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第1章
79.大神官の後片付け①
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◆◆◆
紅蓮と紅葉。二色の焔が空高くに飛翔し、消える。ラモスとディモスも一礼してサード邸に戻った。それらを見送り、フルードは紅日皇后を振り返った。
「皇后様。本日はお助けいただき、改めてお礼申し上げます」
『いいよいいよ、気にしないで~』
皇后はコロコロと笑ったが、ふと真面目な表情になって言う。
『ねえフルード君……ごめんね、焔神のこと伝えてなくて。焔神とは先日、この鳥を通じて話したんだけど、神格を抑制してて明らかにお忍びな感じだった。天が動いてるなら、私は下手に介入しない方がいいと思ったの。焔神は時機を見て必ずフルード君に接触するはずだから、それを待てばいいかなって。……ごめんね』
「どうか謝罪などなされませんよう。もちろん分かっております。あなたは意地悪で秘密にされる方ではない」
フルードが一切の恨みない眼差しで微笑んだ。
『ありがとう。焔神と会えて良かったね』
「ええ……焔神様は火神様から密命を受けたと仰っていました。火神様の使いに相応しい者がいないか探して来るようにとの指示だったのでしょう。そしてアマーリエの霊獣が選ばれた。これにより、神使選定は次の段階に進む」
今後のことを思案するように、穏やかな碧眼が揺らぐ。
『だろうねー。神々が自分の神使に相応しい霊威師を選び出すという題目で、天の使役たちは神官を選定していた。だから今までは、神使に選ばれるのは人間の霊威師で神官だっていう認識だった。……だけど、焔神の選定と火神の承諾が、それを覆した』
霊威師の動物版である霊獣も選ばれ得るのだという前例を作ったのだ。霊獣も広い意味では霊威師に含まれる上、神と交信し神意を受け取れる存在という意味では神官にも該当する。なので、よく考えればおかしなことではないが、それでも発想としては目から鱗だ。天から視ている神々と使役たちも、その手があったかと拳を打っているかもしれない。
『焔神は下働きの精霊から最高峰の高位神にまで上り詰めた異色の神だから、何ていうのかな、ものの見方や考え方が普通の神とは違うんだよね。柔軟ていうか、臨機応変ていうか。弱い立場にある者の痛みや心にも寄り添うし。珍しいよ、ああいう神は』
「本当にそう思います」
しみじみと言った皇后に、何かを思い出すような眼差しをしたフルードが頷いた。
「今回の選定により、人間以外も神使に見出されることが判明しました。天から遣わされる他の使役たちも、今後はそれを念頭に置くでしょう」
現在は一時的に退いている使役たちだが、邪神の騒動がひと段落したので選定を再開するだろう。
「加えて、中央本府にはもはや適正者は無しと判断すれば、地方の分府や属国の神官府にも選定の範囲を広げていくかと」
世界中に点在する神官府の中で、帝国と皇国の都にある中央本府は別格だ。神使選定をするならばまずはここからである。しかしその一方で、地方や属国の神官府にも埋もれている逸材がいるかもしれない。
『そうだね。世界各地の神官府に連絡して準備を整えてもらって……それに、霊獣狩りとかが行われないようにもしないと。人間以外も神使に選ばれるって分かったら、暴走する人とか出そう』
「既に聖威師たちが動いています。各国の神官や王、大臣たちに報告し、特例法の緊急発令なども踏まえて対応を要請します。むしろ、焔神様がこのタイミングで霊獣を選んで下さって良かったかと」
一般の神官がおらず――シュードンは別として――、かつ大神官が立ち会っている場で前例を作ってくれたので、大騒ぎになる前に先回りして動くことができた。こちらが先手を取れるタイミングで霊獣が選び出されたのは僥倖だったのだろう。
「近々、焔神様とお話しすることになると思いますので、お礼を申し上げるつもりです」
皇后は優しい眼差しで淡く微笑み、静かに続ける。
『うん、分かった。その時はきっと、今回の件以外にも色々な話題が出ると思うけど……フルード君は自分の意思を貫いて。自分が望む選択肢を奪われない方法を、私と義兄様はあなたに伝えてる。だから大丈夫だよ、焔神は、最後はどこまでもフルード君の味方だもの』
「はい、皇后様」
穏やかな静けさを湛えた碧眼が、皇后の漆黒の瞳を見つめる。
「それでは皇后様、お時間を頂戴してしまい申し訳ございませんでした。お見送りいたします。私は少しこちらの後片付けをしてから避難場所に合流します」
『後片付け?』
「焔神様と邪神様の神威の残滓がありますし、神官が持っていた通信霊具が分離してこの場一体と癒着してしまっています。正常化した神器もまだ転がったままですし、早めに対処しておいた方がいいでしょう」
