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悪神兄の裏話
☆悪神兄の追憶 疫神編④
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『最初の頃は、顕現して年月が浅いせいだと思っていました。古き神は神威の質が違うのかもしれないとも。数百年、数千年と長じていけば怖れは薄れていくのではないかと思っていました。しかし、フレイムに対してもたまにですが同じ戦慄を覚えるため、どういうことだろうと疑問が湧きました』
そこからは色々な神々と話し、荒神の力に対する態度や反応などもさりげなく確認し、どうやら自分の感覚は和神寄りらしいと察した。本当にごく最近のことだという。
『力は荒神でも心は和神らしいと分かった時には、既に神々には生来の荒神と認知されていました。それは正しいですし、実際、自身の奥に潜む凶悪性を発現したこともあります』
ラミルファは正真正銘、生まれながらの荒神なのだ。だが、性格と感じ方があまりにも和神に近すぎる。
『一の兄上と狼神様には、僕が顕現してから荒神の発散相手を任せられる者が出来て嬉しい、どうか今後も頼むと喜ばれました。鬼神様と怨神様、他の神々にも、ありがとう、これからもよろしくと感謝されるのです』
今になって、実は心が和神みたいなんで荒神怖いんです、とは言えない状況になってしまっていたのだという。
『いや、今からでも、本当のこと言って良い、思うけど……』
呟く疫神だが、それを強要はしない。自分を含む多くの神々がそう思ったとしても、当事者であるラミルファにはラミルファの考えがある。彼が抱える事情にしても、今ここで話したこと以外にも様々あるだろう。そういう諸々を全て含め、当事者が話しにくいというなら、外野がそれを否定する権利はない。
『ですから、怨神様と鬼神様の発散相手をするのが怖いです。一柱でも心身が竦むのに、二神同時に相手取るなど恐怖以外の何物でもありません』
振り絞るような声で告げたラミルファは、数瞬ほど躊躇った後で、おずおずと続けた。
『僕は……一の兄上のことが大好きですが、少し怖いです』
『怖い?』
『以前、三の兄上と一緒に悪戯をした時にお仕置きを受けたことがあります。蔓を鞭状にして打たれました。と言っても、側面が刃になっているわけでもなければ、棘を持つ荊でもない、ごく普通の蔓で……打つ力も十二分に手加減されたものでした』
葬邪神の感覚では、叱るところまでいかず、『こ~ら~』と軽く注意した程度だっただろう。だが、受けた側もそう感じているとは限らない。
『ですが僕は、それすらとても痛くて怖かった……。一の兄上自身は、きつい仕置きを与えたことは一度もないと言います。僕とは感じ方が違うのだと思います』
『アレク、荒神相手のつもりでやった。心が和神、想定外』
ごく軽く数回お尻ペンペンしただけのつもりが、相手にとっては斧で四肢を切り落とされるレベルの精神的苦痛を与えていた、ということだ。ラミルファがその時、素直に恐怖を表出させていれば、葬邪神も気付いただろう。だが、この子はきっと、内面を押し殺して我慢してしまった。
『一の兄上のことは心胆から愛しています。とても優しく、強く大きく、誰より頼りになる存在です。ですが、それはそれとして、怖いのです』
『うん。アレク見る時、ラミの目、思慕でいっぱい。あれ、本心。ラミ、本気でアレク大好き。――でも、怖いか』
『はい。あれ以来、一の兄上が鞭を持っている姿を見るだけで、体が凍り付きそうになります』
『さっき、鞭打たれて痛かった、言ってたな。普通の荒神なら、自分の気で、威力中和できるはず。アレクの気、超絶苛烈。それでも、同じ荒神なら、ある程度は緩和可能。ラミ、それはできる?』
『一応は……。ですが、恐怖で身が竦む方が先に来てしまい、上手く相殺できないのです。こちらも臨戦態勢になっていれば別ですが、一の兄上相手にそのようになることはほとんどありませんから』
体に防御を纏わせても、他の荒神たちが本能的に行うような絶妙な中和はできないそうだ。
『なら、防御も緩和も、ろくにできないのか。実質丸腰、抵抗不可能……それ、かなりしんどい』
むむぅと疫神は唸った。何しろ、片割れの御稜威は疫神や狼神に匹敵する激甚さだ。荒ぶる神とはかくあらん、という程の熾烈な気迫。通常の神相手には加減して抑えているが、大人しかろうと根は荒神だと認識しているラミルファに対しては、配慮も緩むはずだ。
『はい。だからこそ、辛くて苦しくて堪らないのです。誰より愛しく慕わしい兄神なのに、恐怖を感じてしまうこの状況が』
振り絞るような声を聞きながら、よしよしと末弟を抱擁する。
『誰にも言ってないこと、ここまで話してくれた。我、嬉しい。ありがとね』
『二の兄上だけだからです。僕を弱いと言ってくれたのは』
そこからは色々な神々と話し、荒神の力に対する態度や反応などもさりげなく確認し、どうやら自分の感覚は和神寄りらしいと察した。本当にごく最近のことだという。
『力は荒神でも心は和神らしいと分かった時には、既に神々には生来の荒神と認知されていました。それは正しいですし、実際、自身の奥に潜む凶悪性を発現したこともあります』
ラミルファは正真正銘、生まれながらの荒神なのだ。だが、性格と感じ方があまりにも和神に近すぎる。
『一の兄上と狼神様には、僕が顕現してから荒神の発散相手を任せられる者が出来て嬉しい、どうか今後も頼むと喜ばれました。鬼神様と怨神様、他の神々にも、ありがとう、これからもよろしくと感謝されるのです』
今になって、実は心が和神みたいなんで荒神怖いんです、とは言えない状況になってしまっていたのだという。
『いや、今からでも、本当のこと言って良い、思うけど……』
呟く疫神だが、それを強要はしない。自分を含む多くの神々がそう思ったとしても、当事者であるラミルファにはラミルファの考えがある。彼が抱える事情にしても、今ここで話したこと以外にも様々あるだろう。そういう諸々を全て含め、当事者が話しにくいというなら、外野がそれを否定する権利はない。
『ですから、怨神様と鬼神様の発散相手をするのが怖いです。一柱でも心身が竦むのに、二神同時に相手取るなど恐怖以外の何物でもありません』
振り絞るような声で告げたラミルファは、数瞬ほど躊躇った後で、おずおずと続けた。
『僕は……一の兄上のことが大好きですが、少し怖いです』
『怖い?』
『以前、三の兄上と一緒に悪戯をした時にお仕置きを受けたことがあります。蔓を鞭状にして打たれました。と言っても、側面が刃になっているわけでもなければ、棘を持つ荊でもない、ごく普通の蔓で……打つ力も十二分に手加減されたものでした』
葬邪神の感覚では、叱るところまでいかず、『こ~ら~』と軽く注意した程度だっただろう。だが、受けた側もそう感じているとは限らない。
『ですが僕は、それすらとても痛くて怖かった……。一の兄上自身は、きつい仕置きを与えたことは一度もないと言います。僕とは感じ方が違うのだと思います』
『アレク、荒神相手のつもりでやった。心が和神、想定外』
ごく軽く数回お尻ペンペンしただけのつもりが、相手にとっては斧で四肢を切り落とされるレベルの精神的苦痛を与えていた、ということだ。ラミルファがその時、素直に恐怖を表出させていれば、葬邪神も気付いただろう。だが、この子はきっと、内面を押し殺して我慢してしまった。
『一の兄上のことは心胆から愛しています。とても優しく、強く大きく、誰より頼りになる存在です。ですが、それはそれとして、怖いのです』
『うん。アレク見る時、ラミの目、思慕でいっぱい。あれ、本心。ラミ、本気でアレク大好き。――でも、怖いか』
『はい。あれ以来、一の兄上が鞭を持っている姿を見るだけで、体が凍り付きそうになります』
『さっき、鞭打たれて痛かった、言ってたな。普通の荒神なら、自分の気で、威力中和できるはず。アレクの気、超絶苛烈。それでも、同じ荒神なら、ある程度は緩和可能。ラミ、それはできる?』
『一応は……。ですが、恐怖で身が竦む方が先に来てしまい、上手く相殺できないのです。こちらも臨戦態勢になっていれば別ですが、一の兄上相手にそのようになることはほとんどありませんから』
体に防御を纏わせても、他の荒神たちが本能的に行うような絶妙な中和はできないそうだ。
『なら、防御も緩和も、ろくにできないのか。実質丸腰、抵抗不可能……それ、かなりしんどい』
むむぅと疫神は唸った。何しろ、片割れの御稜威は疫神や狼神に匹敵する激甚さだ。荒ぶる神とはかくあらん、という程の熾烈な気迫。通常の神相手には加減して抑えているが、大人しかろうと根は荒神だと認識しているラミルファに対しては、配慮も緩むはずだ。
『はい。だからこそ、辛くて苦しくて堪らないのです。誰より愛しく慕わしい兄神なのに、恐怖を感じてしまうこの状況が』
振り絞るような声を聞きながら、よしよしと末弟を抱擁する。
『誰にも言ってないこと、ここまで話してくれた。我、嬉しい。ありがとね』
『二の兄上だけだからです。僕を弱いと言ってくれたのは』
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