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第4章
18.さっさと退室するに限る
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《けれどそんな事情があるなら、当代の大精霊はどうして先代をこの場にいさせるのでしょう?》
フレイムが懇親会に参加することは、先ほど急に決まったことだ。精霊側も予想できなかっただろう。だが、先代の大精霊を一時天界に還すなり、別室に控えさせるなりして、フレイムと会わせないことはできたはずだ。
《当代の大精霊は、先代の虐めのことをご存知ですよね?》
《あー……当代は先代とめちゃくちゃ仲が悪かったんだ。そりゃもう犬猿の仲だったから、先代が一番いたたまれなくなるような状況をチョイスしてるんじゃね?》
それで仕えるべき神であるフレイムを困らせていたら、元も子もない気がするのだが。
黙って聞いていたアシュトンが言葉を挟んだ。
《根拠のない憶測なのですが、当代は善意のつもりでやっている気もいたします。落ちぶれた先代の姿を見せ、焔神様に溜飲を下げていただきたいと、心配りをしたつもりなのでは?》
《有り得るな。焔神様はもはや絶対的な勝者かつ上位者になったのだから、再会させても問題ないと思ったのではないだろうか》
《いや、別に勝者とかじゃねえし……つか勝負してねえし……》
愛し子の言葉に賛同した嵐神に、フレイムが消え入りそうな声で反論する。アマーリエは肩をすぼめた。
《精霊ってもっと高尚な存在だと思っていました……》
《精霊にだって喜怒哀楽や意思がある。もっと言えば、感情や欲、嫉妬心もある。崇高な奴もいれば小狡い奴もいるんだぜ。足の引っ張り合いや、精霊同士の対立も起こるしな。けど、火神専属の精霊や神使、下働きに関しては、今の時点では問題のある奴はいない》
問題があった者は、もれなくフレイムの一件で自爆したからだろう。だからこそフレイムは、最初にラモスとディモスを神使として選定したのだ。虐めを行うような者はいないと把握していたから、安心して二頭を召し上げた。
《当代の大精霊も悪い奴じゃねえから。ちょっと根に持つ性格なだけで、指導や評価は真っ当にするしな》
フォローしているのかいないのか分からない言葉を聞きながら、アマーリエは、後方にズラリと並んでひれ伏している精霊たちを眺めた。
《ねえフレイム、先代の大精霊ってどちらにいるの?》
《……あーそうだな、今後会うかもしれねえし知っといた方が良いか。俺らの向きから見て最後列の左から三番目、髪が縮れてる奴だ》
該当する精霊に目をやるが、平伏しているので容姿が分からない。聖威で透視してみると、整った顔を強張らせてじっと床を見ている様子が確認できた。
《へえ、結構美形じゃない。ちょっとつり目なのね》
呟きながらフレイムを見ると、彼も彼でひたすら明後日の方を見ている。
《フレイム、早く退室したい?》
《……ああ、まぁな。だが、大精霊と主任たちがまだ打ち合わせしてる》
《早くしろと注意すれば良い。神が使役に気を遣う必要などない》
《けど、俺たちが急に来たせいでアイツらの仕事が増えちまったんだし》
《関係ない。そういった事態に対応することも使役の務め。焔神様は下の者に優しすぎる》
かつてフルードがアシュトンに言われていたことと全く同じ台詞を、今度はフレイムが嵐神に言われている。似た者兄弟だ。笑いを堪えたアマーリエは、『色々と教えて下さってありがとうございます』と嵐神に念話で礼を言ってから、軽く息を吸い込んで肉声を放った。
「ああ、懇親会が楽しみ。早く行きたいわ」
独り言のように、だが段下に聞こえる声量に調節して言う。大精霊と主任たちがハッとこちらを見た。
「アシュトン様、楽しみですね」
「そうだな、きっともうすぐ会場に案内されるだろう」
仕方ないなぁ、という顔で苦笑したアシュトンが合わせてくれる。
『お待たせしており、大変申し訳ございません』
すぐさま大精霊が礼をした。後ろで主任神官と副主任神官も頭を下げる。
『それではご案内させていただきます』
ちょうど区切りが付いたところだったのか、陰でこっそり念話網を展開して打ち合わせの続きを高速でしているのか。ともかく、会場に行けるようだ。
「おいで、ローナ」
「はい、嵐神様」
嵐神が立ち上がり、笑顔でアシュトンに声をかける。
「ユフィー、行こう」
フレイムもアマーリエに手を差し出した。山吹色の目が温かさを宿している。
《ありがとうな。助かったぜ》
同時に念話が届く。感謝と安堵、そして甘さと愛しさを含んだ優しい声だ。