『あー、なるほど~。じゃあ神器を使うよね。ねえ、狼と焔、どっちを使うの?』
紅蓮と紅葉。二色の焔が空高くに飛翔し、消える。ラモスとディモスも一礼してサード邸に戻った。それらを見送り、フルードは紅日皇后を振り返った。
「皇后様。本日はお助けいただき、改めてお礼申し上げます」
『いいよいいよ、気にしないで~』
皇后はコロコロと笑ったが、ふと真面目な表情になって言う。
『ねえフルード君……ごめんね、焔神のこと伝えてなくて。焔神とは先日、この鳥を通じて話したんだけど、神格を抑制してて明らかにお忍びな感じだった。天が動いてるなら、私は下手に介入しない方がいいと思ったの。焔神は時機を見て必ずフルード君に接触するはずだから、それを待てばいいかなって。……ごめんね』
「どうか謝罪などなされませんよう。もちろん分かっております。あなたは意地悪で秘密にされる方ではない」
フルードが一切の恨みない眼差しで微笑んだ。
『ありがとう。焔神と会えて良かったね』
「ええ……焔神様は火神様から密命を受けたと仰っていました。火神様の使いに相応しい者がいないか探して来るようにとの指示だったのでしょう。そしてアマーリエの霊獣が選ばれた。これにより、神使選定は次の段階に進む」
今後のことを思案するように、穏やかな碧眼が揺らぐ。
『だろうねー。神々が自分の神使に相応しい霊威師を選び出すという題目で、天の使役たちは神官を選定していた。だから今までは、神使に選ばれるのは人間の霊威師で神官だっていう認識だった。……だけど、焔神の選定と火神の承諾が、それを覆した』
霊威師の動物版である霊獣も選ばれ得るのだという前例を作ったのだ。霊獣も広い意味では霊威師に含まれる上、神と交信し神意を受け取れる存在という意味では神官にも該当する。なので、よく考えればおかしなことではないが、それでも発想としては目から鱗だ。天から視ている神々と使役たちも、その手があったかと拳を打っているかもしれない。
『焔神は下働きの精霊から最高峰の高位神にまで上り詰めた異色の神だから、何ていうのかな、ものの見方や考え方が普通の神とは違うんだよね。柔軟ていうか、臨機応変ていうか。弱い立場にある者の痛みや心にも寄り添うし。珍しいよ、ああいう神は』
「本当にそう思います」
しみじみと言った皇后に、何かを思い出すような眼差しをしたフルードが頷いた。
「今回の選定により、人間以外も神使に見出されることが判明しました。天から遣わされる他の使役たちも、今後はそれを念頭に置くでしょう」
現在は一時的に退いている使役たちだが、邪神の騒動がひと段落したので選定を再開するだろう。
「加えて、中央本府にはもはや適正者は無しと判断すれば、地方の分府や属国の神官府にも選定の範囲を広げていくかと」
世界中に点在する神官府の中で、帝国と皇国の都にある中央本府は別格だ。神使選定をするならばまずはここからである。しかしその一方で、地方や属国の神官府にも埋もれている逸材がいるかもしれない。
『そうだね。世界各地の神官府に連絡して準備を整えてもらって……それに、霊獣狩りとかが行われないようにもしないと。人間以外も神使に選ばれるって分かったら、暴走する人とか出そう』
「既に聖威師たちが動いています。各国の神官や王、大臣たちに報告し、特例法の緊急発令なども踏まえて対応を要請します。むしろ、焔神様がこのタイミングで霊獣を選んで下さって良かったかと」
一般の神官がおらず――シュードンは別として――、かつ大神官が立ち会っている場で前例を作ってくれたので、大騒ぎになる前に先回りして動くことができた。こちらが先手を取れるタイミングで霊獣が選び出されたのは僥倖だったのだろう。
「近々、焔神様とお話しすることになると思いますので、お礼を申し上げるつもりです」
皇后は優しい眼差しで淡く微笑み、静かに続ける。
『うん、分かった。その時はきっと、今回の件以外にも色々な話題が出ると思うけど……フルード君は自分の意思を貫いて。自分が望む選択肢を奪われない方法を、私と義兄様はあなたに伝えてる。だから大丈夫だよ、焔神は、最後はどこまでもフルード君の味方だもの』
「はい、皇后様」
穏やかな静けさを湛えた碧眼が、皇后の漆黒の瞳を見つめる。
「それでは皇后様、お時間を頂戴してしまい申し訳ございませんでした。お見送りいたします。私は少しこちらの後片付けをしてから避難場所に合流します」
『後片付け?』
「焔神様と邪神様の神威の残滓がありますし、神官が持っていた通信霊具が分離してこの場一体と癒着してしまっています。正常化した神器もまだ転がったままですし、早めに対処しておいた方がいいでしょう」
『あー、なるほど~。じゃあ神器を使うよね。ねえ、狼と焔、どっちを使うの?』
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