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悪神兄の裏話
☆悪神兄が出す答え 後編
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『は? おい、ディス……』
《これからラミとゲームをして遊ぶ》
唐突に念話が響いた。
《どうしてもというなら、お前も入れてやっても良いぞ。お前が勝てば祝勝として、負ければペナルティで、ブレイの火をもらって頭からぶっかけてやろう》
《勝っても負けても最悪なんだな俺!》
火神一族が使う浄化の火は、悪神にとって壮絶に穢らわしいブツだ。人間でいえば、吐瀉物と排泄物と生ゴミと死にかけのゴキブリを混ぜ合わせ、炎天下で放置して液状になるまで腐らせたものを噴きかけられるに等しい。
《……一体どういう風の吹き回しだ》
以前、あの火を顔面に放射された時のことを思い返し、額を抑えていた葬邪神は、気を取り直して口を開く。
《お前とラミが仲良くなるのは大歓迎だが、この子はれっきとした荒神だ。いざとなれば俺やお前とも対等にやり合える。俺はかつて、その場面に遭遇した。寝ていたお前は知らんのだ。この子の強さを――っておい!》
『では行こう。ラミは何が好きだ?』
『僕は辛党です』
『そうか。では甘みのない菓子にしよう』
自分から念話して来たくせにすっぱり無視し、笑顔の疫神が、同じく笑顔のラミルファを連れて出て行く。悪神仕様の菓子ならばドロドロに腐敗しているので、甘みも何も無い気がするが。
《おーい!?》
《アレク、うるさい。ブレイの火が嫌なら帰れ。……この子の弱さを知らんのはお前の方だ》
肩越しに葬邪神を顧みた疫神と視線がぶつかる。絡み合う二対の漆黒。自分が見たものと得た情報から、真逆の正答を導き出した双眸が。入り混じった視線はすぐに解け、疫神は歩き去って行った。
『……何なんだ、もう……』
後に残された葬邪神は、呆然としたまま呻いたのだった。
◆◆◆
『あっはっはっはっは、皆、大騒ぎ!』
神官府の一角にある天堂にて、疫神は笑い転げていた。天堂には神格を持つ者しか入れない。出入口こそ神官府に設置されているが、地上とは隔絶された次元にあるためだ。その真っ只中で、帰還賛成派と尊重派が、聖威師を巡って混戦状態になっている。
ひときわ激しい神威が逆巻く上方を見遣れば、やり合っている四柱の神はいずれも生来の荒神だった。戦神レイオンと闘神リオネス、焔神フレイム、そして末弟ラミルファ。
『ふぅん、なるほど』
その瞬間、欠けたピースの一つがはまるように得心がいった。ラミルファが他の神に自分の状態を言えない、言いたくないと思っていた理由の一端。
おそらくあの子は、この未来を本能で予感していた。はっきりと分かっていたわけではないはずだ。神は同格以上の神が関わることについては未来を読み切れない。
だが、生まれながらの荒神に関しては、凄まじい嗅覚と空恐ろしい直感がある。それが警告したのだ。いずれこの事態がやって来る。その時、自分の心が和神だと告白してしまっていれば。焔神はラミルファを戦わせまいとして、自分だけで戦闘神の相手を引き受けようと無理をしてしまうだろうと。
その展開を避け、共に聖威師たちを守れるよう、無意識の領域がガードを張った。それが、あの子が告白しようとしなかった理由……の、一つだ。これが全てではない。おそらくもっと大きな理由が他にあるはずだ。本命であるそれは、きっと今後やって来る。だが今、一部だけでも察せたことで少しスッキリした。
ラミルファを視ると、与えた守護のおかげで精神は守られており、恐怖することなく闘神を相手取れているようだった。大切な末弟の心が安全であることを瞬時に確認した疫神は、一つ頷き、パチパチ手を叩いて言った。
『――ドタドタ、バタバタ、楽しそう! 我、一緒に騒ぐ! 皆と遊ぶ!』
それを聞いて分かりやすく狼狽する片割れとブレイズの気配に、また笑みを漏らしながら。
