夜桜の下でまた逢う日まで

馬場 蓮実

文字の大きさ
6 / 34
第1章 出会い

酒の行方

しおりを挟む
 現実と同じなら、桜の木の下に埋まっている筈。あの時は墓荒らしかってくらい掘り漁ったけど、今ならそうはならない。ただ、本当にそこにあるなら、だけど。

「ハルは何処で酒を見つけたんだ?」

「俺は、あの桜の下」

「下?土の中か?」

「そうだけど」

「宝探しでもしとったんか?」

「あー……まあ、そうなるか……?」

「オメーも餓鬼じゃのう!まあ本当に掘り当てとるからなんとも言えんが!」

 いやいやあんたが言うなよ。とツッコミたい感情がこれほど掻き立てられたことはない。今のは間違いなく俺の人生でもどかしい瞬間トップ三に入るだろう。

 
 ん?ちょっと待てよ——


 同時に、この矛盾した会話の中で俺はとんでもないことに今更気が付いた。
 
 これが夢じゃないとして、目の前のトシが爺ちゃんであるなら、それは理論的に辻褄が合わない。
 何故なら、爺ちゃんはもう死んでいるから。というか、そもそも幼少の爺ちゃんと会話をしていること自体があり得ない。

 この状況が成り立つとすれば、これはやはり夢で、設定がただ異常に精巧ってパターン。

 もしくは、ここが異空間で、過去と繋がっているパターン……。

 いやー、どう考えても現実的なのは前者だ。でも、よくよく思い返せば「不思議な体験をした」とか爺ちゃん言ってた気もする……いやー、分からん。この世界が思考を夢の中のようにフワフワとさせてくるせいで、現実のように頭が回転してくれないのも問題だな。

 もし、もしだぞ?ここでの出来事が過去と繋がっていた場合、俺が変な発言をすると現実に影響を与えるのか?数年前ならまだしも、二世代違うとなれば、些細な変化が致命的な変化になりかねない。んー……流石に考えすぎ?

「とりあえず、そこ掘ってみるか?」

 不意に、腕を組んだトシが呟く。何はともあれ、まず優先すべきは現実に帰ることだ。今はやれることをやるべきか。

「そうだな。じゃあ、ショベルを探してこないと」

「ん?手じゃ無理なんか?」

「いやそんな浅い所に埋まってないよ」

「ったく誰じゃそんな所に埋めたヤツは」

「ンンンンン……誰だろうなあ……」

「ショベル持ってきたよ」

「ぇえ!?何処にあった?」

「外のゴミ捨て場に置いてあった」

「やるなあアネキ!よし後はわいに任せい!ハル、場所教えろ!」

 トシは意外にも率先的で、活き活きと穴掘り作業を始めた。俺がトシの立場なら理論的に『俺』に任せる。俺が一番正確に場所を分かっているわけだし。でも、この面倒な作業を率先してやる姿勢、見習うべきだな。


 それから、体感で十分くらいが経過。まあ、残念ながらその意気や虚しくやはりいくら掘っても角缶は姿を現さない。あの時は膝上が隠れるくらいの位置で鳴ったものの、トシの体は既に腰まで地面に浸かっている。ここには無いと見ていいだろう。

「ふう……無さそうじゃな」

 ショベルを置いて伸びをするトシに俺は手を差し伸べた。爺ちゃんのあのシワシワの手を覚えている俺としては、このトシのゴツゴツした手は新鮮だった。特に疲れた様子もない。俺よりはよっぽど体力があるようだ。

「さて、次はどうしたものか。アネキは何処で酒見つけたんじゃ?」

「私はー……何処だったっけ?忘れた」

「なんじゃいそれ!もしやこの世界の住人じゃあるめえな?」

「あー……それもアリね」

「おいおい否定せんかい」

 トシは思いの外頭が巡る。確かに、その可能性だってなくもないのか……まだ『死んでない』とも言い切れるわけじゃないし。俺が急性アルコール中毒で死んで、この二人がこの謎世界の住人、という可能性だってある。

