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序章 始まりの旅
夜桜の下へ
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「……なんだ、これ?」
満を持して出てきたのは、ボロボロのノート?と紫の布に包まれた何か。
……どうやら俺は、なんだかんだ少し『金目のもの』を期待していたらしい。いや、流石に札束が出てくるなんて思ってはいなかったけど、テレビのなんとか鑑定団には出せる程度の骨董品をイメージしていたんだ。だから、拍子抜けというか、うん——。
まだ一応、ベールに包まれている方の可能性を信じて布を取ってみる。こちらの中身は……これは、日本酒を入れる陶器……徳利ってやつか?蓋をするようにお猪口も入っている。
爺ちゃんの宝物って、まさかの……酒?振ってみると「ちゃぷちゃぷ」と中で音を立てているから、中身はまだ残っているようだ。
「爺ちゃん……酒貰っても俺飲めねえよ……」
思わず、桜の木に向かって呟いた。なんだか、大人になったら花見の時これを飲めと言われている気分。これが本当に、爺ちゃんが俺に『託した』かったものなのか?宝物ってことは、それなりに高級な品か、思い入れがある品かの二択な筈。でも、いずれにせよ今の俺にはその価値は分からない。察するに、経緯はこのノートらしき紙に書いているのだろうけど。
というか、表紙に十字でガムテープみたいなものが引っ付いているんだが、これの意図は何だ?中身を見せたくなくて、封印しようとした?いやそれなら普通捨てるか。
試しに、一ページ目をめくってみる。
「……た、達筆すぎて読めねえ」
まるで平安時代を思わせるような、筆で書かれたであろうそれは見た瞬間解読を諦めるレベルだった。二ページ目、三ページ目も同様だ。
パラパラとめくっていくと、何となく『日記っぽい』ってことだけは分かる。でも、それが分かったところで何の役にも立たない。これじゃあ酒の経緯もクソもないじゃないか。まずもってこの字体が爺ちゃんの字っぽくない。これ、実は全く知らない第三者の物ではないか?そう考えると急に希望が蘇ってくる。
けど、もう一度パラパラとめくった時、白紙ではない最後のページだけ字体が違うことに気付いた。
『【一九八四年 四月一日】
不思議な体験をした。酒を飲み、夜桜の下で目覚め、大事な友を得た。あれ程の体験はもうできないであろう。とは言っても、詳細なことはあまり覚えていない。唯一はっきりしているのは、この酒は次に託さなくてはならないということ。
これから冒険する友へ、夜桜の下でまた逢う日まで』
読める……まだ若干達筆ながら、ギリギリ読める。筆記具も筆というよりは筆ペンの雰囲気。この一ページだけ、別の人間が書いていると考えるのが妥当だろう。もしかして……これを書いたのが、爺ちゃん!?
仮にそうだとしよう。そうなると、この文章が宝物たり得る唯一のヒントだ。でも……申し訳ないけど、全然意味が分からないぞ?
『酒』という単語が出てくるから、それは恐らくこの酒のことだろう。わざわざ『夜桜』と書いているってことは、昼間にこの酒を飲んで気付いたら夜になってたってことか?不思議な体験って多分ただ酔っ払ってただけだろ?大事な友ってのは、偶然酔っ払い同士で意気投合した感じ?……いや、それじゃただの酒好きの日記にしか思えない。あーでも、そうなるとやっぱりコレが爺ちゃんの至高の酒=宝物みたいな等式が成り立つわけか?
いやでもなんか引っかかる……特に最後の二文。
勝手ながら中身を咀嚼した俺は、何故だかその酒に多少の興味を抱いた。違いはきっと分からないけど、何となく、その酒を注いでみたくなった。
「……おっとっと」
徳利を傾けると、少ない中身ながらお猪口は直ぐに満杯になった。時代劇の臭い台詞をまさか自分が言うことになるとは。しかも十五歳で。
目線の高さまで持ち上げると、酒特有のツンとする芳香が鼻の奥に入ってくる。でも、ウイスキーほど匂いがキツいわけでもなく、寧ろ段々フルーティな香りを感じるようになってきた。何だか、甘い?俺が知っている一般的な日本酒とも違うような気がする。
もしかして、甘酒なのだろうか?そうなると話は変わる。確か、甘酒は『酒』と書くくせにアルコールはほぼ入ってない飲み物。
つまり、今の俺でも飲める。
この時、俺はある意味曲解していたのだと解釈した。やはり、爺ちゃんが子供に酒なんか渡す筈がない。これは『飲める酒』なんだと、無理やり辻褄を合わせる方が今は自然。
一瞬、風が強く吹いた。その風で、八分咲きの桜が花びらを散らす。公園灯により照らされた夜桜が下から上に舞い、再びゆっくり地面まで降りてきた時、その中のたった一枚が水面を揺らした。
こんな幻想的な瞬間があるだろうか。桜が反射していた水面に、桜の花びらが着地するなんて。
まるで、桜が俺に話しかけているようだ。いや、桜というより、爺ちゃん?何だか、直ぐそこに居るようで、一緒に夜桜を観ているような感覚。
「綺麗だな」
桜の真下まで来て、俺はそれに向かって乾杯した。何よりもこれが、爺ちゃんを弔うことになる気がしたんだ。花びらが入った半透明のそれを、一気に口に流し込む。
「おえッ……やっぱりこれ酒じゃね——」
認識の途中で俺はすぐさま異変を感じた。それは、熱感が胃まで達した直後。急に視界がぐるぐると回りだし、意識が朦朧とし始める。
脚に力が入らない。どっちが空で、どっちが地面なのか。体は地面に着いた気がする。けど意識が地面を潜っていく。
