68 / 603
第1章
68.聖威師の務め②
しおりを挟む
「ええっ!?」
思いもよらない言葉に、アマーリエは及び腰になった。
「わ、私がですか!? ……も、もちろん神官として尽力はいたしますが、私にはとても……」
この場にはまだ気の揺らぎが残っているため、複雑な能力はしばらく使えないという話だったはずだ。フルードのような熟練神官であれば話は違うのだろうが、アマーリエはまだ未熟。神器を対象とした最高難度の正常化などできる自信が無かった。
「細かい制御はできずとも、的に向かって正常化の力を打ち出せれば十分です。一緒にやってみましょう。いきなりのことで戸惑うとは思いますが、これも聖威師の役目の一つですから」
「聖威師の?」
(そういえば、神官府の講義で習った気がするわ。神器が暴発してどうにもできない時は、聖威師が何とかしてくれるとか)
慌てて記憶をさらい返すものの、立て続けに色々なことが起こりすぎたため、いい加減思考が飽和状態になりかかっている。アマーリエの顔色を見て取ったフルードが微笑んだ。
「転送完了までにはもう少し猶予がありそうですから、簡単に説明しておきます」
転送の光を一瞥して状況を確認し、すぐにこちらへと視線を戻す。
「例えばですが、今回のように神器が暴走し、なおかつ霊威師では鎮火できない場合。また、神器が妖魔や邪霊などに取り込まれ、神ではない存在が神の力を得てしまった場合。あるいは、甚大な天変地異が起こり地上に大損害が出る場合。今のは一例ですが、こういった事態には、主に聖威師が対処します」
「はい……」
深刻な災害時に聖威師が出動して現地を救ったという報は、アマーリエも幾度か耳にしたことがある。機関紙や歴史書などの情報源にはあまり触れさせてもらえなかったので、うろ覚えだが。
「神が関わっていないところで勝手に暴走した神器や、神ではない邪霊などの騒動、神罰ではない自然発生的な天変地異などに対しては、天威師は動きませんし動けません。神が関与していないからです。ですから、聖威師が担当するのです」
天威師、聖威師、霊威師にはそれぞれの役目と領分、そして制約などの決まり事があるのだと、フルードは述べた。それらは範囲の一部が被っていることもあれば、厳重に線引きされた専任業務もある。ただ一つ言えるのは、聖威師には聖威師の務めと在り方があるということだ。
「聖威師は、人間が後天的に神になった存在。だからこそ、本来は人間として生きるはずだった時間を地上に留まって過ごすこと、その期間は人間のように生きることを許されています……非常に多くの制限と条件付きではありますが」
最後はほろ苦さを滲ませた声だった。課せられている膨大な制約のせいで、実力的には可能なことが行えず、涙を呑む場合も多いという。今もきっとそうだ。制限なしで聖威を使えれば、通信霊具の不調だろうが神器の転送や暴走だろうが、力技で即解決できている。
「私は大神官として神官府の頂にいますが、これは天威師が国の皇帝として立っているようなものです。皇帝とは別に、国政を行う国王がいるように、神官府にも国王に相当する主任神官がいます」
霊威師の最高位は、帝国または皇国の主任神官である。聖威師は就任できず、必ず人間がその役に就く。神である聖威師が関与できない部分は、主任神官が統括することになっているからだ。
「それでも、聖威師は天威師に比べれば、人の世に干渉できる範囲が広いのです。神が関わっていないことにもある程度は対応できますから」
とはいえ、十重二十重の制約と決められた範囲は厳然とあり、規定線を越えれば容赦なく天に強制送還だ。その点は天威師と同じである。
「なお、ご存知と思いますが、時間操作や空間操作は周囲に与える影響が大きいため、使用可能な範囲が国法で制限されています。ですから今回の神器も、現段階では時間を止めたり隔離空間を作って対応することはしません」
天威師と聖威師は超法規的な存在なので、緊急時は国の法律を超えた行動が認められる。しかし、それでも可能な限りは規律を遵守する決まりになっているのだという。加えて、天が定めた聖威師の制約の中でも、時空操作の能力は大幅に制限されているため、その点からも使用が難しいそうだ。
そこまで話し、フルードは斎場の一点を見た。転送されつつある神器が、光の中でうっすらとその全容を現しつつあった。
「もうすぐ神器が転送されます。今はここまでにしましょう。他の説明は時期を見てしていきます。……それで、神器への対処ですが。先ほども言いましたが、あなたが最後の仕上げをしてくれますか、アマーリエ」