【補足】
最後の天堂でのシーンは、神様に嫌われた神官の第5章23話に繋がります。
《これからラミとゲームをして遊ぶ》
唐突に念話が響いた。
《どうしてもというなら、お前も入れてやっても良いぞ。お前が勝てば祝勝として、負ければペナルティで、ブレイの火をもらって頭からぶっかけてやろう》
《勝っても負けても最悪なんだな俺!》
火神一族が使う浄化の火は、悪神にとって壮絶に穢らわしいブツだ。人間でいえば、吐瀉物と排泄物と生ゴミと死にかけのゴキブリを混ぜ合わせ、炎天下で放置して液状になるまで腐らせたものを噴きかけられるに等しい。
《……一体どういう風の吹き回しだ》
以前、あの火を顔面に放射された時のことを思い返し、額を抑えていた葬邪神は、気を取り直して口を開く。
《お前とラミが仲良くなるのは大歓迎だが、この子はれっきとした荒神だ。いざとなれば俺やお前とも対等にやり合える。俺はかつて、その場面に遭遇した。寝ていたお前は知らんのだ。この子の強さを――っておい!》
『では行こう。ラミは何が好きだ?』
『僕は辛党です』
『そうか。では甘みのない菓子にしよう』
自分から念話して来たくせにすっぱり無視し、笑顔の疫神が、同じく笑顔のラミルファを連れて出て行く。悪神仕様の菓子ならばドロドロに腐敗しているので、甘みも何も無い気がするが。
《おーい!?》
《アレク、うるさい。ブレイの火が嫌なら帰れ。……この子の弱さを知らんのはお前の方だ》
肩越しに葬邪神を顧みた疫神と視線がぶつかる。絡み合う二対の漆黒。自分が見たものと得た情報から、真逆の正答を導き出した双眸が。入り混じった視線はすぐに解け、疫神は歩き去って行った。
『……何なんだ、もう……』
後に残された葬邪神は、呆然としたまま呻いたのだった。
◆◆◆
『あっはっはっはっは、皆、大騒ぎ!』
神官府の一角にある天堂にて、疫神は笑い転げていた。天堂には神格を持つ者しか入れない。出入口こそ神官府に設置されているが、地上とは隔絶された次元にあるためだ。その真っ只中で、帰還賛成派と尊重派が、聖威師を巡って混戦状態になっている。
ひときわ激しい神威が逆巻く上方を見遣れば、やり合っている四柱の神はいずれも生来の荒神だった。戦神レイオンと闘神リオネス、焔神フレイム、そして末弟ラミルファ。
『ふぅん、なるほど』
その瞬間、欠けたピースの一つがはまるように得心がいった。ラミルファが他の神に自分の状態を言えない、言いたくないと思っていた理由の一端。
おそらくあの子は、この未来を本能で予感していた。はっきりと分かっていたわけではないはずだ。神は同格以上の神が関わることについては未来を読み切れない。
だが、生まれながらの荒神に関しては、凄まじい嗅覚と空恐ろしい直感がある。それが警告したのだ。いずれこの事態がやって来る。その時、自分の心が和神だと告白してしまっていれば。焔神はラミルファを戦わせまいとして、自分だけで戦闘神の相手を引き受けようと無理をしてしまうだろうと。
その展開を避け、共に聖威師たちを守れるよう、無意識の領域がガードを張った。それが、あの子が告白しようとしなかった理由……の、一つだ。これが全てではない。おそらくもっと大きな理由が他にあるはずだ。本命であるそれは、きっと今後やって来る。だが今、一部だけでも察せたことで少しスッキリした。
ラミルファを視ると、与えた守護のおかげで精神は守られており、恐怖することなく闘神を相手取れているようだった。大切な末弟の心が安全であることを瞬時に確認した疫神は、一つ頷き、パチパチ手を叩いて言った。
『――ドタドタ、バタバタ、楽しそう! 我、一緒に騒ぐ! 皆と遊ぶ!』
それを聞いて分かりやすく狼狽する片割れとブレイズの気配に、また笑みを漏らしながら。
【補足】
最後の天堂でのシーンは、神様に嫌われた神官の第5章23話に繋がります。
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