神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第7章

18.幸福と不幸の神器

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 「イデナウアー様は、神罰の影響を受けるであろう自身の子孫がご心配なのですよね。でしたら問題ありません。現在地上にいるレシスの血族で神罰を継いでいるのは、私とエイールさんとエイリーさん、サード家の者だけです」

 フルードとアリステルの実親は既に死亡している。アリステルの育ての親は邪霊に引き渡されたので除外して良いだろう。ランドルフとルルアージュはレシスの血を引いているものの、神罰からは解放されている。

「私は葬邪神様の守護をいただいています。エイールさんとエイリーさんも守護の玉で対処済みです。彼女たちに子ができた場合も、胎児の段階で神罰の因子を除去できるよう手はずを整えています」

 ツラツラと末裔たちの現況を指折り数えながら、大丈夫そうだと安堵する。

「サード家の面々は神罰に選ばれておらず、今後子を作ることもないかと。仮にあったとしても、彼らの動向には神官府が常時目を光らせているので、すぐに因子除去の手を打てますし」

 よほど想定外の事態が起こらない限り、神罰に関しては全員安泰の状態に持ち込めているはずだ。だからこそ、遊運命神に是が非でも神罰を消してもらおうとまではしていない。

「これらをイデナウアー様にお伝えし、ご懸念の必要はないことを申し添えれば、ご安心下さるでしょう。きっとエアニーヌと慧音も、用無しとして解放していただけます」

 快く愛し子の誓約を破棄してくれるのでは、との展望を抱くアマーリエに、冷や水をぶっかけるような嗤笑ししょうが降り注いだ。

『残念だが、そこまで上手く事は運ばなさそうだ。レシスの祖の懸念はもう一つあるのだよ』
「もう一つ?」
『ああ。先程言っただろう。祖は入眠中、末裔を案じて色々と思考を巡らせていたと。その内に気が付いたそうだ。幸福の神器から反転した不幸の神器が、子孫に継がれているのではないか、とね』
「幸福の神器と言いますと――遊運命神様がお創りになられた物でしょうか?」

 原初の聖威師たちが顕現した折、その子孫も一部は神の寵を受け、天に愛される一族として血を繋いでいった。イステンドにノルギアス、宗基に唯全……現在の大公家と一位貴族の前身である。

 一方、レシスの血族に関しては、ついぞ神に見初められることはなかった。ただの人として生きていくであろう末裔たちに、イデナウアーは遊運命神に依頼して創生してもらった神器を下賜した。所有者が幸福になれる神威を込めた、幸せの神器だ。悪神であっても、鈍黒を纏わせなければ、通常の神と同じ神器を生み出せる。

 しかし後世、レシスの末裔たちは昔日の栄誉を渇求し、禁忌の交わりの果てに生まれた子にその神器を飲み込ませ、聖威師だと偽った。それが遊運命神に露見し、不興を買ったのだ。幸福の神器は、所有者を恐怖と絶望のどん底に叩き落とす不幸の神器に変貌した。

「そういえば、神器を飲み込んだ子どもは神を騙ったとして直に神罰を受けたと聞きました。取り込んだ神器はどうなったのでしょうか?」
(子どもが亡くなった時、一緒に埋葬されたのかしら。いえ、イデナウアー様が心配されているということは、何らかの形で後代に継承されている……?)

 首をひねっていると、ラミルファがパチンと指を鳴らした。

『そこだよ。イデナウアーによると、不幸の神器は神を騙った子どもの中に溶け込んだそうだ』
「つまり、所有者と一体化したということですか? フルード様の内に在るフレイムの神器も同様だとお聞きしました」
『それとはまた別だ。あちらはセインの魂を神籬ひもろぎとして、宿る形で一つになっている。セインに同化していても、あくまで別個体なのだよ。決してセインを傷付けないし、僅かな負担も与えない。分離や再宿りも自由にできる』
『当たり前だ、俺が弟に負荷をかけるはずねえだろ』

 フレイムが鼻を鳴らした。仮にフルードの重荷になるような物であれば、狼神とこの邪神も放置していないだろう。

『分かっているとも。だが、不幸の神器はそうではない。所有者の魂に癒着し、内部まで寄生して完全に混ざり合う。透明な水に水溶性の絵の具を垂らせば、両者は溶け合うだろう。そんな感じだよ』

 宿主を何より大切に守護し、慈しむ焔の神器とは存在自体が異なるのだという。

『子どもと一体になった神器は、宿主の死と同時に絶えているかもしれない。だが、血脈を介していずれかの子孫に継がれていることも考えられる。イデナウアーはその点も案じている。だからこそ末裔の様子を確かめたがっているようだよ』
「神器が溶け込んでしまった子どもの子孫は、フルードとアリステル様、それにランドルフ君とルルアージュちゃんですよね。前者はお二方とも昇天されていますから、もし神器を受け継いでいても神威で無効にできるはず」

 フルードとアリステルより格上の遊運命神が創生した神器ではあるが、彼の神とて本気の全力を出して創ったわけではないはずだ。先代兄弟がその気になれば太刀打ちできるだろう。万一手こずったとしても、彼らの主神やそれに類する神々がどうにかしてくれる。なにせ遊運命神と同等の選ばれし神なのだから。

「懸念があるとすれば後者――ランドルフ君とルルアージュちゃんでしょうか?」
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