神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘

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第3章

16.滞留書の異変

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 ◆◆◆

《正気を失った魔物がアマーリエの邸に侵入し、悪神の援護を受けて襲いかかって来た、か》

 アシュトンが呟く。現在、彼女とリーリア、フレイムに念話を繋ぎ、緊急の報告会を行なっている。フルードは折り悪く所用中らしく、不参加だ。悪神であるラミルファとアリステルにも話をしたかったが、フルードと共にいるため、今少しの間は連絡が取れないらしい。

《アマーリエに怪我はなかったのか?》
《ご無事なのですわね?》

 アシュトンとリーリアが、そろって心配げな声を発した。

《ええ、大丈夫です。フレイムが来てくれましたから》

 なるべく明るく返し、アマーリエは手に握ったいびつな棒を見る。あの魔物から切り取った角だ。

《亡骸は消えてしまいましたが、角は事前に採取して聖威で保管していたので、残っています。解析すれば何か掴めるかもしれません》
《ありがとう。私も共に調べる》
《ですが、どういうことなのでしょうか? 魔物の陰に神がいるならば、神が聖威師を襲ったということですの?》

 同胞をとことん大切にする神が、荒神化したわけでもないのに身内を害するなど有り得ない。

《うっすらと感じた雰囲気では、襲うというよりも、面白がっているような気がしました。ただ純粋に愉しんで……遊んでいると言いますか》

 眉間にシワを寄せたフレイムが、淡々と言う。

《手加減はしてただろうよ。高位神がその気だったら、神威どころか神格自体を抑えてる聖威師なんざ瞬殺できるはずだからな。だが、一体どの神が何の目的で――》
《大変です!》

 念話網に割り込む形で、悲鳴に近い声が響いた。フルードだ。普段の平静さをかなぐり捨てた、余裕のない気配。

《どうした、セイン?》

 言葉を止められたことには一切怒らず、フレイムが問いかけた。まるで小さな子どもを落ち着かせるかのような、優しく穏やかな声音。相変わらず弟には激甘だ。

!》

 念話が回路ごと沈黙した。

《……な、何故!?》

 一拍後、事態を把握したアシュトンが聞き返す。こちらも悲鳴のような声だ。

《あの、アシュトン様。滞留書たいりゅうしょとは何ですの?》

 リーリアが遠慮がちに口を挟む。

《そうか、説明しなくてはな。――滞留書とは、聖威師が地上にいるために必須のものだ。神は天界に在るのが原則だが、元人間である聖威師は特例で、人として持っていた寿命が来るまで地上にいることが許される》

 ただし地上のことにはあまり関われない上、神威だけでなく神格自体をも抑制しなければならないなど多種多様な条件は課されるが、と補足し、アシュトンは説明を続けた。

《しかし、聖威師というだけで何もせず特例が適用されるのではない。天が作成した滞留書に自身の名を署名しなければならない。一定の期間ごとに忘れずにだ。それにより滞留書が更新され、引き続き地上に留まれるようになる》

 滞留書には、寿命が来るまで地上で人として生きたいという旨が書かれている。そこに署名した聖威師だけが、地上に留まる特例を適用される。

《署名を失念してしまえば、寿命が残っていても強制昇天だ。滞留書は大神官ないし神官長が交代で管理し、聖威師全員の署名をまとめて行っている》
《現在はフルード様が管理担当ということですわね》
《ああ。正確には、管理しているのは原紙ではなく複製――写しの方だ。滞留書は二通ある。原紙は天界で、写しは地上で、それぞれ保管しているんだ》

 ここで、説明を任せていたフルードが言葉を繋いだ。

《滞留書は所定の部屋で更新しています。万々が一、署名中に不測の事態が発生する可能性を踏まえ、更新は予備員も含め聖威師が二名以上で行うことが推奨されています。今回は私とアリステルが担当しました》

 妻の解説を聞いている内に冷静になったのか、先ほどよりは平らかさを取り戻した声だ。

《更新の手順は簡単です。専用のペンを用いて写しに署名を書き入れ、更新室にある光の箱に入れると、天界にある原紙に記入内容が転記されます。原紙も同じ光の箱に入っており、天地にある二つの箱同士が繋がっているのです》

 滑らかに話していた声が、ここで曇る。

《……ですが先ほど確認したところ、その繋がりが断たれていました。前回の更新後、写しを箱から出して私の手元に戻し、更新室を聖威で施錠する際に、聖威師が複数で異常が無いか確認しています》

 その時には、光の箱にも更新室自体にも、間違いなく異変は無かったという。そのまま施錠し、誰も一切触れないままで今日開けたところ、何故か箱が天界と繋がらなくなっていたという。

(どうしてそんなことになったのかしら。誰も入っていないし、触ってもいないのよね?)
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