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第4章
13.コキュッにご用心
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「わたくしもフロース様からお聞きし、衝撃を受けましたわ。まさかそのような事情があったなど……」
ほぅと嘆息するリーリアに、アシュトンが憂いを帯びた面差しで告げる。
「覚醒した怒れる神たちは、やはりまだ激昂を解かれていない。一眠りしたことで多少冷静にはなられているようだが……」
三千余年前、神の同胞を――愛し子を傷付けてしまったのがまずかった。それさえなければ、他のことであれば、取り合う価値なしと打ち捨ててくれる神々も大勢いたのだ。
だが、怒れる神々はまだ本気で爆発してはいない。それは何故か。
抵抗できる力を持っているのに、人への遠慮でやらなかった愛し子側。最初に警告や制止を発した段階で、もっと毅然と人間を止めていなかった神側。両者にも落ち度があった。それを認識しているからだ。
神格を持つ存在がその気になれば、人間ごとき幾らでもねじ伏せられていたのに、それをやらなかった。
まだ人を見捨て切れていなかったこと、もはや人の領域となった地上への干渉を躊躇したことなどが、警告が甘くなった原因の一つなのだが――そうして神側が中途半端な対応しかしなかったことも、人間を増長させた一因だ。要するに、自業自得の面もある。
そして何より、大切な同胞の雛たちが――天威師と聖威師が、人間の盾となる形で地上にいる。神性を抑えた無力な雛たちを踏み潰すことはできない。一眠りして少しは気分も落ち着いた。
それらが合わさり、神罰牢行きの罰の決行を思い留まっているという。
そう考えると、疫神のように世界への興味関心がなく、遊び感覚で何もかもをぶち壊す神の方が、ある意味では怒れる神々より危険とも言える。一切の配慮や譲歩心がないからだ。
とはいえ、深刻な状況であることに変わりはない。
「怒れる神々の中には、天威師と聖威師を強制昇天させたいと考える者たちもいるそうだ。そうすれば心置きなく地上と人間へ罰を落とせると。天威師と聖威師にとっては喜ばしくない状況だ。ここに来て強硬派が一気に増える可能性が出て来た」
遥か昔から眠っていた神々の中にも、三千年前の出来事を聞いたことで、人間に嫌悪感を募らせる者も出ているという。
「しかし、目覚めた神々で、穏健派や尊重派にいく方々も一定数いらっしゃるそうです。魔神様が、雛たちは被虐趣味でもないのに必死で頑張っておるのじゃ、小さき心を尊重するのじゃ~、無理矢理ダメ、絶対! と必死で説得して下さっているとか」
選ばれし神である魔神クロウエンの言葉は、神々にとって最高レベルに重い。加えて、神々の長男長女である葬邪神と煉神が共に尊重派だ。それも加味して、どうにか三竦みの拮抗状態が維持されそうな気配だという。
「父神……水神も、私を経由して同じ情報をアマーリエたちに伝えようとされていた。けど、ウェイブと嵐神様が先に持って来てくれたんだ。パパさんの主神である狼神様は太古の神。私たち若神のように、ひょいひょいとは動かない。情報を流すなら自分たちだって言って」
そう述べるフロース自身は、特別降臨してリーリアの側にいるため、天界の情報にはやや疎くなっている状態だ。フレイムとラミルファも同様だろう。
「ここだけの話、葬邪神様が降臨されたのは、まだカッカしている怒り神たちが本気で過激な行動に出る可能性を見越して、聖威師たちを近くで守ろうとなさっているのかもしれない」
天界の方は煉神が目を光らせ、本格的に手荒な手段に及びそうな動きがないか注視しているという。
「ただ、その理屈でいえば、主神や包翼神、最強神器の守りがないライナスや佳良たちの方が危険だ。アリステルだって危ない。なのに葬邪神様は、彼らではなくアマーリエの側にいる。そこが不可解なんだけど。単に暴れ神を近くで監視しているだけかな」
「一の兄上が降臨した理由は一つではない。泡神様が言った通り、聖威師たち全体の警護も含まれているだろうが……もっと別の理由も併合しているということだよ」
ラミルファが肩を竦めた。羽を伸ばして気分転換したいから特別降臨したんだなぁ、などというふざけた言い分を信じている者などいない。葬邪神自身も勘ぐられていることは分かっているはずだが、涼しい顔で受け流している。
「今述べたことは、天威師方ももちろんご存知です。他の聖威師たちにも、現状を念話で伝えました」
繊細な美貌に憂慮を滲ませたフルードが、アマーリエたちを見回す。
「アマーリエ、リーリア。聖獣たちも。念のため、今後しばらくは夜道に注意して下さい。密かに降臨して背後から付け狙い、こちらの首をコキュッとして強制昇天させようとする神がいらっしゃるもしれません」
(コ、コキュッ……)
恐ろしいことをサラッと言われ、顔が引き攣る。