思いもよらない言葉に、アマーリエは及び腰になった。
「わ、私がですか!? ……も、もちろん神官として尽力はいたしますが、私にはとても……」
この場にはまだ気の揺らぎが残っているため、複雑な能力はしばらく使えないという話だったはずだ。フルードのような熟練神官であれば話は違うのだろうが、アマーリエはまだ未熟。神器を対象とした最高難度の正常化などできる自信が無かった。
「細かい制御はできずとも、的に向かって正常化の力を打ち出せれば十分です。一緒にやってみましょう。いきなりのことで戸惑うとは思いますが、これも聖威師の役目の一つですから」
「聖威師の?」
(そういえば、神官府の講義で習った気がするわ。神器が暴発してどうにもできない時は、聖威師が何とかしてくれるとか)
慌てて記憶をさらい返すものの、立て続けに色々なことが起こりすぎたため、いい加減思考が飽和状態になりかかっている。アマーリエの顔色を見て取ったフルードが微笑んだ。
「転送完了までにはもう少し猶予がありそうですから、簡単に説明しておきます」
転送の光を一瞥して状況を確認し、すぐにこちらへと視線を戻す。
「例えばですが、今回のように神器が暴走し、なおかつ霊威師では鎮火できない場合。また、神器が妖魔や邪霊などに取り込まれ、神ではない存在が神の力を得てしまった場合。あるいは、甚大な天変地異が起こり地上に大損害が出る場合。今のは一例ですが、こういった事態には、主に聖威師が対処します」
「はい……」
深刻な災害時に聖威師が出動して現地を救ったという報は、アマーリエも幾度か耳にしたことがある。機関紙や歴史書などの情報源にはあまり触れさせてもらえなかったので、うろ覚えだが。
「神が関わっていないところで勝手に暴走した神器や、神ではない邪霊などの騒動、神罰ではない自然発生的な天変地異などに対しては、天威師は動きませんし動けません。神が関与していないからです。ですから、聖威師が担当するのです」
天威師、聖威師、霊威師にはそれぞれの役目と領分、そして制約などの決まり事があるのだと、フルードは述べた。それらは範囲の一部が被っていることもあれば、厳重に線引きされた専任業務もある。ただ一つ言えるのは、聖威師には聖威師の務めと在り方があるということだ。
「聖威師は、人間が後天的に神になった存在。だからこそ、本来は人間として生きるはずだった時間を地上に留まって過ごすこと、その期間は人間のように生きることを許されています……非常に多くの制限と条件付きではありますが」
最後はほろ苦さを滲ませた声だった。課せられている膨大な制約のせいで、実力的には可能なことが行えず、涙を呑む場合も多いという。今もきっとそうだ。制限なしで聖威を使えれば、通信霊具の不調だろうが神器の転送や暴走だろうが、力技で即解決できている。
「私は大神官として神官府の頂にいますが、これは天威師が国の皇帝として立っているようなものです。皇帝とは別に、国政を行う国王がいるように、神官府にも国王に相当する主任神官がいます」
霊威師の最高位は、帝国または皇国の主任神官である。聖威師は就任できず、必ず人間がその役に就く。神である聖威師が関与できない部分は、主任神官が統括することになっているからだ。
「それでも、聖威師は天威師に比べれば、人の世に干渉できる範囲が広いのです。神が関わっていないことにもある程度は対応できますから」
とはいえ、十重二十重の制約と決められた範囲は厳然とあり、規定線を越えれば容赦なく天に強制送還だ。その点は天威師と同じである。
「なお、ご存知と思いますが、時間操作や空間操作は周囲に与える影響が大きいため、使用可能な範囲が国法で制限されています。ですから今回の神器も、現段階では時間を止めたり隔離空間を作って対応することはしません」
天威師と聖威師は超法規的な存在なので、緊急時は国の法律を超えた行動が認められる。しかし、それでも可能な限りは規律を遵守する決まりになっているのだという。加えて、天が定めた聖威師の制約の中でも、時空操作の能力は大幅に制限されているため、その点からも使用が難しいそうだ。
そこまで話し、フルードは斎場の一点を見た。転送されつつある神器が、光の中でうっすらとその全容を現しつつあった。
「もうすぐ神器が転送されます。今はここまでにしましょう。他の説明は時期を見てしていきます。……それで、神器への対処ですが。先ほども言いましたが、あなたが最後の仕上げをしてくれますか、アマーリエ」
53
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる