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第5章
22.遊運命神の降臨
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「「ええ!?」」
聖威師全員が大合唱で青ざめた。そんなことになれば万事休すだ。
『尊重派は強硬派を止めようとして、聖威師の主神たちは派閥に関わらず愛し子が心配だと駆け付けようとしている。それで天界が大騒ぎになっていて、葬邪神様はこちらに来られていないらしい』
『マジかよ、クソッ』
炎の剣を召喚し、戦神の湾刀と熾烈な打ち合いを繰り広げているフレイムが舌打ちした。
『あと一押しがあれば、本当に神々が突撃してしまうと――』
フロースが言い止し、表情を一変させた。
漆黒の靄が立ち込める。空間が膜のように揺れ、氷の礫が飛来した。水の剣を出現させたフロースが刃を一閃させて弾く。靄の中から、スルリと影が一つ滑り出た。
『おっ、シュナじゃん!』
『貴殿も来たのか』
フレイムと剣を交わす戦神が片手を振り、ラミルファ相手に刃を合わせる闘神も声をかけた。
「恐れながら、運命神様でいらっしゃいますか?」
「お初にお目にかかります」
音もなく降り立った新たな神を認め、フルードとアリステルが結界の内側ギリギリまで進み出た。遊運命神はレシスの血統と深い因縁がある。どうにかして会いたいと思っていただろう。彼さえ懐柔できれば、神罰そのものを消してもらうことも可能になるのだから。アマーリエも彼を凝視する。
(この方がルファリオン様とは別の運命神様……)
外見的な性別は男性。身長は中の丈くらい。小柄ではないが、フレイムやフロース、葬邪神など上背がある神に比べれば低い。
腰まである長い髪は、深夜を連想させるミッドナイトブルー。双眸は若干青みを帯びた鉛色。恐ろしく整ってはいるが血色の悪い顔。瞳がやや垂れ目なのは元々なのか、まだ眠くて眼瞼が下がっているだけなのか。目の下にはうっすらとクマがある。ゆったりと頷き、肯定を示した神が言う。
『左様だ。幼き雛神たちを救いに来た。然るに、ただ神威を降ろすのみでは主神が阻んでしまう。レイ、リオと話をした後で考えたが、かくなる上は私が自ら降りて手を下す他なし』
何がかくなる上だ、この寝ぼすけ野郎……とツッコんでくれるフレイムは絶賛戦闘中だ。
至って大真面目な遊運命神だが、戦神と闘神の言葉を信じるならば、まだ完全覚醒はしていないらしい。
『聖威師たちに手は出させません』
フロースが静かに目の前の神を見た。手には神水でできた剣が握られたままだ。
『私も聖威師たちに天へ戻って欲しいと思ってはおりますが、当人の声を聞かず無理矢理手にかけるのは強引すぎましょう』
遊運命神が気遣いと慈しみを湛えた眼差しを向ける。
『そうだな……まだ地上にいたい、表向きはそういうことにしているのだろう』
「いえ、表も裏もそうです!」
アマーリエは心から主張した。うんうん、分かってる分かってる、と言いたげに遊運命神が優しく頷くが、彼は多分何も分かっていない。色んな意味で。
『あなたはずっとお眠りだったはず。聖威師たちが本当は無理をしているというのは、何処から得た情報ですか?』
『ああ、神官から聞いた。ついこの前、私が覚醒しかかっていた際に交信して来た神官がいたのだ』
フロースの問いにサラリと答える遊運命神。アマーリエたちが固まった。空中戦の真っ只中だったフレイムとラミルファも片眉を跳ね上げる。
『私が眠りに入った過去の時点で、聖威師は既に神官府の長となっていた。だが、まさか斯様に辛き思いをしながら耐えていたとは知らなんだ。これは一大事と思い、すぐに雛たちを救おうと思うたのだ』
「お、お待ち下さい、先ほどの御言葉はどういうことでしょうか。交信して来た神官とは――」
だが言い終わる前に、大気に縦一直線の亀裂が入る。裂け目から無数の御稜威が噴き出した。多くは無色透明だが、色が付いているものも幾らか混じっている。
『聖威師を天に戻せ!』
『首を獲るか心臓を一突きしろ!』
『こちらに引きずり込んでしまえば良いのよ!』
ヤバい感じに目を血走らせた神々が、裂傷を押し広げて出現した。もしかしなくても強硬派だろう。
『待たんかお前らっ!』
『無理矢理は良くないでしょう!』
それを止めようとする神々も顕現し、強硬派の神々にしがみつく。空間に入った裂け目が広がり、虚空がビキビキとひび割れる。
『佳良――我が愛し子よ!』
『ローナ!』
『フェル、フェルー!』
押し合いへし合いしている神々の隙間から、血相を変えた主神たちが体をねじ込ませて飛び込んで来た。一拍後、亀裂から生じたヒビが蜘蛛の巣状に広がり、空間が大きく砕け散った。大勢の神々が一斉に降臨し、聖威師たちへ向けて殺到する。
「きゃああああああああっ!」
アマーリエは隣にいたリーリアと抱き合って悲鳴を上げた。
聖威師全員が大合唱で青ざめた。そんなことになれば万事休すだ。
『尊重派は強硬派を止めようとして、聖威師の主神たちは派閥に関わらず愛し子が心配だと駆け付けようとしている。それで天界が大騒ぎになっていて、葬邪神様はこちらに来られていないらしい』
『マジかよ、クソッ』
炎の剣を召喚し、戦神の湾刀と熾烈な打ち合いを繰り広げているフレイムが舌打ちした。
『あと一押しがあれば、本当に神々が突撃してしまうと――』
フロースが言い止し、表情を一変させた。
漆黒の靄が立ち込める。空間が膜のように揺れ、氷の礫が飛来した。水の剣を出現させたフロースが刃を一閃させて弾く。靄の中から、スルリと影が一つ滑り出た。
『おっ、シュナじゃん!』
『貴殿も来たのか』
フレイムと剣を交わす戦神が片手を振り、ラミルファ相手に刃を合わせる闘神も声をかけた。
「恐れながら、運命神様でいらっしゃいますか?」
「お初にお目にかかります」
音もなく降り立った新たな神を認め、フルードとアリステルが結界の内側ギリギリまで進み出た。遊運命神はレシスの血統と深い因縁がある。どうにかして会いたいと思っていただろう。彼さえ懐柔できれば、神罰そのものを消してもらうことも可能になるのだから。アマーリエも彼を凝視する。
(この方がルファリオン様とは別の運命神様……)
外見的な性別は男性。身長は中の丈くらい。小柄ではないが、フレイムやフロース、葬邪神など上背がある神に比べれば低い。
腰まである長い髪は、深夜を連想させるミッドナイトブルー。双眸は若干青みを帯びた鉛色。恐ろしく整ってはいるが血色の悪い顔。瞳がやや垂れ目なのは元々なのか、まだ眠くて眼瞼が下がっているだけなのか。目の下にはうっすらとクマがある。ゆったりと頷き、肯定を示した神が言う。
『左様だ。幼き雛神たちを救いに来た。然るに、ただ神威を降ろすのみでは主神が阻んでしまう。レイ、リオと話をした後で考えたが、かくなる上は私が自ら降りて手を下す他なし』
何がかくなる上だ、この寝ぼすけ野郎……とツッコんでくれるフレイムは絶賛戦闘中だ。
至って大真面目な遊運命神だが、戦神と闘神の言葉を信じるならば、まだ完全覚醒はしていないらしい。
『聖威師たちに手は出させません』
フロースが静かに目の前の神を見た。手には神水でできた剣が握られたままだ。
『私も聖威師たちに天へ戻って欲しいと思ってはおりますが、当人の声を聞かず無理矢理手にかけるのは強引すぎましょう』
遊運命神が気遣いと慈しみを湛えた眼差しを向ける。
『そうだな……まだ地上にいたい、表向きはそういうことにしているのだろう』
「いえ、表も裏もそうです!」
アマーリエは心から主張した。うんうん、分かってる分かってる、と言いたげに遊運命神が優しく頷くが、彼は多分何も分かっていない。色んな意味で。
『あなたはずっとお眠りだったはず。聖威師たちが本当は無理をしているというのは、何処から得た情報ですか?』
『ああ、神官から聞いた。ついこの前、私が覚醒しかかっていた際に交信して来た神官がいたのだ』
フロースの問いにサラリと答える遊運命神。アマーリエたちが固まった。空中戦の真っ只中だったフレイムとラミルファも片眉を跳ね上げる。
『私が眠りに入った過去の時点で、聖威師は既に神官府の長となっていた。だが、まさか斯様に辛き思いをしながら耐えていたとは知らなんだ。これは一大事と思い、すぐに雛たちを救おうと思うたのだ』
「お、お待ち下さい、先ほどの御言葉はどういうことでしょうか。交信して来た神官とは――」
だが言い終わる前に、大気に縦一直線の亀裂が入る。裂け目から無数の御稜威が噴き出した。多くは無色透明だが、色が付いているものも幾らか混じっている。
『聖威師を天に戻せ!』
『首を獲るか心臓を一突きしろ!』
『こちらに引きずり込んでしまえば良いのよ!』
ヤバい感じに目を血走らせた神々が、裂傷を押し広げて出現した。もしかしなくても強硬派だろう。
『待たんかお前らっ!』
『無理矢理は良くないでしょう!』
それを止めようとする神々も顕現し、強硬派の神々にしがみつく。空間に入った裂け目が広がり、虚空がビキビキとひび割れる。
『佳良――我が愛し子よ!』
『ローナ!』
『フェル、フェルー!』
押し合いへし合いしている神々の隙間から、血相を変えた主神たちが体をねじ込ませて飛び込んで来た。一拍後、亀裂から生じたヒビが蜘蛛の巣状に広がり、空間が大きく砕け散った。大勢の神々が一斉に降臨し、聖威師たちへ向けて殺到する。
「きゃああああああああっ!」
アマーリエは隣にいたリーリアと抱き合って悲鳴を上げた。
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