「擬音語は可愛いんだが内容は物騒だな」
空間がチカッと光り、苦笑を孕んだ声と共に、フレイムが音もなく降り立った。
ほぅと嘆息するリーリアに、アシュトンが憂いを帯びた面差しで告げる。
「覚醒した怒れる神たちは、やはりまだ激昂を解かれていない。一眠りしたことで多少冷静にはなられているようだが……」
三千余年前、神の同胞を――愛し子を傷付けてしまったのがまずかった。それさえなければ、他のことであれば、取り合う価値なしと打ち捨ててくれる神々も大勢いたのだ。
だが、怒れる神々はまだ本気で爆発してはいない。それは何故か。
抵抗できる力を持っているのに、人への遠慮でやらなかった愛し子側。最初に警告や制止を発した段階で、もっと毅然と人間を止めていなかった神側。両者にも落ち度があった。それを認識しているからだ。
神格を持つ存在がその気になれば、人間ごとき幾らでもねじ伏せられていたのに、それをやらなかった。
まだ人を見捨て切れていなかったこと、もはや人の領域となった地上への干渉を躊躇したことなどが、警告が甘くなった原因の一つなのだが――そうして神側が中途半端な対応しかしなかったことも、人間を増長させた一因だ。要するに、自業自得の面もある。
そして何より、大切な同胞の雛たちが――天威師と聖威師が、人間の盾となる形で地上にいる。神性を抑えた無力な雛たちを踏み潰すことはできない。一眠りして少しは気分も落ち着いた。
それらが合わさり、神罰牢行きの罰の決行を思い留まっているという。
そう考えると、疫神のように世界への興味関心がなく、遊び感覚で何もかもをぶち壊す神の方が、ある意味では怒れる神々より危険とも言える。一切の配慮や譲歩心がないからだ。
とはいえ、深刻な状況であることに変わりはない。
「怒れる神々の中には、天威師と聖威師を強制昇天させたいと考える者たちもいるそうだ。そうすれば心置きなく地上と人間へ罰を落とせると。天威師と聖威師にとっては喜ばしくない状況だ。ここに来て強硬派が一気に増える可能性が出て来た」
遥か昔から眠っていた神々の中にも、三千年前の出来事を聞いたことで、人間に嫌悪感を募らせる者も出ているという。
「しかし、目覚めた神々で、穏健派や尊重派にいく方々も一定数いらっしゃるそうです。魔神様が、雛たちは被虐趣味でもないのに必死で頑張っておるのじゃ、小さき心を尊重するのじゃ~、無理矢理ダメ、絶対! と必死で説得して下さっているとか」
選ばれし神である魔神クロウエンの言葉は、神々にとって最高レベルに重い。加えて、神々の長男長女である葬邪神と煉神が共に尊重派だ。それも加味して、どうにか三竦みの拮抗状態が維持されそうな気配だという。
「父神……水神も、私を経由して同じ情報をアマーリエたちに伝えようとされていた。けど、ウェイブと嵐神様が先に持って来てくれたんだ。パパさんの主神である狼神様は太古の神。私たち若神のように、ひょいひょいとは動かない。情報を流すなら自分たちだって言って」
そう述べるフロース自身は、特別降臨してリーリアの側にいるため、天界の情報にはやや疎くなっている状態だ。フレイムとラミルファも同様だろう。
「ここだけの話、葬邪神様が降臨されたのは、まだカッカしている怒り神たちが本気で過激な行動に出る可能性を見越して、聖威師たちを近くで守ろうとなさっているのかもしれない」
天界の方は煉神が目を光らせ、本格的に手荒な手段に及びそうな動きがないか注視しているという。
「ただ、その理屈でいえば、主神や包翼神、最強神器の守りがないライナスや佳良たちの方が危険だ。アリステルだって危ない。なのに葬邪神様は、彼らではなくアマーリエの側にいる。そこが不可解なんだけど。単に暴れ神を近くで監視しているだけかな」
「一の兄上が降臨した理由は一つではない。泡神様が言った通り、聖威師たち全体の警護も含まれているだろうが……もっと別の理由も併合しているということだよ」
ラミルファが肩を竦めた。羽を伸ばして気分転換したいから特別降臨したんだなぁ、などというふざけた言い分を信じている者などいない。葬邪神自身も勘ぐられていることは分かっているはずだが、涼しい顔で受け流している。
「今述べたことは、天威師方ももちろんご存知です。他の聖威師たちにも、現状を念話で伝えました」
繊細な美貌に憂慮を滲ませたフルードが、アマーリエたちを見回す。
「アマーリエ、リーリア。聖獣たちも。念のため、今後しばらくは夜道に注意して下さい。密かに降臨して背後から付け狙い、こちらの首をコキュッとして強制昇天させようとする神がいらっしゃるもしれません」
(コ、コキュッ……)
恐ろしいことをサラッと言われ、顔が引き攣る。
「擬音語は可愛いんだが内容は物騒だな」
空間がチカッと光り、苦笑を孕んだ声と共に、フレイムが音もなく降り立った。
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