神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

文字の大きさ
79 / 608
第1章

79.大神官の後片付け①

しおりを挟む
 ◆◆◆

 紅蓮と紅葉。二色の焔が空高くに飛翔し、消える。ラモスとディモスも一礼してサード邸に戻った。それらを見送り、フルードは紅日皇后を振り返った。

「皇后様。本日はお助けいただき、改めてお礼申し上げます」
『いいよいいよ、気にしないで~』

 皇后はコロコロと笑ったが、ふと真面目な表情になって言う。

『ねえフルード君……ごめんね、焔神のこと伝えてなくて。焔神とは先日、この鳥を通じて話したんだけど、神格を抑制してて明らかにお忍びな感じだった。天が動いてるなら、私は下手に介入しない方がいいと思ったの。焔神は時機を見て必ずフルード君に接触するはずだから、それを待てばいいかなって。……ごめんね』
「どうか謝罪などなされませんよう。もちろん分かっております。あなたは意地悪で秘密にされる方ではない」

 フルードが一切の恨みない眼差しで微笑んだ。

『ありがとう。焔神と会えて良かったね』
「ええ……焔神様は火神様から密命を受けたと仰っていました。火神様の使いに相応しい者がいないか探して来るようにとの指示だったのでしょう。そしてアマーリエの霊獣が選ばれた。これにより、神使選定は次の段階に進む」

 今後のことを思案するように、穏やかな碧眼が揺らぐ。

『だろうねー。神々が自分の神使に相応しい霊威師を選び出すという題目で、天の使役たちは神官を選定していた。だから今までは、神使に選ばれるのは人間の霊威師で神官だっていう認識だった。……だけど、焔神の選定と火神の承諾が、それを覆した』

 霊威師の動物版である霊獣も選ばれ得るのだという前例を作ったのだ。霊獣も広い意味では霊威師に含まれる上、神と交信し神意を受け取れる存在という意味では神官にも該当する。なので、よく考えればおかしなことではないが、それでも発想としては目から鱗だ。天から視ている神々と使役たちも、その手があったかと拳を打っているかもしれない。

『焔神は下働きの精霊から最高峰の高位神にまで上り詰めた異色の神だから、何ていうのかな、ものの見方や考え方が普通の神とは違うんだよね。柔軟ていうか、臨機応変ていうか。弱い立場にある者の痛みや心にも寄り添うし。珍しいよ、ああいう神は』
「本当にそう思います」

 しみじみと言った皇后に、何かを思い出すような眼差しをしたフルードが頷いた。

「今回の選定により、人間以外も神使に見出されることが判明しました。天から遣わされる他の使役たちも、今後はそれを念頭に置くでしょう」

 現在は一時的に退いている使役たちだが、邪神の騒動がひと段落したので選定を再開するだろう。

「加えて、中央本府にはもはや適正者は無しと判断すれば、地方の分府や属国の神官府にも選定の範囲を広げていくかと」

 世界中に点在する神官府の中で、帝国と皇国の都にある中央本府は別格だ。神使選定をするならばまずはここからである。しかしその一方で、地方や属国の神官府にも埋もれている逸材がいるかもしれない。

『そうだね。世界各地の神官府に連絡して準備を整えてもらって……それに、霊獣狩りとかが行われないようにもしないと。人間以外も神使に選ばれるって分かったら、暴走する人とか出そう』
「既に聖威師たちが動いています。各国の神官や王、大臣たちに報告し、特例法の緊急発令なども踏まえて対応を要請します。むしろ、焔神様がこのタイミングで霊獣を選んで下さって良かったかと」

 一般の神官がおらず――シュードンは別として――、かつ大神官が立ち会っている場で前例を作ってくれたので、大騒ぎになる前に先回りして動くことができた。こちらが先手を取れるタイミングで霊獣が選び出されたのは僥倖ぎょうこうだったのだろう。

「近々、焔神様とお話しすることになると思いますので、お礼を申し上げるつもりです」

 皇后は優しい眼差しで淡く微笑み、静かに続ける。

『うん、分かった。その時はきっと、今回の件以外にも色々な話題が出ると思うけど……フルード君は自分の意思を貫いて。自分が望む選択肢を奪われない方法を、私と義兄様はあなたに伝えてる。だから大丈夫だよ、
「はい、皇后様」

 穏やかな静けさを湛えた碧眼が、皇后の漆黒の瞳を見つめる。

「それでは皇后様、お時間を頂戴してしまい申し訳ございませんでした。お見送りいたします。私は少しこちらの後片付けをしてから避難場所に合流します」
『後片付け?』
「焔神様と邪神様の神威の残滓がありますし、神官が持っていた通信霊具が分離してこの場一体と癒着してしまっています。正常化した神器もまだ転がったままですし、早めに対処しておいた方がいいでしょう」
『あー、なるほど~。じゃあ神器を使うよね。ねえ、使?』
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

厄介払いされてしまいました

たくわん
恋愛
侯爵家の次女エリアーナは、美人の姉ロザリンドと比べられ続け、十八年間冷遇されてきた。 十八歳の誕生日、父から告げられたのは「辺境の老伯爵に嫁げ」という厄介払いの命令。 しかし、絶望しながらも辺境へ向かったエリアーナを待っていたのは――。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

婚約破棄されましたが、お兄様がいるので大丈夫です

榎夜
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 あらまぁ...別に良いんですよ だって、貴方と婚約なんてしたくなかったですし。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

◆◆お別れなので「王位継承セット」をプレゼントしたら、妹カップルが玉座を手に入れました。きっと喜んでくれてますよね◆◆

ささい
恋愛
ん?おでかけ楽しみ? そうだね。うちの国は楽しいと思うよ。 君が練ってた棒はないけど。 魔術に棒は要らない。素手で十分? はは、さすがだね。 なのに棒を量産したいの? 棒を作るのは楽しいんだ。 そっか、いいよ。たくさん作って。飾ってもいいね。君の魔力は綺麗だし。 騎士団に渡して使わせるのも楽しそうだね。 使い方教えてくれるの? 向上心がある人が好き? うん、僕もがんばらないとね。 そういえば、王冠に『民の声ラジオ24h』みたいな機能つけてたよね。 ラジオ。遠く離れた場所にいる人の声を届けてくれる箱だよ。 そう、あれはなんで? 民の声を聞く素敵な王様になってほしいから? なるほど。素晴らしい機能だね。 僕? 僕には必要ないよ。心配してくれてありがとう。 君の祖国が素晴らしい国になるといいね。 ※他サイトにも掲載しております。

処理中です...