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第7章
35.訪れたのは
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眉間に皺を寄せて舌打ちしたフレイムに追随する形で、フルードとラミルファが補足してくれる。
『アマーリエが持つ有色の聖威ならば、力押しで打開することはできるかもしれません。高位神たるイデナウアー様の神器とはいえ、全力を込めてお創りになられた物ではないと思いますので。……しかし強引な方法を取れば、神官たちに強大な反動が返ります』
『神官共は自業自得だと切り捨てるとしても、反動の余波が拡散してイデナウアーの神域を傷付けるのは良くないと思うがね。おそらく、ランドルフたちも君と同じことをしようとして、同じ考えに至っているだろう。だから下手に動かないでいるのだよ』
なお、狼神は無言だ。彼は滅多なことがない限り静観を貫くことが多く、不動の神と称されているらしい。さらに言えば、神々のまとめ役たる葬邪神も、家族神を除けば〝特別〟を持たないようにしているという。にも関わらず、そんな彼らの懐にスルリと入り込み、愛し子や親子の契りを結んだフルードとアリステルは驚嘆すべき存在なのだそうだ。
「やはりそうでしたか。私もそんな気がしていました」
そうではないかと朧げに予想していたものが当たったと、アマーリエは項垂れた。
(フレイムの力を借りれば念話網を張れるだろうけれど……そんなこと頼めないわよ)
天界を引っかき回している神官たち。その尻拭いの相談をしたいので力を貸して欲しいなどと、迷惑をかけられている側の天の神に言うことは憚られた。フレイムが快く引き受けてくれたとしても、大神官としては駄目だろう。
フルードに対しても同じだ。先代大神官であること、ほんの数年前まで地上で在職していたこと、彼自身の性格などの要因により、様々に協力してくれているが、彼はもうれっきとした天の神の一柱なのだ。無闇に甘えて良い相手ではない。
「念話が駄目ならば転移で合流します。といっても、ランドルフ君たちからは来られないでしょう。念話が使えないならば、狼神様に来訪の許可が取れませんから」
経緯と状況がこの通りなので、アマーリエと同じ理由で、主神の力を借りることは躊躇われるだろう。
「私の方から彼らの元に転移しようと思います」
『アマーリエ、もう少し待って下さい。実は先ほどローナに念話で頼みごとをしました。もう来てくれると思います』
「アシュトン様にですか?」
何の依頼をしたのだろうかと転瞬した時、エアニーヌが追加で思念を放って来た。
《さて、現職の方々。少し時間を差し上げたのですし、もう完全昇天して下さいましたか?》
するわけないだろ、という聖威師たちの思いが念話網を駆け巡った。
《誰もしていませんわよ。あなた方はお幾つでしたかしら。確か13歳だったと記憶しています。もう準成人ではありませんの。にも関わらずこの体たらくとは、呆れるばかりですわ》
辛辣な言葉で刺したのはリーリアだ。王侯貴族や代々神官など一部の家系に生まれた子どもは、12歳で成年相当を迎える。アヴェント侯爵家に生まれ、英才教育を受けていたリーリアも、13歳の頃は大人に準じた扱いをされていたと聞いた。しかし、言葉を発した彼女自身が思い違いに気付いて訂正する。
《……いえ、違いましたわね。あなた方のお家は、とても裕福ですが貴族ではなかったはず。では本当にまだ子どもなのですわね》
平民に成年相当の制度は適用されない。己の言葉を訂正したリーリアだが、それで終わりにはしなかった。
《ですがそれでも、平均的な同年齢の者と比べれば思慮が足りないように思います。あなた方を年齢相応とするのは、世の中の13歳に失礼ですわ》
《甘やかされて育って来たゆえ、思考も言動も幼稚なのでしょう》
精神年齢が幼いとばっさり切り捨てたのは、しばし沈黙の姿勢を保っていた金剛神だ。
《それで? 私たちはいつまでこの茶番に付き合わされなければならないのか》
高芽の主神である梅神も、突き放すがごとき態度を取る。桜梅桃の神と金剛神、水晶神は奇跡に近い気長さで我慢してくれている。自身の愛し子を賎民呼ばわりされ、自分たちも色無しだと格下扱いされた時点で、気性の荒い神ならば激昂している。それでも平静を保ってくれているのは、高位神たちの手前だからだろう。
だが、堪忍袋の尾もいつかは切れる。アマーリエがヒヤリとした時、神々が表情を変えた。
『おや、セインが呼んだ客が来たようだ。アシュトンと、この神威は――ふむ、そうか』
『はい、狼神様。どうか入域の御許可をいただけませんでしょうか』
『当然だ。お入りと伝えておくれ。同胞の訪いは嬉しいものだ』
嬉しそうに耳と尾を振る灰銀の神の承諾を得て、間を空けず二柱の神が現れた。一柱は当然アシュトンだ。男装を解き、髪を伸ばした今でも、冷然とした涼やかな美貌に陰りはない。
