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悪神兄の裏話
☆悪神兄が出す答え 前編
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◆◆◆
ラミルファではなく疫神が鬼神と怨神の発散相手になっている。怨神の従神からそれを聞いた葬邪神は、驚愕してすっ飛んで行った。片割れに相手になんぞさせた日には、一緒に遊ぼうと言って暴れまくり、全ての宇宙と次元を瞬く間に消滅させるだろう。
同胞たる神々は傷付けないよう配慮されるので問題ないとしても、消し取んだ森羅万象は復元させなくてはならない。瞬時に元通りにはできるが……それを繰り返せば、どうせ復元すれば良いのだから壊し放題だという考えが、神々の間で標準になってしまう。さすがにそれは良くない。
『ディス――!』
荒神の運動場がある専用領域は、葬邪神と狼神により強固な結界が張られている。その中に駆け込もうとしたところで、スッキリさっぱり爽やかな笑顔で出て来た鬼神と怨神と鉢合わせた。
『あら、葬邪神様。随分とお急ぎなのね』
荒神の紅一点である――神に性別はないというのは置いておいて、女神の姿を取っているという点で紅一点である――鬼神が転瞬した。隣で怨神もキョトリとこちらを見ている。
『無事だったか、セラ、アイ。ディスがお前たちの相手をしていると言うから……』
『ああ、おかげで鬱憤が解消できた。気分爽快だ』
『疫神様がお相手下さると申し出られた時はどうなるかと思ったけれども、終始こちらに打たせるだけで受け身であられたから、安心だったわ』
何だそれは。アイツ頭でも打ったんじゃないか。上機嫌で歩き去る鬼神と怨神を横目で見送り、専用領域へ入る。疫神の気配はまだ中にあった。末弟の気も。まさかラミルファに遊び相手をせがむつもりではないだろうが……と思いつつ内部に目を向け、思いもよらない光景を見て立ち止まった。
『ディス兄上、遊びましょう。僕が相手になってあげます!』
『ラミは荒事をせずとも良い』
青年姿の疫神の袖を引っ張るラミルファと、穏やかな眼差しで宥める片割れ。末弟は今までに見たことがない顔をしていた。心から安心し切った、あどけない笑顔だ。
『ではゲームをしよう。昔、シュナと遊んだことがある。今は寝ているようだが、我と同じで遊戯が好きな神だからな。お前は特別降臨中だというが、少し遊んだ後ですぐに降りれば良いだろう』
『勝った方が好きなお菓子をもらえるというのはどうですか?』
『お前が望む菓子を何でも出してやろう』
長身を屈め、弟と視線を合わせて微笑む疫神の容貌は、驚くほど柔らかい。荒神相手に見せる獰猛な気配はない。これではまるで、通常の神に――非力な和神に向ける態度のようだ。
これはわざと負けてやる気だなと思っていると、一転して気の無い顔に変じた疫神がこちらを見た。
『それで、何をぼぅっと突っ立っておるのだ、アレク』
『いや、お前がセラとアイの相手をしていると聞いたから――』
『それはもう終わった。ここに来る途中のラミと会い、話を聞いて物は試しに代わってもらったのだ』
片割れが不敵に微笑み、漆黒の双眸に怪しい煌めきを宿す。一線を画して強力な荒神の目だ。
『防御に徹するだけなどつまらんと思っておったが、やってみれば中々一興であった。これも一種の遊びと思えば、それなりに面白かった』
と、不穏な空気に気が付かないのか、傍らの末弟がじゃれついた。
『兄上、早く遊びましょう』
まるで、凶暴な獅子の前に腹を見せて寝転がる子猫だ。ヒヤリとした葬邪神だが、疫神は優しく末弟の頭を撫でた。灰緑の目が嬉しそうに細まる。どうやらラミルファには自身の気迫を感じさせないようにしているらしい。
安堵すると同時に、さすがに過保護だと感じた。通常の神ならば得心がいくが、この子は子猫とはいえ一応は同じ肉食獣――荒神であるのに。だが、当の疫神は泰然と続けた。
『今後、荒神の相手は我が行う。今回のように受け身で対処すれば良いのだろう。発散が必要な者が出れば呼べ。ラミにもそう伝えた』
ラミルファではなく疫神が鬼神と怨神の発散相手になっている。怨神の従神からそれを聞いた葬邪神は、驚愕してすっ飛んで行った。片割れに相手になんぞさせた日には、一緒に遊ぼうと言って暴れまくり、全ての宇宙と次元を瞬く間に消滅させるだろう。
同胞たる神々は傷付けないよう配慮されるので問題ないとしても、消し取んだ森羅万象は復元させなくてはならない。瞬時に元通りにはできるが……それを繰り返せば、どうせ復元すれば良いのだから壊し放題だという考えが、神々の間で標準になってしまう。さすがにそれは良くない。
『ディス――!』
荒神の運動場がある専用領域は、葬邪神と狼神により強固な結界が張られている。その中に駆け込もうとしたところで、スッキリさっぱり爽やかな笑顔で出て来た鬼神と怨神と鉢合わせた。
『あら、葬邪神様。随分とお急ぎなのね』
荒神の紅一点である――神に性別はないというのは置いておいて、女神の姿を取っているという点で紅一点である――鬼神が転瞬した。隣で怨神もキョトリとこちらを見ている。
『無事だったか、セラ、アイ。ディスがお前たちの相手をしていると言うから……』
『ああ、おかげで鬱憤が解消できた。気分爽快だ』
『疫神様がお相手下さると申し出られた時はどうなるかと思ったけれども、終始こちらに打たせるだけで受け身であられたから、安心だったわ』
何だそれは。アイツ頭でも打ったんじゃないか。上機嫌で歩き去る鬼神と怨神を横目で見送り、専用領域へ入る。疫神の気配はまだ中にあった。末弟の気も。まさかラミルファに遊び相手をせがむつもりではないだろうが……と思いつつ内部に目を向け、思いもよらない光景を見て立ち止まった。
『ディス兄上、遊びましょう。僕が相手になってあげます!』
『ラミは荒事をせずとも良い』
青年姿の疫神の袖を引っ張るラミルファと、穏やかな眼差しで宥める片割れ。末弟は今までに見たことがない顔をしていた。心から安心し切った、あどけない笑顔だ。
『ではゲームをしよう。昔、シュナと遊んだことがある。今は寝ているようだが、我と同じで遊戯が好きな神だからな。お前は特別降臨中だというが、少し遊んだ後ですぐに降りれば良いだろう』
『勝った方が好きなお菓子をもらえるというのはどうですか?』
『お前が望む菓子を何でも出してやろう』
長身を屈め、弟と視線を合わせて微笑む疫神の容貌は、驚くほど柔らかい。荒神相手に見せる獰猛な気配はない。これではまるで、通常の神に――非力な和神に向ける態度のようだ。
これはわざと負けてやる気だなと思っていると、一転して気の無い顔に変じた疫神がこちらを見た。
『それで、何をぼぅっと突っ立っておるのだ、アレク』
『いや、お前がセラとアイの相手をしていると聞いたから――』
『それはもう終わった。ここに来る途中のラミと会い、話を聞いて物は試しに代わってもらったのだ』
片割れが不敵に微笑み、漆黒の双眸に怪しい煌めきを宿す。一線を画して強力な荒神の目だ。
『防御に徹するだけなどつまらんと思っておったが、やってみれば中々一興であった。これも一種の遊びと思えば、それなりに面白かった』
と、不穏な空気に気が付かないのか、傍らの末弟がじゃれついた。
『兄上、早く遊びましょう』
まるで、凶暴な獅子の前に腹を見せて寝転がる子猫だ。ヒヤリとした葬邪神だが、疫神は優しく末弟の頭を撫でた。灰緑の目が嬉しそうに細まる。どうやらラミルファには自身の気迫を感じさせないようにしているらしい。
安堵すると同時に、さすがに過保護だと感じた。通常の神ならば得心がいくが、この子は子猫とはいえ一応は同じ肉食獣――荒神であるのに。だが、当の疫神は泰然と続けた。
『今後、荒神の相手は我が行う。今回のように受け身で対処すれば良いのだろう。発散が必要な者が出れば呼べ。ラミにもそう伝えた』
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