 あ、待て……よくよく考えてみりゃ爺ちゃんこないだ死んでんじゃん!死んで今ここに昔の姿でいるって話なら割と辻褄が合ってくるぞ……。

「俺たち、やっぱり死んだのかな」

「んだアホ!今死んでたまるもんか。まだイイ思いしとらんっちゅうに」

「そうよ。アンタら別に酒何杯も飲んだわけじゃないんでしょ?人間そんなヤワじゃないわよ」

 まさかの全否定。うーん……それもそれで一理ある。トシはともかく、サクラの言い分はごもっともだ。
悩んでも仕方がない。今は『生きてる』と信じよう。

「で、トシ。あんたは何処でお酒見つけたの?」

「ああわいか!わいはのう、親父の部屋で見つけたんじゃ」

 俺が見つけた場所を聞いてサクラはピンときていない。そしてトシは父親の部屋……ということは、ここにいる三人とも見つけた場所はバラバラか。

「なにそれ勝手に持ち出したわけ?」

「人聞が悪いのう。ちゃんと許可とったわい」

「親父さん、飲んで良いって?」

「そうじゃ。見つけたのはもっと餓鬼の頃じゃったが、中学卒業した後なら一度だけ許すとな。まあ親父は正月の『おとそ』みたいな感覚で言ったんじゃろうが」

 トシの親父さんってことはつまり俺のひい爺ちゃんに当たるわけだが、あの酒一体何年前から存在するんだ……?

「そんじゃま、わいの家行ってみるか!親父の部屋にあるやもしれん」

「そうね。少なくともここには無さそうだし」

 トシは軽快に穴から飛び出し、俺たちを先導するように出口へ向かった。サクラは、周囲をキョロキョロと見渡しながらトシに続く。考えてみれば、二人にはこの町の景色はどう映っているのだろうか。俺は最初、違和感しか感じなかったけど。

「サクラ、この辺の外観は現実と一緒か?」

「んー、変わってるようなそうでもないような。アンタが起きた時言ったけど私ここの人間じゃないからね」

「あれ、じゃあなんで今ここに?」

「今春休みだから。実家に帰省してる感じ」

「あー、なるほど……?」

 ということは、サクラの実家に行けば酒がある可能性も?でもそれはそれで提案しづらいな……非常事態とはいえ『女子』の家に行きたいと言ってるようなもんだし。そもそも、頭がキレそうなサクラがそれを言い出さないってことは、その線は薄いのか。

「んー、おかしい」

 次に口を開いたのは、トシ。腕を組み、無い顎髭を触るように何かを考えている。

「どうした?」

「どうしたって、おかしいじゃろこの感じ。なんかどんどん薄暗くなってねえか?」

「あ、ああ。そうだな……」

 実はそのくだりもう一回やってるんだ。なんてカミングアウトをすると後々ややこしくなりそうだから、ここは惚けておこう。目的地一緒の筈だしなあ。

「あと、この辺はもっと田んぼだったと思うんじゃが、一軒家だらけじゃねえか」

「あー……そうなのか」

 二人に会う前は精巧な夢だと思い込んでいたから、それ以上に考察しなかった。マンションが無いこと以外俺はあまり変化を感じなかったし、その程度なら『夢』で十分片付く。けど、トシのその違和感と整合させると、ここは単なる町を模した異世界でもない。
 多分、俺にとっては過去で、トシにとっては未来の——
 

 もしかして、過去と未来が繋がっている……!?

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

【完結】『80年を超越した恋~令和の世で再会した元特攻隊員の自衛官と元女子挺身隊の祖母を持つ女の子のシンクロニシティラブストーリー』

M‐赤井翼
現代文学
赤井です。今回は「恋愛小説」です(笑)。 舞台は令和7年と昭和20年の陸軍航空隊の特攻部隊の宿舎「赤糸旅館」です。 80年の時を経て2つの恋愛を描いていきます。 「特攻隊」という「難しい題材」を扱いますので、かなり真面目に資料集めをして制作しました。 「第20振武隊」という実在する部隊が出てきますが、基本的に事実に基づいた背景を活かした「フィクション」作品と思ってお読みください。 日本を護ってくれた「先人」に尊敬の念をもって書きましたので、ほとんどおふざけは有りません。 過去、一番真面目に書いた作品となりました。 ラストは結構ややこしいので前半からの「フラグ」を拾いながら読んでいただくと楽しんでもらえると思います。 全39チャプターですので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 それでは「よろひこー」! (⋈◍>◡<◍)。✧💖 追伸 まあ、堅苦しく読んで下さいとは言いませんがいつもと違って、ちょっと気持ちを引き締めて読んでもらいたいです。合掌。 (。-人-。)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...