まずい、まずいまずいまずい…………。
満を持して出てきたのは、ボロボロのノート?と紫の布に包まれた何か。
……どうやら俺は、なんだかんだ少し『金目のもの』を期待していたらしい。いや、流石に札束が出てくるなんて思ってはいなかったけど、テレビのなんとか鑑定団には出せる程度の骨董品をイメージしていたんだ。だから、拍子抜けというか、うん——。
まだ一応、ベールに包まれている方の可能性を信じて布を取ってみる。こちらの中身は……これは、日本酒を入れる陶器……徳利ってやつか?蓋をするようにお猪口も入っている。
爺ちゃんの宝物って、まさかの……酒?振ってみると「ちゃぷちゃぷ」と中で音を立てているから、中身はまだ残っているようだ。
「爺ちゃん……酒貰っても俺飲めねえよ……」
思わず、桜の木に向かって呟いた。なんだか、大人になったら花見の時これを飲めと言われている気分。これが本当に、爺ちゃんが俺に『託した』かったものなのか?宝物ってことは、それなりに高級な品か、思い入れがある品かの二択な筈。でも、いずれにせよ今の俺にはその価値は分からない。察するに、経緯はこのノートらしき紙に書いているのだろうけど。
というか、表紙に十字でガムテープみたいなものが引っ付いているんだが、これの意図は何だ?中身を見せたくなくて、封印しようとした?いやそれなら普通捨てるか。
試しに、一ページ目をめくってみる。
「……た、達筆すぎて読めねえ」
まるで平安時代を思わせるような、筆で書かれたであろうそれは見た瞬間解読を諦めるレベルだった。二ページ目、三ページ目も同様だ。
パラパラとめくっていくと、何となく『日記っぽい』ってことだけは分かる。でも、それが分かったところで何の役にも立たない。これじゃあ酒の経緯もクソもないじゃないか。まずもってこの字体が爺ちゃんの字っぽくない。これ、実は全く知らない第三者の物ではないか?そう考えると急に希望が蘇ってくる。
けど、もう一度パラパラとめくった時、白紙ではない最後のページだけ字体が違うことに気付いた。
『【一九八四年 四月一日】
不思議な体験をした。酒を飲み、夜桜の下で目覚め、大事な友を得た。あれ程の体験はもうできないであろう。とは言っても、詳細なことはあまり覚えていない。唯一はっきりしているのは、この酒は次に託さなくてはならないということ。
これから冒険する友へ、夜桜の下でまた逢う日まで』
読める……まだ若干達筆ながら、ギリギリ読める。筆記具も筆というよりは筆ペンの雰囲気。この一ページだけ、別の人間が書いていると考えるのが妥当だろう。もしかして……これを書いたのが、爺ちゃん!?
仮にそうだとしよう。そうなると、この文章が宝物たり得る唯一のヒントだ。でも……申し訳ないけど、全然意味が分からないぞ?
『酒』という単語が出てくるから、それは恐らくこの酒のことだろう。わざわざ『夜桜』と書いているってことは、昼間にこの酒を飲んで気付いたら夜になってたってことか?不思議な体験って多分ただ酔っ払ってただけだろ?大事な友ってのは、偶然酔っ払い同士で意気投合した感じ?……いや、それじゃただの酒好きの日記にしか思えない。あーでも、そうなるとやっぱりコレが爺ちゃんの至高の酒=宝物みたいな等式が成り立つわけか?
いやでもなんか引っかかる……特に最後の二文。
勝手ながら中身を咀嚼した俺は、何故だかその酒に多少の興味を抱いた。違いはきっと分からないけど、何となく、その酒を注いでみたくなった。
「……おっとっと」
徳利を傾けると、少ない中身ながらお猪口は直ぐに満杯になった。時代劇の臭い台詞をまさか自分が言うことになるとは。しかも十五歳で。
目線の高さまで持ち上げると、酒特有のツンとする芳香が鼻の奥に入ってくる。でも、ウイスキーほど匂いがキツいわけでもなく、寧ろ段々フルーティな香りを感じるようになってきた。何だか、甘い?俺が知っている一般的な日本酒とも違うような気がする。
もしかして、甘酒なのだろうか?そうなると話は変わる。確か、甘酒は『酒』と書くくせにアルコールはほぼ入ってない飲み物。
つまり、今の俺でも飲める。
この時、俺はある意味曲解していたのだと解釈した。やはり、爺ちゃんが子供に酒なんか渡す筈がない。これは『飲める酒』なんだと、無理やり辻褄を合わせる方が今は自然。
一瞬、風が強く吹いた。その風で、八分咲きの桜が花びらを散らす。公園灯により照らされた夜桜が下から上に舞い、再びゆっくり地面まで降りてきた時、その中のたった一枚が水面を揺らした。
こんな幻想的な瞬間があるだろうか。桜が反射していた水面に、桜の花びらが着地するなんて。
まるで、桜が俺に話しかけているようだ。いや、桜というより、爺ちゃん?何だか、直ぐそこに居るようで、一緒に夜桜を観ているような感覚。
「綺麗だな」
桜の真下まで来て、俺はそれに向かって乾杯した。何よりもこれが、爺ちゃんを弔うことになる気がしたんだ。花びらが入った半透明のそれを、一気に口に流し込む。
「おえッ……やっぱりこれ酒じゃね——」
認識の途中で俺はすぐさま異変を感じた。それは、熱感が胃まで達した直後。急に視界がぐるぐると回りだし、意識が朦朧とし始める。
脚に力が入らない。どっちが空で、どっちが地面なのか。体は地面に着いた気がする。けど意識が地面を潜っていく。
まずい、まずいまずいまずい…………。
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