神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第7章

36.本物が来た

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 フレイムが指を鳴らし、ラミルファが愉快げに口笛を吹く。

『おっ、そう来たかセイン』
『ふふ、なるほど』

 ニッと笑ったフレイムが思念を飛ばす。

《おい神官ども、こっちに重要な客が来たぜ。お前らの言が本当かどうか、もうすぐ分かる。っつーことで、俺とユフィーは念話網の声が聞こえないようにする。悪いな神官以外の皆、ちょっとだけ待っててくれ。客に挨拶したらまた聞こえるようにするから》
《は? ちょ、ちょっと――》

 エアニーヌの抗議の声ごと、紅蓮の神威が念話回路を遮断した。

 長身のアシュトンの陰から姿を見せたのは、繊弱ひわやかな女神だった。ゆったりとした神衣のあちこちに花飾りを纏っている。薄い亜麻色の髪と、ほっそりした白い四肢にも花の装飾品を着けていた。地に付くほど長い髪の中には、様々な色が流星のように現れては消えてゆく。幻想的な容姿に、アマーリエは思わず見惚れてしまった。

(綺麗……)

 皇国の先代大神官・当真の主神たる孔雀くじゃく神も、絢爛豪華な体躯を持っていた。極彩色ごくさいしきの羽の中に、多様な色が閃光のごとく浮き出ては弾け消えていくのだ。普段は鳥の姿をしているが、人型を取ったところも見たことがある。優雅な手付きで広げた羽扇を口元に当て、婀娜あだっぽい流し目を送って来る妙齢の美女だった。
 だが、孔雀の神の方が、花神よりも色が鮮明で豪華だった。目の前にいる女神は、もっと淡いパステル調の色だ。

 女神の周囲の虚空には大輪の花が咲き乱れ、花びらが舞っていた。こちらに視線を送る丸い瞳は、上半分が桃色で、下半分が新芽しんめ色。その二色がグラデーションを描いている。瞳の中にも色とりどりの輝きが星屑のように瞬いていた。外見だけ見ればまだ若い。大人になり切っていない少女のなりだ。

(イデナウアー様と同じくらい、よね……?)

 これまで二度ほど、粗い夢で祖の姿を視た。とても不鮮明な映像だったため、はっきりと容貌が視認できたわけではなかったが、イデナウアーもまた、年若く小さな背丈をしていた。

『これはこれは、御来駕ごらいがを賜わり恐縮にございますぞ――花神様』

 いち早く口を開いたのは、この領域の主だった。姿勢を整えて会釈した灰銀の巨狼に、少女の姿をした女神が歩み寄る。アシュトンが脇に逸れ、頭を下げて道を譲った。
 女神が一歩を踏み出すたび、周囲が何色にも光り輝き、花びらが舞い、足元で瑞々しい花が開花する。一瞬で咲いては四散し、花弁と化して溶け消える神花を従え、足を止めた女神は美しい目礼を取った。芳しい香りが立ち上るような、魅惑の声が紡がれる。

『狼神様にご挨拶いたします』

 次いで、大きな目がフレイムとラミルファにも向けられた。二色の双眸の中で明滅する無数の彩り。まるで、瞳の中に満開の花畑が広がっているかのようだ。

『焔神様及び邪神様におかれましても、ご機嫌麗しく』

 気配もなくソファから立ち上がっていた二神が軽く頭を下げる。

『いやー、あんまり良くないんですよ、機嫌。なんせこの状況ですから。それはともかく、お越し下さったんですね花神様』
『ふふ、あなたの彩り豊かなお姿はいつ見ても目を引かれます。豪奢さでは孔雀神様、上品さではあなただ』

 どちらも艶やかではありますがね、と肩を竦める末の邪神に、花を纏う女神も微苦笑を浮かべた。

『孔雀神様のお色は少々派手すぎて、わたくしには扱い切れませんの。もっとも先方からすれば、わたくしの色彩は控えめで地味らしいですわ。もっと濃い色も混ぜてはどうかと、幾度もお勧めいただいておりますの』

 神は変幻自在に姿を変えられる。フレイムやラミルファも、その気さえあれば全身虹色にすることも可能だ。ただし、外見ではなく神威に虹を帯びることができるのは、色持ちの神しかいない。

『ご挨拶申し上げます、花神様。妻に頼み、御身を招請したのは私です。御足労いただきましたことを心よりお礼申し上げます』
『顔を上げてちょうだい、縁神。誘ってもらえて嬉しいわ。同胞に会えるのはとても気分が良いことだもの』

 優雅に頭を下げるフルードに、ふんわりとした笑顔を向ける女神。一方の狼神も、アシュトンに声をかけていた。

『よく来たな、歓迎するぞ』
『お目もじが叶い光栄でございます』

 そつのない動作で答礼したアシュトンは、フレイムとラミルファにも挨拶する。一方、フルードと言葉を交わした花神は、つとアマーリエに視線を据えた。

「――おはつに拝謁いたします。私はミレニアム帝国大神官、アマーリエ・ユフィー・サードと申します」

 正確に言えば初対面ではない。大神官就任の際に天堂で言上を述べた時や、一時昇天で最高神に拝謁した際など、色持ちの神が集っていた場にこの女神もいた。色彩豊かな彼女の姿は孔雀神と並んで目立っていたため、チラリと記憶に残っている。
 だが、それらの時はフレイムやフルードを始め、先達神と顔見知りの神々たちの方に気を取られており、じっくりとこの神に意識を馳せはしなかった。個別に会話したこともないので、実質的にはお初も同然だ。

 衣を捌いて膝を折り、天の神に対する敬意を評して跪拝する。

「ご尊顔を拝し奉り恐悦至極にございます、花神様」
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