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第1章 出会い
酒の行方
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現実と同じなら、桜の木の下に埋まっている筈。あの時は墓荒らしかってくらい掘り漁ったけど、今ならそうはならない。ただ、本当にそこにあるなら、だけど。
「ハルは何処で酒を見つけたんだ?」
「俺は、あの桜の下」
「下?土の中か?」
「そうだけど」
「宝探しでもしとったんか?」
「あー……まあ、そうなるか……?」
「オメーも餓鬼じゃのう!まあ本当に掘り当てとるからなんとも言えんが!」
いやいやあんたが言うなよ。とツッコミたい感情がこれほど掻き立てられたことはない。今のは間違いなく俺の人生でもどかしい瞬間トップ三に入るだろう。
ん?ちょっと待てよ——
同時に、この矛盾した会話の中で俺はとんでもないことに今更気が付いた。
これが夢じゃないとして、目の前のトシが爺ちゃんであるなら、それは理論的に辻褄が合わない。
何故なら、爺ちゃんはもう死んでいるから。というか、そもそも幼少の爺ちゃんと会話をしていること自体があり得ない。
この状況が成り立つとすれば、これはやはり夢で、設定がただ異常に精巧ってパターン。
もしくは、ここが異空間で、過去と繋がっているパターン……。
いやー、どう考えても現実的なのは前者だ。でも、よくよく思い返せば「不思議な体験をした」とか爺ちゃん言ってた気もする……いやー、分からん。この世界が思考を夢の中のようにフワフワとさせてくるせいで、現実のように頭が回転してくれないのも問題だな。
もし、もしだぞ?ここでの出来事が過去と繋がっていた場合、俺が変な発言をすると現実に影響を与えるのか?数年前ならまだしも、二世代違うとなれば、些細な変化が致命的な変化になりかねない。んー……流石に考えすぎ?
「とりあえず、そこ掘ってみるか?」
不意に、腕を組んだトシが呟く。何はともあれ、まず優先すべきは現実に帰ることだ。今はやれることをやるべきか。
「そうだな。じゃあ、ショベルを探してこないと」
「ん?手じゃ無理なんか?」
「いやそんな浅い所に埋まってないよ」
「ったく誰じゃそんな所に埋めたヤツは」
「ンンンンン……誰だろうなあ……」
「ショベル持ってきたよ」
「ぇえ!?何処にあった?」
「外のゴミ捨て場に置いてあった」
「やるなあアネキ!よし後はわいに任せい!ハル、場所教えろ!」
トシは意外にも率先的で、活き活きと穴掘り作業を始めた。俺がトシの立場なら理論的に『俺』に任せる。俺が一番正確に場所を分かっているわけだし。でも、この面倒な作業を率先してやる姿勢、見習うべきだな。
それから、体感で十分くらいが経過。まあ、残念ながらその意気や虚しくやはりいくら掘っても角缶は姿を現さない。あの時は膝上が隠れるくらいの位置で鳴ったものの、トシの体は既に腰まで地面に浸かっている。ここには無いと見ていいだろう。
「ふう……無さそうじゃな」
ショベルを置いて伸びをするトシに俺は手を差し伸べた。爺ちゃんのあのシワシワの手を覚えている俺としては、このトシのゴツゴツした手は新鮮だった。特に疲れた様子もない。俺よりはよっぽど体力があるようだ。
「さて、次はどうしたものか。アネキは何処で酒見つけたんじゃ?」
「私はー……何処だったっけ?忘れた」
「なんじゃいそれ!もしやこの世界の住人じゃあるめえな?」
「あー……それもアリね」
「おいおい否定せんかい」
トシは思いの外頭が巡る。確かに、その可能性だってなくもないのか……まだ『死んでない』とも言い切れるわけじゃないし。俺が急性アルコール中毒で死んで、この二人がこの謎世界の住人、という可能性だってある。
あ、待て……よくよく考えてみりゃ爺ちゃんこないだ死んでんじゃん!死んで今ここに昔の姿でいるって話なら割と辻褄が合ってくるぞ……。
「俺たち、やっぱり死んだのかな」
「んだアホ!今死んでたまるもんか。まだイイ思いしとらんっちゅうに」
「そうよ。アンタら別に酒何杯も飲んだわけじゃないんでしょ?人間そんなヤワじゃないわよ」
まさかの全否定。うーん……それもそれで一理ある。トシはともかく、サクラの言い分はごもっともだ。
悩んでも仕方がない。今は『生きてる』と信じよう。
「で、トシ。あんたは何処でお酒見つけたの?」
「ああわいか!わいはのう、親父の部屋で見つけたんじゃ」
俺が見つけた場所を聞いてサクラはピンときていない。そしてトシは父親の部屋……ということは、ここにいる三人とも見つけた場所はバラバラか。
「なにそれ勝手に持ち出したわけ?」
「人聞が悪いのう。ちゃんと許可とったわい」
「親父さん、飲んで良いって?」
「そうじゃ。見つけたのはもっと餓鬼の頃じゃったが、中学卒業した後なら一度だけ許すとな。まあ親父は正月の『おとそ』みたいな感覚で言ったんじゃろうが」
トシの親父さんってことはつまり俺のひい爺ちゃんに当たるわけだが、あの酒一体何年前から存在するんだ……?
「そんじゃま、わいの家行ってみるか!親父の部屋にあるやもしれん」
「そうね。少なくともここには無さそうだし」
トシは軽快に穴から飛び出し、俺たちを先導するように出口へ向かった。サクラは、周囲をキョロキョロと見渡しながらトシに続く。考えてみれば、二人にはこの町の景色はどう映っているのだろうか。俺は最初、違和感しか感じなかったけど。
「サクラ、この辺の外観は現実と一緒か?」
「んー、変わってるようなそうでもないような。アンタが起きた時言ったけど私ここの人間じゃないからね」
「あれ、じゃあなんで今ここに?」
「今春休みだから。実家に帰省してる感じ」
「あー、なるほど……?」
ということは、サクラの実家に行けば酒がある可能性も?でもそれはそれで提案しづらいな……非常事態とはいえ『女子』の家に行きたいと言ってるようなもんだし。そもそも、頭がキレそうなサクラがそれを言い出さないってことは、その線は薄いのか。
「んー、おかしい」
次に口を開いたのは、トシ。腕を組み、無い顎髭を触るように何かを考えている。
「どうした?」
「どうしたって、おかしいじゃろこの感じ。なんかどんどん薄暗くなってねえか?」
「あ、ああ。そうだな……」
実はそのくだりもう一回やってるんだ。なんてカミングアウトをすると後々ややこしくなりそうだから、ここは惚けておこう。目的地一緒の筈だしなあ。
「あと、この辺はもっと田んぼだったと思うんじゃが、一軒家だらけじゃねえか」
「あー……そうなのか」
二人に会う前は精巧な夢だと思い込んでいたから、それ以上に考察しなかった。マンションが無いこと以外俺はあまり変化を感じなかったし、その程度なら『夢』で十分片付く。けど、トシのその違和感と整合させると、ここは単なる町を模した異世界でもない。
多分、俺にとっては過去で、トシにとっては未来の——
もしかして、過去と未来が繋がっている……!?
「ハルは何処で酒を見つけたんだ?」
「俺は、あの桜の下」
「下?土の中か?」
「そうだけど」
「宝探しでもしとったんか?」
「あー……まあ、そうなるか……?」
「オメーも餓鬼じゃのう!まあ本当に掘り当てとるからなんとも言えんが!」
いやいやあんたが言うなよ。とツッコミたい感情がこれほど掻き立てられたことはない。今のは間違いなく俺の人生でもどかしい瞬間トップ三に入るだろう。
ん?ちょっと待てよ——
同時に、この矛盾した会話の中で俺はとんでもないことに今更気が付いた。
これが夢じゃないとして、目の前のトシが爺ちゃんであるなら、それは理論的に辻褄が合わない。
何故なら、爺ちゃんはもう死んでいるから。というか、そもそも幼少の爺ちゃんと会話をしていること自体があり得ない。
この状況が成り立つとすれば、これはやはり夢で、設定がただ異常に精巧ってパターン。
もしくは、ここが異空間で、過去と繋がっているパターン……。
いやー、どう考えても現実的なのは前者だ。でも、よくよく思い返せば「不思議な体験をした」とか爺ちゃん言ってた気もする……いやー、分からん。この世界が思考を夢の中のようにフワフワとさせてくるせいで、現実のように頭が回転してくれないのも問題だな。
もし、もしだぞ?ここでの出来事が過去と繋がっていた場合、俺が変な発言をすると現実に影響を与えるのか?数年前ならまだしも、二世代違うとなれば、些細な変化が致命的な変化になりかねない。んー……流石に考えすぎ?
