黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実

文字の大きさ
30 / 98
第3章 接近

しおりを挟む
 アトラクションの絶叫度は、まあそこそこだった。恐竜よりは激しいけど、僕でも乗れる程度。これの前に乗ったヤバいやつ(浩大が気になっていたもう一つのジェットコースター)が想像以上にヤバかったせいで、だいぶ感覚が麻痺しているのかもしれない。立ち乗りなら、また違ったスリルを味わえたのかもしれないけれど……まあ、それは次の機会にでも。

 乗り場を降りると、浩大たちはすでに待ち構えていた。「巻きで!」とでも言いたげに、腕時計もない手首を二本指でカンカンと叩いている。

「遅かったなおい!おもろかったか? とりあえず最後行くぞ!」

「なにそんな慌ててるんだよ。もう大体乗ったし、別に無理して最後行かなくても……」

「バーロー。遊園地っつったら、外せねえのあるだろ?」

 遊園地で、外せないもの……?一通り乗り尽くした気でいる僕には、すぐにピンとこなかった。
 でも、視界の端で、段々と近づいてくるそれを見て、ある意味納得した。

「なるほど、それで急いでたのか」

「おうよ。一周十五分かかるらしいからな」

 聳え立つそれは、赤・橙・黄色を基調とした巨大な観覧車。確かに、遊園地『デート』であれば定番中の定番だ。

「よーし、じゃあ最後はで決めっか!」

 まさかの提案に、今度ばかりは思わず驚いた。せっかくのチャンスを、なぜあえて運任せに?

「お前、それでいいのか?」

「せっかく男女四人で来てんだから、その方がおもろいだろ」

 女子の方に目をやると、麻美ちゃんも栞ちゃんも「任せるよ」といった表情。
 仕方ない。どっちになっても、別に……構わないし。

「じゃあ行くぞ? 裏か表で別れましょっ! しょっ! しょッ!——」









「……で、なんで最後の最後に裏表なんかにしたわけ?」

 静寂の中、頭を抱える浩大を前に、僕は堪りかねて切り出した。

「まさかここで三分の一のハズレ引くとは思わねえだろ」

「いや三分の一はまあまあな確率だろ」

 と、言いつつ僕もこの展開は想定外だった。『どちらでもいい』とは思っていたけど、それはあくまで“二択”だった場合の話であって……この状況は勘定に入れていない。

「てか、化け屋敷の時から謎だったんだよ。潔く『立石さん行こうぜ』とか言うのかと思ってたのに」

「いや、最初は俺もそのつもりだった。けどやっぱ、方針変えたんだわ」

「なんだよ方針って」

 浩大は握っていた飲みかけのコーラを一気に飲み干す。

「今日を事実上のデートにした場合よ、今日一日はハッピーに過ごせるわ。でも、次に立石さんが乗ってくれるかは分からねえ。恋愛ってのは、急ぐのは禁物だ。向こうも、俺が狙ってんのは薄々気づいてるはず。そこで今日のこのギャップよ。あえて運任せの展開にした方が意外性も出るし、“余裕ある男感”も演出できる。それに——」

 ゲフッと、大きなゲップを間に挟み、続けた。

誘い文句の方が、次につながるってわけ」

「……ん?今日を踏まえた?」

 浩大はドヤ顔で答える。

「お前、河西さんと二人きりになれたのって、実質あのジェットコースターくらいだろ?だから次は、西って名目で誘えばいい。そうすれば自然と俺は立石さんとペアになる。完璧だろ?」

「……つまり、僕をダシにしてるってことじゃん」

「ご名答!」

 ヤツはペットボトルを軽く叩きながら、悪びれもせずに笑った。

「ついでに言うと、さっきの待ち時間にそのうたい文句で誘っといたから」

「なんだそりゃ……さっきの未来形の口調は何だったんだよ」

「まあまあ。それはそれとして——」

 浩大は背もたれに寄りかかり、窓の外へと視線を投げる。

「本当は、この観覧車で次のデートスポットの調査をしようと思ってたんだがなあ。と言っても、俺の中ではもう決まってるから上手い具合に誘うだけだったんだが」

「なんだよそれ。で、どこよ?」

「決まってんだろ?」

 ニヤリと笑い、沈みかけた夕日に視線を重ねる。

「九月とはいえこの雰囲気……まだ夏は終わっちゃいねえ。『夏』『デート』っつったら——」




 帰りのバスと電車は、四人そろって爆睡だった。どちらも降りる場所が終点だったからよかったものの、そうでなければ、四人仲良く乗り過ごしていたかもしれない。
 駅に着いて想定外だったのは、ウチの車のすぐそばで、母さんと栞ちゃんのお母さんが談笑していたことだ。どうやら偶然近くに車を停めて気づいたらしい。母さんたちは小学校のPTAで一緒だったこともあり、もともと仲が良かった。

 で、何が問題かって——せっかく朝ボカしたのに、の詳細がしっかりバレてしまったこと。当然、小学生の頃の『遊ぶ』とは解釈のされ方が違うわけで……案の定僕は帰りの車でからかわれた。

「誰なのかと思ったら、栞ちゃんと麻美ちゃんだったか。アンタもやるじゃない。で、どっちがどっちなの?」

「だからそんなんじゃないって」

「あ、一応俺が立石さんっス」

 後部座席で浩大が調子よく手を挙げ、母さんは「ハハッ、そうかそうか」と頷く。その時は、ただの軽口だとしか思っていなかった。でも浩大を降ろした後——ふと、つぶやいた。

「ほんと、綺麗になったわねえ。お母さんに似て」

 僕は、その台詞にどこか違和感を覚えた。
 先ほど河西親子を目の当たりにしているわけだし、流れ的には栞ちゃんのことだと解釈するだろう。でも、それにしては……やけに寂しさのような雰囲気を感じる。

「……どっちの話?」

「麻美ちゃんよ。いや栞ちゃんももちろん綺麗になってるけどさ。麻美ちゃんなんて、小二の時以来だから」

「ああ……まあ、そうか」

 一度は納得しかけた——けれど、母さんは少し間を置いて、こう続けた。

「……本当に、お母さんは残念だったわね。まあ本人は元気そうだから良かったけど」

 その一言に、思考は止まる。

「……へ?」

 わけが分からず、口から漏れたのは間の抜けた声だった。でも母さんは、逆に僕の反応に驚いたような顔をして——確認するように、信じられない言葉を口にした。

 それは、今日一日の出来事を頭から吹き飛ばすほどの——重すぎる一言だった。


「麻美ちゃんのお母さん、今年の春亡くなってるんでしょ?交通事故で」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話

頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。 綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。 だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。 中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。 とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。 高嶺の花。 そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。 だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。 しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。 それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。 他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。 存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。 両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。 拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。 そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。 それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。 イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。 付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...