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第4章
20.エイールとバルド
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「この者たちが焔神様と拝謁させていただくのは初めてかと思います。名を述べることをお許し願えますでしょうか?」
「許す」
アシュトンが伺いを立て、フレイムが一言で許可を出した。それを受け、女性が名乗りを上げる。
「紅蓮の大神様に申し上げます。私はエイール・ルシィ・クローレンと申します。この度の神使選定において、畏れ多くも嵐神様よりお慈悲を頂戴いたしました」
「同じく、バルド・ハオス・クローレンと申します。川神様の大御心をいただいております」
続いて男性も口を開いた。川の神はオーネリアの主神だ。
(エイールさんとバルドさんは夫婦だったわよね。本祭の少し前に結婚していたはず)
丸覚えした神官たちの身上書を脳内でめくりながら思い出す。なかなか複雑な経歴の持ち主だったので、記憶に残っていた。
なお、真価を解放した神は万能な存在になるため、何かに対してわざわざ調査や確認、記憶や学習をすることはない。森羅万象を瞬時に掌握できるので、調べたり覚えたり学んだりする必要がないからだ。だが、普段は真価を抑え、万全とは程遠い状態になっているため、そのような行為も必要になる。神格自体を押し秘めている聖威師ともなればなおさらだ。
「己の主によく仕えろ」
フレイムが短く激励した。エイールとバルドが姿勢を正して首肯する。
「この者たちはエイリスト王国の出身です。属国からも神官が見出されたのは喜ばしいことでしょう」
大精霊が言葉を挟んだ。エイールたちのフォローをしたつもりなのだろうが、二人は明らかに気配を硬化させた。事前に彼らの経歴を確認していたアマーリエは、その反応にも納得できた。
(エイールさんはエイリスト王国先代王の愛人の娘なのよね。先代王の王妃と兄から疎まれていて、酷い扱いを受けていた……)
先代王たる父が亡くなり、兄が王位を継ぐと、いよいよ辛い立場に追いやられたらしい。
(たった15歳で、70歳のお爺さん貴族と結婚させられかけて、間一髪でバルドさんと逃げて来たらしいけれど)
エイールが押し付けられそうになった相手が、バルドの祖父だという。こんな結婚はあんまりだと憤慨したバルドが、エイールの婚姻を無効にするために協力したらしい。
(今はエイールさんもバルドさんも実家から勘当されていて、もう付き合いもないとか)
エイールがいたエイリスト王家も、バルドの実家も、祖父と孫娘ほどの年齢差がある結婚を強行しようとした家だ。絶縁して正解だったのだろう。
バルドは元々、エイリストの神官府から中央本府に出向していた。エイールも、婚姻無効の騒動で霊威を持つことが分かり、二人でここに所属することになったそうだ。
「神官エイールはアマーリエと同い年だったな」
会話を膨らませようとしたのか、アシュトンが話を振ってきた。
「はい。……同年代の神官と話せるのは嬉しいわ、エイール。今後ともよろしくね」
「畏れ多き御言葉を賜わり、恐縮でございます」
(そんなに硬くならなくても。もっと普通に話してくれて良いのよ)
ガチガチに緊張した様子で頭を下げるエイールに、こちらまで背筋に力が入ってしまう。
「あー……嵐神様。せっかく来たんだ、俺たちは会場を一回りしようぜ。未来の神使の顔をざっと見とくのも悪かねえだろ」
「ああ、私は構わない」
フレイムが口を挟んだ。自分たちがいるせいでエイールの緊張度合いが高まっていることを分かっているのだ。相手が聖威師だけであれば、ここまで硬くはならない。
「ユフィー、アシュトン、ちょっと行って来る。そんなかからねえと思うから。んじゃテーブルを順に案内してくれ」
『承りました』
嵐神を伴い、フレイムが歩き出す。去り際、アマーリエに向かって軽くウィンクしてみせた。自分たちがいない隙に話せという心遣いだろう。目礼して二神を見送った後、アマーリエは改めてエイールとバルドに向き直った。