「とりあえず、そこ掘ってみるか?」
不意に、腕を組んだトシが呟く。何はともあれ、まず優先すべきは現実に帰ることだ。今はやれることをやるべきか。
「そうだな。じゃあ、ショベルを探してこないと」
「ん?手じゃ無理なんか?」
「いやそんな浅い所に埋まってないよ」
「ったく誰じゃそんな所に埋めたヤツは」
「ンンンンン……誰だろうなあ……」
「ショベル持ってきたよ」
「ぇえ!?何処にあった?」
「外のゴミ捨て場に置いてあった」
「やるなあアネキ!よし後はわいに任せい!ハル、場所教えろ!」
トシは意外にも率先的で、活き活きと穴掘り作業を始めた。俺がトシの立場なら理論的に『俺』に任せる。俺が一番正確に場所を分かっているわけだし。でも、この面倒な作業を率先してやる姿勢、見習うべきだな。
それから、体感で十分くらいが経過。まあ、残念ながらその意気や虚しくやはりいくら掘っても角缶は姿を現さない。あの時は膝上が隠れるくらいの位置で鳴ったものの、トシの体は既に腰まで地面に浸かっている。ここには無いと見ていいだろう。
「ふう……無さそうじゃな」
ショベルを置いて伸びをするトシに俺は手を差し伸べた。爺ちゃんのあのシワシワの手を覚えている俺としては、このトシのゴツゴツした手は新鮮だった。特に疲れた様子もない。俺よりはよっぽど体力があるようだ。
「さて、次はどうしたものか。アネキは何処で酒見つけたんじゃ?」
「私はー……何処だったっけ?忘れた」
「なんじゃいそれ!もしやこの世界の住人じゃあるめえな?」
「あー……それもアリね」
「おいおい否定せんかい」
トシは思いの外頭が巡る。確かに、その可能性だってなくもないのか……まだ『死んでない』とも言い切れるわけじゃないし。俺が急性アルコール中毒で死んで、この二人がこの謎世界の住人、という可能性だってある。
あ、待て……よくよく考えてみりゃ爺ちゃんこないだ死んでんじゃん!死んで今ここに昔の姿でいるって話なら割と辻褄が合ってくるぞ……。
「俺たち、やっぱり死んだのかな」
「んだアホ!今死んでたまるもんか。まだイイ思いしとらんっちゅうに」
「そうよ。アンタら別に酒何杯も飲んだわけじゃないんでしょ?人間そんなヤワじゃないわよ」
まさかの全否定。うーん……それもそれで一理ある。トシはともかく、サクラの言い分はごもっともだ。
悩んでも仕方がない。今は『生きてる』と信じよう。
「で、トシ。あんたは何処でお酒見つけたの?」
「ああわいか!わいはのう、親父の部屋で見つけたんじゃ」
俺が見つけた場所を聞いてサクラはピンときていない。そしてトシは父親の部屋……ということは、ここにいる三人とも見つけた場所はバラバラか。
「なにそれ勝手に持ち出したわけ?」
「人聞が悪いのう。ちゃんと許可とったわい」
「親父さん、飲んで良いって?」
「そうじゃ。見つけたのはもっと餓鬼の頃じゃったが、中学卒業した後なら一度だけ許すとな。まあ親父は正月の『おとそ』みたいな感覚で言ったんじゃろうが」
トシの親父さんってことはつまり俺のひい爺ちゃんに当たるわけだが、あの酒一体何年前から存在するんだ……?
「そんじゃま、わいの家行ってみるか!親父の部屋にあるやもしれん」
「そうね。少なくともここには無さそうだし」
トシは軽快に穴から飛び出し、俺たちを先導するように出口へ向かった。サクラは、周囲をキョロキョロと見渡しながらトシに続く。考えてみれば、二人にはこの町の景色はどう映っているのだろうか。俺は最初、違和感しか感じなかったけど。
「サクラ、この辺の外観は現実と一緒か?」
「んー、変わってるようなそうでもないような。アンタが起きた時言ったけど私ここの人間じゃないからね」
「あれ、じゃあなんで今ここに?」
「今春休みだから。実家に帰省してる感じ」
「あー、なるほど……?」
ということは、サクラの実家に行けば酒がある可能性も?でもそれはそれで提案しづらいな……非常事態とはいえ『女子』の家に行きたいと言ってるようなもんだし。そもそも、頭がキレそうなサクラがそれを言い出さないってことは、その線は薄いのか。
「んー、おかしい」
次に口を開いたのは、トシ。腕を組み、無い顎髭を触るように何かを考えている。
「どうした?」
「どうしたって、おかしいじゃろこの感じ。なんかどんどん薄暗くなってねえか?」
「あ、ああ。そうだな……」
実はそのくだりもう一回やってるんだ。なんてカミングアウトをすると後々ややこしくなりそうだから、ここは惚けておこう。目的地一緒の筈だしなあ。
「あと、この辺はもっと田んぼだったと思うんじゃが、一軒家だらけじゃねえか」
「あー……そうなのか」
二人に会う前は精巧な夢だと思い込んでいたから、それ以上に考察しなかった。マンションが無いこと以外俺はあまり変化を感じなかったし、その程度なら『夢』で十分片付く。けど、トシのその違和感と整合させると、ここは単なる町を模した異世界でもない。
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