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第7章
61.私の神使に
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『……はい』
じぃっとエアニーヌたちを見つめていたアリステルが、ゆっくり首肯する。
『アリステル?』
訝しげに首を傾げたフルードが、アシュトンと顔を見合わせている。イデナウアーと毒神がおや、と呟き、葬邪神が漆黒の眼差しを我が子に注ぐ。フレイムはどこか複雑な顔をしていた。
『気に入ったならば、花神様に頼んで譲ってもらえば良い。折良く神使選定も続いているところだ、君の使役にしてしまえ。元聖威師で神使を選んだ者はまだいないから、君が第一号になれば良いのだよ』
(エアニーヌと慧音が、アリステル様の神使に?)
盲点だった。アリステルは悪神であるため、彼の神使とはすなわち生き餌だ。だが彼は元聖威師、つまり元人間でもある。人への愛着こそ薄いとはいえ、その感覚や価値観、情を理解している特異な悪神だ。数年前までは神官たちを庇護し、統率する大神官でもあった。
(それは良い方法かもしれないわ)
アリステルならば、神使に対して通常の神に近い対応をしてくれるのではないだろうか。育ての両親に対しては、正真正銘の生き餌という形で神使にすると持ちかけていたが、それは彼らが復讐対象であったためだ。神官に対しては違うかもしれない。事実、どうにかイデナウアーの生き餌から解放してやれないかと探ってくれたりもしていた。
(……いえ、駄目だわ。きっと花神様が了承されないもの)
良案だと思ったアマーリエだが、すぐに高揚を打ち消した。
(アリステル様が元人間ということは花神様もご存知のはず。形式的には悪神の生き餌でも、実態が通常の神使に近くなるのなら、納得するはずがないわ)
愛し子を侮辱された金剛神たちとて、その処分では不満を感じるだろう。そう思いながら花神を見ると、彼女は何かを推し量るようにアリステルを注視していた。意外なことに、その目に拒否の色はない。
『欲しいのかしら、濁縁神?』
問いかけが紡がれる。皺が寄った花から、ヒラヒラと花弁が散り落ちた。残る花びらはあと一枚。
『ヴェーゼ、遠慮は不要だ。お優しい花神様と、何なら一の兄上にもおねだりすれば良い。君が望むことならば、一の兄上は何でも叶えてくれる』
ラミルファがポンとアリステルの背に手を当てた。一瞬指を動かしたアリステルが、深海の双眸を揺らした。
『――はい』
短い肯定を返し、万花と毒花を司る二柱の女神と自らの父神を、順繰りに見る。
『この神官たちを私の神使にしたいです』
エアニーヌと慧音の目が生気を取り戻している。彼らも分かっているのだ。元聖威師であるアリステルは通常の悪神とは違い、人間寄りの存在だと。ならば、地下行きになるより彼の使役になった方がマシであることも。
『そうかそうか、可愛いお前がおねだりするならパパ頑張っちゃうぞ』
快諾した葬邪神が相好を崩し、花神に語りかけた。
『なぁ、この2匹をヴェーゼに譲ってやってくれんか? それから……通常であれば神罰牢か地下行きだが、今は聖威師たちが一時帰天している慶事の最中だ。有事が起こっても恩赦を出す神が多いだろ。それに免じて、お前も少しばかり宥恕してやるのはどうだ?』
『それもそうですわね。良いですわよ。葬邪神様に頼まれてはお断りできませんもの。悪霊への引き渡しと地下送りの要請は撤回し、この神官たちは濁縁神に譲ります。また、めでたい最中なので恩赦を出し、濁縁神が了承すれば500年後に配置替えを行うことも認めます』
「えっ?」
朗らかに受け入れた花の女神に、アマーリエは素っ頓狂な声を上げた。視界の端では、赤い花にくっ付いた最後の花びらが頼りなく垂れ下がり、今にも落ちかかっている。
(良いの? 普通の神使に近い待遇になるのよ?)
アリステルも悪神ではあるので、一般的な神と比べれば当たりが厳しいかもしれないが……それでも、通常の神官が辿る死後のコースとそれほど変わらない。減刑どころか、実質的に罰無しのようなものだ。罰という観点で考えれば、地下行きどころか地獄行きにも遠く及ばない。
『正直に言えば物足りないですが、可愛い雛神のためならば多少の不足は我慢しましょう。……既に兆候が顕れ始めていることですし』
『おお、ありがとう! 良かったなヴェーゼ、お前の玩具だぞ』
『ありがとうございます』
ふんわりとアリステルが微笑んだ。
『では、我が愛し子2匹を濁縁神に譲渡する。これでこの子たちの主神はキミだよ』
イデナウアーの宣誓が響いた瞬間、最後の花弁がハラリと落ちた。時間切れだ。
じぃっとエアニーヌたちを見つめていたアリステルが、ゆっくり首肯する。
『アリステル?』
訝しげに首を傾げたフルードが、アシュトンと顔を見合わせている。イデナウアーと毒神がおや、と呟き、葬邪神が漆黒の眼差しを我が子に注ぐ。フレイムはどこか複雑な顔をしていた。
『気に入ったならば、花神様に頼んで譲ってもらえば良い。折良く神使選定も続いているところだ、君の使役にしてしまえ。元聖威師で神使を選んだ者はまだいないから、君が第一号になれば良いのだよ』
(エアニーヌと慧音が、アリステル様の神使に?)