「ええ」
《ううん、良いの》
大精霊たちを暗に急かしてしまったことは申し訳ないが、困っている夫の役に立てたなら良かった。精一杯上品に見えるよう微笑んだアマーリエは、フレイムに手を引かれながら段を降りた。
フレイムが懇親会に参加することは、先ほど急に決まったことだ。精霊側も予想できなかっただろう。だが、先代の大精霊を一時天界に還すなり、別室に控えさせるなりして、フレイムと会わせないことはできたはずだ。
《当代の大精霊は、先代の虐めのことをご存知ですよね?》
《あー……当代は先代とめちゃくちゃ仲が悪かったんだ。そりゃもう犬猿の仲だったから、先代が一番いたたまれなくなるような状況をチョイスしてるんじゃね?》
それで仕えるべき神であるフレイムを困らせていたら、元も子もない気がするのだが。
黙って聞いていたアシュトンが言葉を挟んだ。
《根拠のない憶測なのですが、当代は善意のつもりでやっている気もいたします。落ちぶれた先代の姿を見せ、焔神様に溜飲を下げていただきたいと、心配りをしたつもりなのでは?》
《有り得るな。焔神様はもはや絶対的な勝者かつ上位者になったのだから、再会させても問題ないと思ったのではないだろうか》
《いや、別に勝者とかじゃねえし……つか勝負してねえし……》
愛し子の言葉に賛同した嵐神に、フレイムが消え入りそうな声で反論する。アマーリエは肩をすぼめた。
《精霊ってもっと高尚な存在だと思っていました……》
《精霊にだって喜怒哀楽や意思がある。もっと言えば、感情や欲、嫉妬心もある。崇高な奴もいれば小狡い奴もいるんだぜ。足の引っ張り合いや、精霊同士の対立も起こるしな。けど、火神専属の精霊や神使、下働きに関しては、今の時点では問題のある奴はいない》
問題があった者は、もれなくフレイムの一件で自爆したからだろう。だからこそフレイムは、最初にラモスとディモスを神使として選定したのだ。虐めを行うような者はいないと把握していたから、安心して二頭を召し上げた。
《当代の大精霊も悪い奴じゃねえから。ちょっと根に持つ性格なだけで、指導や評価は真っ当にするしな》
フォローしているのかいないのか分からない言葉を聞きながら、アマーリエは、後方にズラリと並んでひれ伏している精霊たちを眺めた。
《ねえフレイム、先代の大精霊ってどちらにいるの?》
《……あーそうだな、今後会うかもしれねえし知っといた方が良いか。俺らの向きから見て最後列の左から三番目、髪が縮れてる奴だ》
該当する精霊に目をやるが、平伏しているので容姿が分からない。聖威で透視してみると、整った顔を強張らせてじっと床を見ている様子が確認できた。
《へえ、結構美形じゃない。ちょっとつり目なのね》
呟きながらフレイムを見ると、彼も彼でひたすら明後日の方を見ている。
《フレイム、早く退室したい?》
《……ああ、まぁな。だが、大精霊と主任たちがまだ打ち合わせしてる》
《早くしろと注意すれば良い。神が使役に気を遣う必要などない》
《けど、俺たちが急に来たせいでアイツらの仕事が増えちまったんだし》
《関係ない。そういった事態に対応することも使役の務め。焔神様は下の者に優しすぎる》
かつてフルードがアシュトンに言われていたことと全く同じ台詞を、今度はフレイムが嵐神に言われている。似た者兄弟だ。笑いを堪えたアマーリエは、『色々と教えて下さってありがとうございます』と嵐神に念話で礼を言ってから、軽く息を吸い込んで肉声を放った。
「ああ、懇親会が楽しみ。早く行きたいわ」
独り言のように、だが段下に聞こえる声量に調節して言う。大精霊と主任たちがハッとこちらを見た。
「アシュトン様、楽しみですね」
「そうだな、きっともうすぐ会場に案内されるだろう」
仕方ないなぁ、という顔で苦笑したアシュトンが合わせてくれる。
『お待たせしており、大変申し訳ございません』
すぐさま大精霊が礼をした。後ろで主任神官と副主任神官も頭を下げる。
『それではご案内させていただきます』
ちょうど区切りが付いたところだったのか、陰でこっそり念話網を展開して打ち合わせの続きを高速でしているのか。ともかく、会場に行けるようだ。
「おいで、ローナ」
「はい、嵐神様」
嵐神が立ち上がり、笑顔でアシュトンに声をかける。
「ユフィー、行こう」
フレイムもアマーリエに手を差し出した。山吹色の目が温かさを宿している。
《ありがとうな。助かったぜ》
同時に念話が届く。感謝と安堵、そして甘さと愛しさを含んだ優しい声だ。
「ええ」
《ううん、良いの》
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