神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第2章

30.夢の終わりまであと少し

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(一応、鎮静化しながらフルード様にも念話して、了承をいただいてから機能修正したけれど……)

 通常、創り手の神の承諾も得ず、勝手に神器の権能を書き換えることはない。だが、創生神が神器に関する権利を放棄していれば話は別だ。その場合、承諾無しで自由に上書きすることができる。

「日常生活にも役立つ膨大な熱源を、神器を経由して取り出せるようにしたのだな。火山の動力を定期的に吸収してしまうならば、仮にまた神器が壊れたとしても、今回のように即噴火にはならぬであろう。良き判断であったと思う」
「やるねぇ。アマーリエはメキメキ実力を付けてるって高嶺が褒めてたけど、本当だ。目覚ましい成長具合だよ」

 黇死皇が頷き、紺月帝が口笛を吹いて賛辞を述べた。アマーリエはホッと胸を撫で下ろす。どうやら悪手ではなかったらしい。

「とにかく来てくれて助かったよ、アマーリエ。あ、もう神官府に戻るよね。せっかくだから送るよぉ。そーれ」

 虹色を帯びた紺色の天威が放たれる。次の瞬間、アマーリエは神官府にある自室に転移させられていた。

「…………」

 数回瞬きしたアマーリエは、ヘナヘナとソファに腰掛ける。

「つ、疲れたわ……」

 このまま眠ってしまいたいが、まだ本日の勤務は始まったばかりだ。今の件の報告もしなければならない。

「後でフレイムに絶品スイーツを作ってもらうのよ」

 小さな声でそうひとりごち、自分を励ました。

 ◆◆◆

 ……などというアマーリエの状況など知らず、オーブリーは呆気にとられて立ち尽くしていた。

「それじゃあ俺たちも戻ろうか、秀峰兄上。……にしても、重要な神器に別の神器をぶつけて破壊する輩が現れたせいで、大迷惑を受けた」

 紺月帝の表情と声音から、親しみと柔らかさが消失した。ギロリと見開いた双眸が、オーブリーたちがいる方角を睨む。夜空を写したような濃青の瞳に、刹那、赤い色が散って消えた。
 帝家の者は、憤怒や激情にかられると碧眼が赤く染まる特性を持つらしい。基本的には一過性のもので、感情が鎮まれば青に戻る――通常は。

「あ、いえ、あれは事故で……」

 父が声を裏返して弁明する。だが、紺月帝はふいと顔を逸らした。

「兄上、行こう」
「ああ」
「良かった、星降の儀の時みたいにまた助けようとするかと思った」
「あの時は、行き着く末路が悪神の生き餌や神罰牢であったゆえに、憐れに思い動いた。だが、此度はそこまでの重罰ではないようだ。ならば私が干渉することはない」

 黇死皇は一度だけこちらを見遣ると、静かに言い放った。

「そなたらもく戻るが良い。此度こたびの件で罰しはしない。……我らが罰する間でもなく、そなたらは今宵、己が行くべき道へ進むであろう」

 その瞳の奥に、微かな憐憫の情が垣間見えたように思ったのは、きっと気のせいだろう。

 そして、二柱の皇帝は幻のように姿を消した。

 ◆◆◆

「朝に見たアマーリエは美しかった。あのような魅力を持つ娘だったとは。皇帝様方も、何と神秘的なお姿であられたことか」

 今朝方の回想から帰還し、オーブリーは陶酔した表情で呟いた。

「聖威師になれば、皇帝様とお話をすることもできるのだな」

 なお、自分たちが何の処罰もされないどころかお咎めすら受けなかったのは当然だと、父は息巻いていた。こちらには聖威師であるオーブリーがいるのだから、と。

『お前は今日の認証で認められ、夜には世界中で祝砲が鳴り響いているはずだ。輝かしい栄華の中に飛び込むのだ。今宵行くべき道へ進むとは、そういうことに違いない』

 何の疑いもなく喜ぶ父の言葉を聞いた時、胸の奥に不安がよぎった。

 アマーリエを同族と呼び、身内と認識して親しげに微笑みかけていた天威師たち。聖威師は皇帝にすら通ずる存在なのだ。だが、同じく聖威師であるはずのオーブリーへの態度は――

(認証さえ上手くいっていれば)

 正式に聖威師と認定されれば、皇帝たちも次からは態度を変えてくれると思っていた。
 自分やリーリアから聖威のようなものを感じられずとも、認証で認められさえすれば、内に宿った力が表に出ると信じていた。

 なのに、その認証で躓いた。

 グラスに注いだ赤ワインを眺めていると、同じ髪色を持つ焔神を思い出す。

(何故、焔神様は俺を無視なされたのだ)

 イライラと指で机を叩いていると、神威が凝った。空間が揺れ、人影が現れる。

「主神様!」

 自分を見初めて下さった神の訪いに、オーブリーは目を輝かせた。

「来て下さったのですね。お助け下さい主神様、本日の認証が上手くいかなかったのです」

 縋るように訴えるオーブリーに、主神は目を細めてニィと笑う。
 浮かんでいたのは、今まで向けてくれていた慈愛に満ちた微笑とはかけ離れた、侮蔑と嘲笑の眼差しだった。
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