551 / 665
第7章
62.とりあえず終わった
「よ、良かった……! 先代なら悪神でもマトモよね。だって元大神官で、人間を守ってくれてたんだから」
「これで僕も神使だ。愛し子にはなれなかったけど、地下行きよりマシだよ」
エアニーヌと慧音が胸を撫で下ろしている。
「でも、このまま地上に戻ったら人間の法律で裁かれるわ。天への臨時ゲートを勝手に使ったとかの余罪で。そんなの嫌よ」
「だったら今すぐ昇天したい。先代なら元聖威師とも頻繁に会うはずだ、上手くすればお近付きになって今度こそ本物の愛し子にしてもらえるかもしれない」
(全っ然反省していないわね、あなたたち! それは余罪じゃないわよ本罪よ。というか、昇天するつもりなの? 親を助ける話はどこに行ったのよ)
神の愛し子になり、その権力で投獄されている親を解放し、家族で元通り幸せに暮らすことが目標だったはずだが……いざとなれば我が身の保身で頭が一杯になったようだ。頰を引き攣らせたアマーリエは、彼らを叱り飛ばそうと息を吸い込み――寸前で止めた。
「アリステル、様?」
妙に脱力した様子で、なりたてほやほやの神使たちを眺めている先代大神官。その瞳の奥にじわりじわりとわだかまっている、不気味な何か。全身を氷のブラシで撫でられたような悪寒が走る。
『そうか。本人がそう言うんだ、今をもって昇天したことにしよう。ただし、後でやっぱり嫌だと言っても、もう神官には戻れんがな。聖威師とその主神を含めた天の神々には、俺から経緯と結果を説明しておいてやる。神官府にも神託を下ろしておこう。アマーリエたちは何もしなくて良いぞ』
満足げな顔をした葬邪神が外套を広げ、ぼんやりしているアリステルを包んだ。
『さて、この子は少し疲れているようだ。俺の領域に連れ帰って休ませる。神使たちは呼ばれるまで待機していろ』
右腕で大事そうに我が子を抱え、左腕をぞんざいに振ると、エアニーヌと慧音の姿が消えた。
『待機用の空間に飛ばした。これからヴェーゼのためにがっつり働いてもらう。ああもちろん、俺も含めた他の悪神がつまみ食いをするつもりはない。ちゃんとヴェーゼに付かせる。その点は安心して良いぞ』
そう言われては頷く以外にない。今この瞬間をもって、彼らは神官ではなくなり、かつアリステルの所有物となった。もうアマーリエに権限はない。
「アリステル様、どうか……」
エアニーヌと慧音をよろしくお願いいたします、と言おうとしたアマーリエだが、その前に葬邪神がにっこりと笑いかけた。
『それ以上は言うな。あの2匹は良いようにしてやる。だからもう気にするな。これは聖威師全員への神命だ』
「承知いたしました……」
温厚な口調であれど、天の神から下された明確な命令だ。逆らえない。頭を下げて応じると、『ありがとう。ではな!』と告げた葬邪神は、アリステルを抱えたまま姿を消した。
『一件落着したし、私も帰るわ。話せて嬉しかったわよ』
花神も片手を挙げ、花を舞わせながらフッと虚空に溶けた。残ったのはイデナウアー、毒神、フレイム、ラミルファ、フルード、アシュトン、そしてアマーリエ。
アマーリエはおずおずとラミルファを見た。
「あの2人は……お優しいアリステル様の神使になったのですから、大丈夫、ですよね?」
フルードとアシュトンは何とも複雑な表情を浮かべていた。悲愴ではないが、それほど晴れやかな顔をしてもいない。地下行きよりずっと軽い罰に収まったというのに、何故だろうか。首をひねった時、ちょんと頰を突かれた。
『ああ、確かにヴェーゼは優しいな。だが、駄目だよアマーリエ。あの2名のことは気にするなと言われたばかりだろう。聖威師が天の神の命令に背いてはならない。今のは聞かなかったことにしてあげるから、フレイムの神域に戻ると良い』
『そうだな。行こうぜユフィー。もう終わったんだ。……ま、ちょうど良い落とし所に収まった感じだな。神々と他の聖威師への説明とかは葬邪神様がしてくれるって言うから、お前もちょっと休んだ方が良いんだぜ。魂魄浄化で消耗してるだろ』
『そうしなよ。また遊びに来てねー』
イデナウアーが両手を振る隣で、毒神が尻尾を器用に振ってバイバイと伝えている。どうやら去り時だと察したアマーリエは、二神に礼をした。そして、フレイムの手を取る。
「リーリア様たちが戻ったらきちんと話をするわ。金剛神様方にもお詫びを申し上げないと」
(とにもかくにも終わったのよね)
まさかアリステルの神使になるという結果での幕引きになるとは、想定外だ。だが、更生施設の職員も左遷先の分府の神官もエアニーヌたちを持て余していたというから、この形での決着を歓迎しそうではある。
そんなことを考えながら、差し当たってひと騒動が終わったと、アマーリエは息を吐き出した。
「これで僕も神使だ。愛し子にはなれなかったけど、地下行きよりマシだよ」
エアニーヌと慧音が胸を撫で下ろしている。
「でも、このまま地上に戻ったら人間の法律で裁かれるわ。天への臨時ゲートを勝手に使ったとかの余罪で。そんなの嫌よ」
「だったら今すぐ昇天したい。先代なら元聖威師とも頻繁に会うはずだ、上手くすればお近付きになって今度こそ本物の愛し子にしてもらえるかもしれない」
(全っ然反省していないわね、あなたたち! それは余罪じゃないわよ本罪よ。というか、昇天するつもりなの? 親を助ける話はどこに行ったのよ)
神の愛し子になり、その権力で投獄されている親を解放し、家族で元通り幸せに暮らすことが目標だったはずだが……いざとなれば我が身の保身で頭が一杯になったようだ。頰を引き攣らせたアマーリエは、彼らを叱り飛ばそうと息を吸い込み――寸前で止めた。
「アリステル、様?」
妙に脱力した様子で、なりたてほやほやの神使たちを眺めている先代大神官。その瞳の奥にじわりじわりとわだかまっている、不気味な何か。全身を氷のブラシで撫でられたような悪寒が走る。
『そうか。本人がそう言うんだ、今をもって昇天したことにしよう。ただし、後でやっぱり嫌だと言っても、もう神官には戻れんがな。聖威師とその主神を含めた天の神々には、俺から経緯と結果を説明しておいてやる。神官府にも神託を下ろしておこう。アマーリエたちは何もしなくて良いぞ』
満足げな顔をした葬邪神が外套を広げ、ぼんやりしているアリステルを包んだ。
『さて、この子は少し疲れているようだ。俺の領域に連れ帰って休ませる。神使たちは呼ばれるまで待機していろ』
右腕で大事そうに我が子を抱え、左腕をぞんざいに振ると、エアニーヌと慧音の姿が消えた。
『待機用の空間に飛ばした。これからヴェーゼのためにがっつり働いてもらう。ああもちろん、俺も含めた他の悪神がつまみ食いをするつもりはない。ちゃんとヴェーゼに付かせる。その点は安心して良いぞ』
そう言われては頷く以外にない。今この瞬間をもって、彼らは神官ではなくなり、かつアリステルの所有物となった。もうアマーリエに権限はない。
「アリステル様、どうか……」
エアニーヌと慧音をよろしくお願いいたします、と言おうとしたアマーリエだが、その前に葬邪神がにっこりと笑いかけた。
『それ以上は言うな。あの2匹は良いようにしてやる。だからもう気にするな。これは聖威師全員への神命だ』
「承知いたしました……」
温厚な口調であれど、天の神から下された明確な命令だ。逆らえない。頭を下げて応じると、『ありがとう。ではな!』と告げた葬邪神は、アリステルを抱えたまま姿を消した。
『一件落着したし、私も帰るわ。話せて嬉しかったわよ』
花神も片手を挙げ、花を舞わせながらフッと虚空に溶けた。残ったのはイデナウアー、毒神、フレイム、ラミルファ、フルード、アシュトン、そしてアマーリエ。
アマーリエはおずおずとラミルファを見た。
「あの2人は……お優しいアリステル様の神使になったのですから、大丈夫、ですよね?」
フルードとアシュトンは何とも複雑な表情を浮かべていた。悲愴ではないが、それほど晴れやかな顔をしてもいない。地下行きよりずっと軽い罰に収まったというのに、何故だろうか。首をひねった時、ちょんと頰を突かれた。
『ああ、確かにヴェーゼは優しいな。だが、駄目だよアマーリエ。あの2名のことは気にするなと言われたばかりだろう。聖威師が天の神の命令に背いてはならない。今のは聞かなかったことにしてあげるから、フレイムの神域に戻ると良い』
『そうだな。行こうぜユフィー。もう終わったんだ。……ま、ちょうど良い落とし所に収まった感じだな。神々と他の聖威師への説明とかは葬邪神様がしてくれるって言うから、お前もちょっと休んだ方が良いんだぜ。魂魄浄化で消耗してるだろ』
『そうしなよ。また遊びに来てねー』
イデナウアーが両手を振る隣で、毒神が尻尾を器用に振ってバイバイと伝えている。どうやら去り時だと察したアマーリエは、二神に礼をした。そして、フレイムの手を取る。
「リーリア様たちが戻ったらきちんと話をするわ。金剛神様方にもお詫びを申し上げないと」
(とにもかくにも終わったのよね)
まさかアリステルの神使になるという結果での幕引きになるとは、想定外だ。だが、更生施設の職員も左遷先の分府の神官もエアニーヌたちを持て余していたというから、この形での決着を歓迎しそうではある。
そんなことを考えながら、差し当たってひと騒動が終わったと、アマーリエは息を吐き出した。
あなたにおすすめの小説
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~
キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。
両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。
ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。
全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。
エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。
ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。
こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。
双子の姉に聴覚を奪われました。
浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』
双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。
さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。
三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
【完結】身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート
転生したら魔王のパートナーだったので、悪役令嬢にはなりません。
Y.ひまわり
恋愛
ある日、私は殺された。
歩道橋から突き落とされた瞬間、誰かによって手が差し伸べられる。
気づいたら、そこは異世界。これは、私が読んでいた小説の中だ。
私が転生したのは、悪役令嬢ベアトリーチェだった。
しかも、私が魔王を復活させる鍵らしい。
いやいや、私は悪役令嬢になるつもりはありませんからね!
悪役令嬢にならないように必死で努力するが、宮廷魔術師と組んだヒロイン聖女に色々と邪魔されて……。
魔王を倒すために、召喚された勇者はなんと転生前の私と関わりの深い人物だった。
やがて、どんどん気になってくる魔王の存在。前世に彼と私はどんな関係にあったのか。
そして、鍵とはいったいーー。
※毎日6時と20時に更新予定。全114話(番外編含む)
★小説家になろうでも掲載しています。