盲点だった。アリステルは悪神であるため、彼の神使とはすなわち生き餌だ。だが彼は元聖威師、つまり元人間でもある。人への愛着こそ薄いとはいえ、その感覚や価値観、情を理解している特異な悪神だ。数年前までは神官たちを庇護し、統率する大神官でもあった。
(それは良い方法かもしれないわ)
アリステルならば、神使に対して通常の神に近い対応をしてくれるのではないだろうか。育ての両親に対しては、正真正銘の生き餌という形で神使にすると持ちかけていたが、それは彼らが復讐対象であったためだ。神官に対しては違うかもしれない。事実、どうにかイデナウアーの生き餌から解放してやれないかと探ってくれたりもしていた。
(……いえ、駄目だわ。きっと花神様が了承されないもの)
良案だと思ったアマーリエだが、すぐに高揚を打ち消した。
(アリステル様が元人間ということは花神様もご存知のはず。形式的には悪神の生き餌でも、実態が通常の神使に近くなるのなら、納得するはずがないわ)
愛し子を侮辱された金剛神たちとて、その処分では不満を感じるだろう。そう思いながら花神を見ると、彼女は何かを推し量るようにアリステルを注視していた。意外なことに、その目に拒否の色はない。
『欲しいのかしら、濁縁神?』
問いかけが紡がれる。皺が寄った花から、ヒラヒラと花弁が散り落ちた。残る花びらはあと一枚。
『ヴェーゼ、遠慮は不要だ。お優しい花神様と、何なら一の兄上にもおねだりすれば良い。君が望むことならば、一の兄上は何でも叶えてくれる』
ラミルファがポンとアリステルの背に手を当てた。一瞬指を動かしたアリステルが、深海の双眸を揺らした。
『――はい』
短い肯定を返し、万花と毒花を司る二柱の女神と自らの父神を、順繰りに見る。
『この神官たちを私の神使にしたいです』
エアニーヌと慧音の目が生気を取り戻している。彼らも分かっているのだ。元聖威師であるアリステルは通常の悪神とは違い、人間寄りの存在だと。ならば、地下行きになるより彼の使役になった方がマシであることも。
『そうかそうか、可愛いお前がおねだりするならパパ頑張っちゃうぞ』
快諾した葬邪神が相好を崩し、花神に語りかけた。
『なぁ、この2匹をヴェーゼに譲ってやってくれんか? それから……通常であれば神罰牢か地下行きだが、今は聖威師たちが一時帰天している慶事の最中だ。有事が起こっても恩赦を出す神が多いだろ。それに免じて、お前も少しばかり宥恕してやるのはどうだ?』
『それもそうですわね。良いですわよ。葬邪神様に頼まれてはお断りできませんもの。悪霊への引き渡しと地下送りの要請は撤回し、この神官たちは濁縁神に譲ります。また、めでたい最中なので恩赦を出し、濁縁神が了承すれば500年後に配置替えを行うことも認めます』
「えっ?」
朗らかに受け入れた花の女神に、アマーリエは素っ頓狂な声を上げた。視界の端では、赤い花にくっ付いた最後の花びらが頼りなく垂れ下がり、今にも落ちかかっている。
(良いの? 普通の神使に近い待遇になるのよ?)
アリステルも悪神ではあるので、一般的な神と比べれば当たりが厳しいかもしれないが……それでも、通常の神官が辿る死後のコースとそれほど変わらない。減刑どころか、実質的に罰無しのようなものだ。罰という観点で考えれば、地下行きどころか地獄行きにも遠く及ばない。
『正直に言えば物足りないですが、可愛い雛神のためならば多少の不足は我慢しましょう。……既に兆候が顕れ始めていることですし』
『おお、ありがとう! 良かったなヴェーゼ、お前の玩具だぞ』
『ありがとうございます』
ふんわりとアリステルが微笑んだ。
『では、我が愛し子2匹を濁縁神に譲渡する。これでこの子たちの主神はキミだよ』
イデナウアーの宣誓が響いた瞬間、最後の花弁がハラリと落ちた。時間切れだ。
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