「エイール、バルド。私たちだけになったし、もっと楽にしてちょうだい」
「許す」
アシュトンが伺いを立て、フレイムが一言で許可を出した。それを受け、女性が名乗りを上げる。
「紅蓮の大神様に申し上げます。私はエイール・ルシィ・クローレンと申します。この度の神使選定において、畏れ多くも嵐神様よりお慈悲を頂戴いたしました」
「同じく、バルド・ハオス・クローレンと申します。川神様の大御心をいただいております」
続いて男性も口を開いた。川の神はオーネリアの主神だ。
(エイールさんとバルドさんは夫婦だったわよね。本祭の少し前に結婚していたはず)
丸覚えした神官たちの身上書を脳内でめくりながら思い出す。なかなか複雑な経歴の持ち主だったので、記憶に残っていた。
なお、真価を解放した神は万能な存在になるため、何かに対してわざわざ調査や確認、記憶や学習をすることはない。森羅万象を瞬時に掌握できるので、調べたり覚えたり学んだりする必要がないからだ。だが、普段は真価を抑え、万全とは程遠い状態になっているため、そのような行為も必要になる。神格自体を押し秘めている聖威師ともなればなおさらだ。
「己の主によく仕えろ」
フレイムが短く激励した。エイールとバルドが姿勢を正して首肯する。
「この者たちはエイリスト王国の出身です。属国からも神官が見出されたのは喜ばしいことでしょう」
大精霊が言葉を挟んだ。エイールたちのフォローをしたつもりなのだろうが、二人は明らかに気配を硬化させた。事前に彼らの経歴を確認していたアマーリエは、その反応にも納得できた。
(エイールさんはエイリスト王国先代王の愛人の娘なのよね。先代王の王妃と兄から疎まれていて、酷い扱いを受けていた……)
先代王たる父が亡くなり、兄が王位を継ぐと、いよいよ辛い立場に追いやられたらしい。
(たった15歳で、70歳のお爺さん貴族と結婚させられかけて、間一髪でバルドさんと逃げて来たらしいけれど)
エイールが押し付けられそうになった相手が、バルドの祖父だという。こんな結婚はあんまりだと憤慨したバルドが、エイールの婚姻を無効にするために協力したらしい。
(今はエイールさんもバルドさんも実家から勘当されていて、もう付き合いもないとか)
エイールがいたエイリスト王家も、バルドの実家も、祖父と孫娘ほどの年齢差がある結婚を強行しようとした家だ。絶縁して正解だったのだろう。
バルドは元々、エイリストの神官府から中央本府に出向していた。エイールも、婚姻無効の騒動で霊威を持つことが分かり、二人でここに所属することになったそうだ。
「神官エイールはアマーリエと同い年だったな」
会話を膨らませようとしたのか、アシュトンが話を振ってきた。
「はい。……同年代の神官と話せるのは嬉しいわ、エイール。今後ともよろしくね」
「畏れ多き御言葉を賜わり、恐縮でございます」
(そんなに硬くならなくても。もっと普通に話してくれて良いのよ)
ガチガチに緊張した様子で頭を下げるエイールに、こちらまで背筋に力が入ってしまう。
「あー……嵐神様。せっかく来たんだ、俺たちは会場を一回りしようぜ。未来の神使の顔をざっと見とくのも悪かねえだろ」
「ああ、私は構わない」
フレイムが口を挟んだ。自分たちがいるせいでエイールの緊張度合いが高まっていることを分かっているのだ。相手が聖威師だけであれば、ここまで硬くはならない。
「ユフィー、アシュトン、ちょっと行って来る。そんなかからねえと思うから。んじゃテーブルを順に案内してくれ」
『承りました』
嵐神を伴い、フレイムが歩き出す。去り際、アマーリエに向かって軽くウィンクしてみせた。自分たちがいない隙に話せという心遣いだろう。目礼して二神を見送った後、アマーリエは改めてエイールとバルドに向き直った。
「エイール、バルド。私たちだけになったし、もっと楽にしてちょうだい」
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