そして、アシュトンの傍らにもう一柱。
『アマーリエが持つ有色の聖威ならば、力押しで打開することはできるかもしれません。高位神たるイデナウアー様の神器とはいえ、全力を込めてお創りになられた物ではないと思いますので。……しかし強引な方法を取れば、神官たちに強大な反動が返ります』
『神官共は自業自得だと切り捨てるとしても、反動の余波が拡散してイデナウアーの神域を傷付けるのは良くないと思うがね。おそらく、ランドルフたちも君と同じことをしようとして、同じ考えに至っているだろう。だから下手に動かないでいるのだよ』
なお、狼神は無言だ。彼は滅多なことがない限り静観を貫くことが多く、不動の神と称されているらしい。さらに言えば、神々のまとめ役たる葬邪神も、家族神を除けば〝特別〟を持たないようにしているという。にも関わらず、そんな彼らの懐にスルリと入り込み、愛し子や親子の契りを結んだフルードとアリステルは驚嘆すべき存在なのだそうだ。
「やはりそうでしたか。私もそんな気がしていました」
そうではないかと朧げに予想していたものが当たったと、アマーリエは項垂れた。
(フレイムの力を借りれば念話網を張れるだろうけれど……そんなこと頼めないわよ)
天界を引っかき回している神官たち。その尻拭いの相談をしたいので力を貸して欲しいなどと、迷惑をかけられている側の天の神に言うことは憚られた。フレイムが快く引き受けてくれたとしても、大神官としては駄目だろう。
フルードに対しても同じだ。先代大神官であること、ほんの数年前まで地上で在職していたこと、彼自身の性格などの要因により、様々に協力してくれているが、彼はもうれっきとした天の神の一柱なのだ。無闇に甘えて良い相手ではない。
「念話が駄目ならば転移で合流します。といっても、ランドルフ君たちからは来られないでしょう。念話が使えないならば、狼神様に来訪の許可が取れませんから」
経緯と状況がこの通りなので、アマーリエと同じ理由で、主神の力を借りることは躊躇われるだろう。
「私の方から彼らの元に転移しようと思います」
『アマーリエ、もう少し待って下さい。実は先ほどローナに念話で頼みごとをしました。もう来てくれると思います』
「アシュトン様にですか?」
何の依頼をしたのだろうかと転瞬した時、エアニーヌが追加で思念を放って来た。
《さて、現職の方々。少し時間を差し上げたのですし、もう完全昇天して下さいましたか?》
するわけないだろ、という聖威師たちの思いが念話網を駆け巡った。
《誰もしていませんわよ。あなた方はお幾つでしたかしら。確か13歳だったと記憶しています。もう準成人ではありませんの。にも関わらずこの体たらくとは、呆れるばかりですわ》
辛辣な言葉で刺したのはリーリアだ。王侯貴族や代々神官など一部の家系に生まれた子どもは、12歳で成年相当を迎える。アヴェント侯爵家に生まれ、英才教育を受けていたリーリアも、13歳の頃は大人に準じた扱いをされていたと聞いた。しかし、言葉を発した彼女自身が思い違いに気付いて訂正する。
《……いえ、違いましたわね。あなた方のお家は、とても裕福ですが貴族ではなかったはず。では本当にまだ子どもなのですわね》
平民に成年相当の制度は適用されない。己の言葉を訂正したリーリアだが、それで終わりにはしなかった。
《ですがそれでも、平均的な同年齢の者と比べれば思慮が足りないように思います。あなた方を年齢相応とするのは、世の中の13歳に失礼ですわ》
《甘やかされて育って来たゆえ、思考も言動も幼稚なのでしょう》
精神年齢が幼いとばっさり切り捨てたのは、しばし沈黙の姿勢を保っていた金剛神だ。
《それで? 私たちはいつまでこの茶番に付き合わされなければならないのか》
高芽の主神である梅神も、突き放すがごとき態度を取る。桜梅桃の神と金剛神、水晶神は奇跡に近い気長さで我慢してくれている。自身の愛し子を賎民呼ばわりされ、自分たちも色無しだと格下扱いされた時点で、気性の荒い神ならば激昂している。それでも平静を保ってくれているのは、高位神たちの手前だからだろう。
だが、堪忍袋の尾もいつかは切れる。アマーリエがヒヤリとした時、神々が表情を変えた。
『おや、セインが呼んだ客が来たようだ。アシュトンと、この神威は――ふむ、そうか』
『はい、狼神様。どうか入域の御許可をいただけませんでしょうか』
『当然だ。お入りと伝えておくれ。同胞の訪いは嬉しいものだ』
嬉しそうに耳と尾を振る灰銀の神の承諾を得て、間を空けず二柱の神が現れた。一柱は当然アシュトンだ。男装を解き、髪を伸ばした今でも、冷然とした涼やかな美貌に陰りはない。
そして、アシュトンの傍らにもう一柱。
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