうすれば・・・
「グラジオ・・・」
ふとそばから泣きそうな声が聞こえた。
そこにはうずくまって震えるミリアの姿。
それもそうだ、俺より不安なのはミリアの方だ。
いつも守ってくれていた実力のあるグラジオはいない。
いるのはそのグラジオの足を引っ張った俺。
「・・・」
なあ、俺。
今するべきことなんて、そんなの決まっているじゃないか。
へこむより先にやることがあるだろ。
「ミリア、本当にごめん」
そう言って頭を深く下げる。
「俺のせいでこうなった。グラジオの怪我も全部」
もちろんこれで許してもらおうなんて考えていない。
頭下げただけで許されないことぐらい前世で経験済みだ。
失敗したなら、へこんでいる暇なんてない。
へこむのは後だ。
俺がすべきこと、それは。
「だから責任を取らせてくれ。俺が命をかけて、必ず、グラジオたちのもとまで届けてみせる」
「どうか信じてくれ」
いきなりのことで彼女はキョトンとしたような顔でこちらを見つめる。
しかし、少し経って彼女はふふっと笑った。
「・・・わかりました」
「でも!」
と付け加えるようにミリアは言った。
「カインさんだけじゃなくて、二人で頑張りましょ!」
その言葉に俺は自分がまた同じミスをしそうだったことに気がついた。
俺はまだまだ未熟だってことをさっき思い知ったのに、今俺は一人で戦おうとしていた。
魔獣一体に負けたところなのにだ。
「・・・ありがとう」
バシっと頬を強く叩く。
切り替えろよ俺。
失った信頼戻せるように死ぬ気で。
もう強い俺はいない。
過信はもうしない。
「それじゃあ行こう。グラジオたちのもとに」
「はい!」
こうして二人でのダンジョン攻略が始まった。
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