夜桜の下でまた逢う日まで

馬場 蓮実

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第2章 佐野家

書斎

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 通路の左側は収納スペースのようで、上段と下段の間には小物が沢山置いてある。触った感じ、木彫りの彫刻とか人形とか、あと写真立てみたいなものだろうか。
 五個、六個、なんて数じゃない。十個……いや二十個は優に超えている。この長い廊下に対しても少し雑然としている雰囲気、これは客に見せるための展示品というよりは思い出の品が無造作に置かれている感じだと思う。アルバムなんかがあれば我が家のルーツを知れそうなものだが。

 下段の角が手から離れると、廊下ではない広い空間へと変わった。図面の通りなら、確か左側と前方にドアがあって、左は廊下からリビングへと、前方は例の書斎へと繋がるはず。

「二人ともええか?ここからは離れるなよ」

 少し離れたところからトシの声が聞こえ、すかさずサクラが後ろから反応した。

「待ってトシ、私が先に行くから」

「アホ言え。わいの家でおまんらに何かあったら責任取れん。黙って着いて来い」

「おうおう逞しいこと」

 ガチャッ、というドアノブの回転と共に、蝶番が高々と鳴る。
 その金属の疲弊音ときたら今にも壊れそうなものだけど、それよりも先に驚いたのは、そのドアの先。てっきり真っ暗だと思っていたのに、意外にも薄ら明るい。よく見渡すと、奥の壁を塞いでいる本棚の上から僅かに光が漏れ出ている。

「なんだ明るいじゃん。気張って損した」

「ゆーて、じゃろ。この距離でもアネキのイカつい顔見えんぞ」

「私のビューティフルフェイスが見えないって?かわいそうに」

 見たところ、あの部屋のような崖は無い。四方の壁を埋める大量の本棚と、右奥に机のようなものが一つ。後は特に変わったものは無し。ここはまるで、ウチの爺ちゃんの部屋みたいだ。
 
 ……ん?となると、将来的にはここが爺ちゃんの部屋?

 いやちょっと待て、爺ちゃんは中学生の時点で新居に移っていて、この異世界は更に時が進んでいるから……俺のひいひい爺ちゃんの部屋ってことでいいのか?ひい爺ちゃん……つまりトシのお父さんは一緒に新居に移ってるもんな?

「素朴な疑問なんだけど、この書斎はお祖父さんの部屋?」

「ここはわいの親父が使っとった。昔は爺さんの部屋じゃったらしいがの」

「あー、なるほど?」

 そうか、今は使ってないということであれば辻褄は合うのか……?んー、なんか自分家の事なのに混乱してきたぞ……。

 根本的なところ、ここが俺にとっての過去であることは間違いないとして、じゃあ具体的に何年前になるのか。

 俺が単に過去に来てるだけなら話は早いのに、トシにとっては未来だからタチが悪い。いつなのかが分からないことには不確定なことが多すぎる。まあ、分かったところで今更どうなるって話ではあるかもしれないけど。

「印の位置的にこの机が怪しいわね」

 大きさはよくある学校の教職員デスクと同程度。触った感じ骨組みは鉄で天板やサイドチェストは木製のようだ。

「また机か。まったく芸が無いのう」

「芸があったら困るの私たちでしょうが」

 トシが数段ある引き出しを下から順に開けていき、サクラが中を手で漁る。今回は空っぽという感じではなく、書類や文房具といった物が別の入れ物に収納されているようで、簡単には判別できない。

「あっちとこっちでなんでこんなに物の量が違うのよ」

 周囲の本棚は整然としているのに、机の中がそうじゃないのは若干引っかかる。それにサクラの言う通り、新居の机と違って何というか、生活感?がある。置き勉してる学校のロッカーとでも言えば分かりやすいだろうか。
 となると、やっぱりひい爺ちゃんが引っ越した後で今(と言ってもこの世界での時代)はひいひい爺ちゃんが使っているというのが無難な推理か。普通に考えて新居の部屋とこの部屋は状況が逆じゃないとおかしいからな。

 そうこうしている間に四段あるうちの下三段を終えて、いずれも不発。残りは一段目のみ。何となく楽観視していた俺たちにも、ここまでくると少しの緊張が走りつつあった。ここになければ、割と本格的に『詰み』になる。

「最後、開けるぞ」

 下三段に比べると、段間が狭いここが可能性として一番低い気がする。少なくとも、俺が見つけた時のあの箱は入らない。徳利を横に寝かせてギリってところだ。

「勿体ぶらなくていいから早よ開けな」

「いや、ちょっと待ってくれ……開かねえわ」

「はい?」

 サクラが代わり、取っ手を握って手前に引くも、サイドチェスト全体が揺れるだけで一向に開かない。

「物が引っかかってる感じか?」

「いや、そんなんじゃないわ……もしかして、これ鍵かかってない?」

「それなら鍵穴があるはずだけど」

「……あ、あった普通に」

 前板を指で探ると、右端に丸い金具と細い溝。確かにこれは、鍵付きの引き出しでよく見るタイプのやつだ。暗くて全然気が付かなかった。

「てことは、今度は鍵を探せってこと?」

「おい嘘じゃろ……いっそぶち壊すか!?」

「なにバカ言ってんの?変に衝撃与えてお酒こぼれたらどうすんのよ」

「おぉ確かに……でもよ、これってチャリンコの鍵くらいのサイズじゃろ?この状況で見つけ出すのは相当厳しいぞ?」

「まあ私はもう少しこの家見て回りたかったし、丁度いいかな」

「サクラおまえ、この状況でよくそんな観光気分でいられるな」

 でも、俺はこれで確信した。鍵がかかっているということは、ここにそれ相応の物があるってことだ。間取り図の印も考慮すると、それは間違いない。もしそれが酒ではないにせよ、あの一緒に入ってたノートって可能性もある。

「しゃあねえ、そんじゃあ手分けして探そう。わいはまだ見てないリビングを漁ってみる。おまんらは適当に他当たってくれ」

「じゃあ私は和室でも見ようかな」

「んー……なら俺はその他で」

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